108階 レッド
ようやく解放され男は地下へと続く階段を期待と股間を膨らませながら降りていた
小一時間・・・男が1度地下に降りてから経った時間
好みの女性もいた
そしてあのサラ・セームンも
抑えきれない衝動を何とか制御しながら地下に降り立ち扉を開ける
「お・・・」
用意していたはずの言葉が出ない
男は呆然と目の前の光景を見て立ち尽くし、背後に人が居る事に気付くのが遅れた
「・・・レッド・・・」
意味の分からない言葉・・・驚き振り向くがそこには既に誰も居なかった
何が起きたのか分からず男は膨らんでいた期待と股間が急速に鎮まるのをただ感じるしかなかった──────
──────1時間前
「・・・もう・・・好きにしろ・・・」
そうは言ったがまだ覚悟は決まっていなかった
最後にローグに会いたい・・・そう強く願い目をギュッと閉じる
だが・・・オードは何もせずただ私の背後に立っているだけだった
そして・・・
「・・・見てはいない・・・」
何の事だ?・・・・・・まさか・・・くっ・・・今更言葉で辱める気か!
そしてオードは何故か牢屋を出ると私の前に立ちおもむろに腰の剣を抜く
辱めるのを止めて殺す気か・・・それらならそっちの方が何倍もマシ・・・
「・・・え?」
だがオードが切ったのは手首に結ばれていた縄のみ・・・私は拘束が解けて自由になると局部を隠しオードを睨みつける
「・・・服を着ろ」
何が起きた?まるで別人・・・いや・・・剣?
オードは確か奇術師と名乗っているが魔法使い・・・剣など腰に差していなかったはず・・・・・・誰?
「ちょっとオードさん!!なんで・・・」
4人の男達がオードの行動を非難する・・・が、オードがチラリと男達の方を見ると男達は顔を強ばらせ後退る
「なんで?・・・そうだな・・・」
そう言ってオードは抜き身の剣を持ったまま4人の元へ
すると1人の男が異変に気付く
「あれ?・・・オードさんなんで剣を?」
私と同じ事に気付く・・・姿形はオードだがあれはオードではない・・・
「ああこれか?これは・・・こうする為だ!『剣気一閃』」
鮮血が舞う
服を着る手を止めて思わず見入ってしまった
オードが剣にマナを纏わせ横に振ると今さっきまで話をしていた男の首が飛び残された体は血を吹き出し倒れる
「えっ!?オ、オードさっ!」
驚く3人の男達
オードは何も答えず無言で隣の男を・・・更にもう1人と斬り殺し、最後に残った男はその場にへたり込みオードを見上げた
「な、なんで・・・どうして・・・だって・・・」
「ここは血の匂いが染み付いている・・・恐らく何人もの人をここで殺めて来たのだろう・・・まるでダンジョンだな」
「はっ・・・はっ・・・それは・・・アンタがやれと・・・」
「私が?なるほど・・・お前には私がオードに見えるか」
「え?・・・だって・・・」
「ここがさながらダンジョンなら私の役目はただひとつ・・・不当な扱いを受けている者を護る・・・何せ私は・・・ダンジョンナイト・・・だからな」
「ダンジョン・・・そんな・・・ちがっ」
オード・・・いや、彼の剣が再び悪しきものを斬り裂く
どういう事?・・・ううん・・・見た目は違くてももうとっくに気付いている
彼を見つめる目から出る涙がそれを証明している
そう・・・彼は・・・
「ローグ!!」
振り返る彼はやはりオードの顔・・・しかしその顔で微笑むと小さなゲートを開き仮面とマントを取り出した
「さて・・・騒ぎが収まらない内に帰るとするか」
はっ!・・・そう言えば1階での騒ぎはまだ収まっていない・・・まだ激しい戦闘音らしきものが聞こえて・・・一体・・・
「どうしたサラ?帰らないか?・・・まだ奴と思ってるなら・・・だが証明しようにも・・・」
惚けている私を見てローグはどう自分であると証明しようか悩んでいた。でも私はもう・・・
「さっ!行きましょローグ!話はここを出てからね」
彼の腕に手を回し喜びをかみしめる
もう二度と触れられないと思っていた腕・・・さっきまでオードと同じか細い腕だったのにいつの間にかいつものローグの太い頼りがいのある腕になっていた
「あの・・・ローグさん?・・・出来れば俺達も助けて欲しいッス・・・」
拳だけに飽き足らず頭も鉄格子にぶつけていたケンが血だらけの顔で申し訳なさそうに言うとスカット、そして反対側のマホとヒーラも立ち上がる
「えっと・・・実はオードがローグさん?ローグさんがオード??」
「スカット!今は混乱している場合じゃないわ!オーグさん早くここから出よう!」
「マホ・・・混ざってます・・・」
オーグ・・・オークみたいに言うな!私のローグを・・・
「簡易ゲートは持ってる?オーグ・・・・・・」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
「・・・あーなんだ・・・とりあえず出るか」
・・・やってしまった
マホめ・・・お前があんな事を言うから・・・許さん──────
牢屋の鍵を壊し全員牢屋の外に出るとローグは簡易ゲートを取り出した
先にローグが通りゲート先の安全を確認すると次々にゲートを通り抜ける
最後になった私は上を見上げまだ争っているだろう1階を見つめた後、ゲートを通り抜けると全員がゲート部屋に到着・・・するとゲートは役目を終えたと認識したのか勝手に閉じる
「ロー・・・」
「あ、なんか確認するって言ってたッス」
ローグに話し掛けようとするとケンが指を口の前に立て静かにと合図する
私は無言で頷きしばらく待つと・・・
「大丈夫だ。ニーニャとあの男は・・・なるほど」
「あの男?あの男って誰ッスか?」
もしかしてローグも会ったのか?・・・セシスとして『ダンジョンナイト』に所属していたあの男に・・・
「全ては安全な場所に移ってから話そう」
そう言ってローグはゲート部屋を出て訓練所に向かって歩き出した
私達もその後をついて行き訓練所に到着するとこれまでの疲れがどっと出て皆一様に膝をつく
「マジ今回はダメかと思った~・・・ヒーラ、回復魔法かけてくんない?頭と拳が痛くて痛くて・・・」
「忘れたのですか?この首輪でマナは・・・」
そうだこの首輪!これのせいでマナが・・・
「見せてみろ・・・・・・なるほど・・・サイレントモンキーの魔核を埋め込んであるな。壊すのは惜しい・・・外すか」
ローグはヒーラの後ろに立ち、髪をかき分けると首輪を見てすぐに解明してしまった・・・何故かヒーラが私に得意気な表情を見せるがどういう意味だ?
「ローグさん、あまり女性の髪に無闇矢鱈に触れるものではありませんよ?親しい間柄とはいえ勘違いされてしまいます」
「ん?ああ・・・すまん。つい気になってな」
これか!ヒーラが得意気な表情をしたのは!
『私はローグと仲がいい』・・・そうアピールしたかったのか!
「よし外れた。ヒーラはケンを治療してくれ。私は首輪を・・・」
な、何をしているんだ私は・・・これみよがしにローグに背を向け次は自分だとアピールして・・・
「ん、外れたぞ」
早い!しかも髪を・・・そうだ・・・私は今日は団子ヘアだった・・・首輪を外すのに髪を触る必要など皆無・・・私としたことが・・・
「ふっ」
今・・・笑った?
ケンを治療しながら私を見て・・・鼻で笑った?
まさか勝ったと?ヒーラやはりお前は・・・ふ、ふん・・・髪を触られたからなんだと言うのだ!私など後ろから見られ・・・見られて・・・もうお嫁に行けない・・・
「なんだか愉快な雰囲気になっているが・・・いいか?」
ローグは全員の首輪を外し終えると全員に顔を向け頭を下げた
「えっ?・・・ローグ?」
「すまなかった・・・もう少し早く助けに行ければ・・・」
「何を言ってるの?全員が無事だし・・・」
「運が良かっただけだ。少しの差で何があってもおかしくない程に・・・それとあの男が油断していたお陰で助かっただけ・・・」
「・・・ローグ・・・貴方も奴に?」
会ったのか・・・セシスに・・・
安堵からか気が緩んでいたが奴を思い出し現実に引き戻された
奴は・・・もしかしたらローグでも・・・
「会ってはない。が、会おうと思えば会えるぞ?隣の部屋に居るからな」
「なっ!?」
隣の部屋?そう言えばいつも使う訓練所の部屋とは別の部屋に入ったのは少し気になったが・・・まさか・・・
「『ブラックパンサー』の組合長であるニーニャと共にいる。私が来るのを待つ為に、な」
「・・・どういう事?」
「君達は人質だ。ケン達はどうか分からないが少なくともサラは・・・私を仲間に引き入れる為に攫った」
「・・・それは何となく聞いたけど・・・」
なぜ奴がここにいる事を知っているのだ?
「一応警戒してな・・・昨日の夜にこっそりと監視装置を仕掛けておいた。今日の朝に会ったら後悔させてやるとか言っていたし念の為、な。それで先程確認したらニーニャとあの男は私が来るのを今か今かと待ちわびている・・・人質が奪い返された事も知らずに・・・」
そっか・・・ローグはしっかりと準備して・・・私は気を付けろと言われたのにまんまと奴に騙され・・・
「もう少し警戒すべきだった。奴らの実力を把握出来ずに野放しにしていたのは私の責任だ・・・すまない」
「ローグそんな・・・表立って動けないローグの変わりをすると言ったのは私だ・・・ローグが気に病むことなど・・・」
「そうッスよ!俺らは『ダンジョンナイト』が好きで『ブラックパンサー』の調査を勝手出ただけですし・・・あれ?そう言えば1階で暴れてたのってローグさんじゃないんッスよね?一体誰が・・・てかその人を助けに行かなくていいッスか!?」
そう言えば・・・あの時オードが部屋から居なくなったのも1階で誰かが暴れているから・・・それで入れ替わりでオードに扮した・・・あっ
「それもそうだしどうやってオードに?見た目は間違いなくオードだった・・・」
「そうだな・・・ひとつずつ話そう・・・時間はたっぷりある」
ローグは言うと腰を下ろし語り始める
私達が捕まった後、どう行動したかを
ただ・・・最初の一言目がかなり強烈でその後の話はただの流れに感じてしまった
「さて・・・とりあえず皆の気にかけている事から・・・1階で暴れているのは──────」




