107階 悪夢
──────暗い・・・何が起きた?・・・・・・そうだ確かセシスに・・・不覚を取り・・・
「・・・えさ・・・ねえ・・・姐さ・・・姐さん!!」
「うっ・・・ケン?・・・」
目を開けると少し離れた場所からケンが私を呼んでいた
隣にはスカットも居て2人して鉄格子を掴み必死な形相で叫んで・・・鉄格子!?
「つっ!」
勢いよく起きると頭に激痛が走る
頭を押えながら辺りを見回すとケン達だけではなくマホとヒーラも・・・そして私も鉄格子に囲まれていた
これは・・・牢屋?
「良かった・・・動かないから心配したッスよ!」
「ケン・・・一体ここは・・・」
「分からないッス・・・でも多分・・・拠点の地下かなんかかと・・・」
拠点の地下?拠点・・・『ブラックパンサー』の・・・
「俺達も訳が分からなくて・・・2階に呼び出されたと思ったらブルが居て・・・殴られた記憶はあるんッスけど気付いたらこの場所に・・・」
まさかケン達の事がバレていた?いつからだ?・・・いや、今はそんなのどうでもいい・・・問題は・・・
「ケン・・・どうしてマナが使えないか分かるか?」
「多分ッスけどサラさんにもはめられているこの首輪が原因じゃないッスかね・・・俺達も使えないッス」
見ると確かに見慣れぬ首輪が私にもケン達にも付けられていた。マナを使えないようにする魔道具・・・厄介だな
「どうしてここが奴らの拠点の地下だと?」
「閉じ込められて1時間くらいなんッスけど上から足音とか聞こえるッス・・・微かだけど話し声とかも・・・ほら、以前下から声が聞こえるみたいな事言ったじゃないッスか・・・多分それってここからの声なんじゃないかと・・・」
確かに耳をすませば微かだが上から音が聞こえるな。この部屋の広さからいってあの建物の2階ではなさそうだし地下と考えるのが妥当か・・・でもどうやって・・・ケン達を気絶させて2階から地下に運ぶには目立ち過ぎる・・・当然私も外から運んで来ただろうし・・・『ブラックパンサー』の組合員が全員奴らの企みを知っているとは到底思えないから見つかったら騒ぎのなるはずだ
「サラ姐さん・・・サラ姐さんはどうしてここに・・・」
「ん?ああ・・・『ダンジョンナイト』の組合員でセシスって奴を知っているか?」
「セシス・・・ああ、ソロの魔法使いの・・・」
「アイツが『ブラックパンサー』の・・・いや、恐らく『タートル』の親玉だ」
「え!?」
「まんまと騙されたよ・・・姿形も偽りのものだった・・・強さもな」
私が魔法を風で吹き飛ばしている隙に背後に回り込む・・・多分だがまともに戦っても勝てないだろう・・・あれほどの魔法と身のこなし・・・Aランクでも上位・・・もしくは・・・Sランク相当の実力者だ
「あの野郎・・・今度会ったらとっちめてやる!」
「出れたら、な。私を運んで来たのは?」
「幹部候補の連中ッス・・・てっきりマホ達の方の牢屋にサラ姐さんを運ぶと思ったんッスけど・・・」
牢屋は3つ・・・ケンとスカット、マホとヒーラ・・・それに私を分ける理由はなんだ?何か理由が・・・
「よぉお目覚めかお姫様」
突然奥にある扉が開くと現れたのは3人の内髪のある・・・恐らくオード。その後ろには見覚えのある冒険者が4人・・・コイツらは幹部候補ってやつか
「・・・私達を拉致監禁しどうするつもりだ?」
「いきなりとはご挨拶だな。もう少し親睦を深めようぜサラ・セームン」
「てめえオード!こっから出しやがれ!!」
「・・・三下は黙ってろ・・・散らすぞ?」
ケンが怒鳴るとオードは冷たい視線を送り指を鳴らす
すると鉄格子の手前で爆発が起きケンとスカットが牢屋の中で吹き飛ばされた
「おい!・・・ケン!スカット!大丈夫か!!」
直接は当たってないはず!でも爆風が彼らを牢屋の端まで吹き飛ばした
「安心しな。観客が居なくなったら盛り上がらないだろ?殺しはしてねえよ」
「このっ・・・」
「でも手加減って難しいよな・・・殺す気ないのにいつも死んじまう・・・まあ弱いのが悪いんだが・・・」
そう言うとオードは私の居る牢屋に顔を近付け・・・
「お前は簡単には死なないよな?・・・サラ」
「くっ!このっ!」
「おっと!危ない危ない・・・鉄格子の隙間を通るほどの細腕でAランクに上り詰めるだけあるな・・・まだ元気だ」
もう少しで捕まえられたのに・・・
「さてさて・・・どっちで遊ぼうか」
オードは後ろを振り返り歩き出すとケン達の牢屋とマホ達の牢屋を見てニヤリと笑う
「遊ぶ・・・だと?何が目的だ!何の為に・・・」
「そんなの駒が知る必要ねえの。お前はただの駒・・・交渉の為の道具だ。道具は使ってなんぼだろ?精々祈るんだな・・・お前が大事にされている事を」
「交渉?駒?何の事だ!」
「お前人の話聞いてる?知る必要ねえって何度言わせるつもりだよ。とりあえずまだ時間はあるみたいだし・・・お前らどっちと遊ぶ?」
「こっちです!」
「だよな」
幹部候補達が一斉に指したのは・・・マホ達の牢屋
遊ぶって・・・まさか・・・
「おい!用事があるのは私だろ!!彼女達は関係ない!」
「・・・それってお前が相手してくれるって意味?」
「なっ・・・」
「これからコイツらはこの女共を犯す。まっ、時間潰しみたいなもんだ。お宅の組合長が答えを出すまで暇なもんでな。小一時間も遊べれば十分だろ・・・それくらいなら壊れずに済む。てかぶっちゃけコイツらは壊しても問題ないしな。で、だ。俺は一応サラ・・・お前は『なるべく手を出すな』と言われているわけだ・・・けどよ・・・どうしてもって言うならその限りじゃねえってわけよ・・・分かるか?」
「回りくどくて分からないな・・・何が言いたい・・・」
「だから!お前が自ら『私を犯してくれ』って言えばこいつらは助かるって言ってんだよ!真っ裸になって股を開いて誘ってみろよ!それとも何か?自分が犯されるよりコイツらが犯された方がいいってのか!?」
「貴様っ・・・」
「あー、なんて白状な上司だ・・・潜入させて捕まったら自分可愛さに黙って見てる・・・浮かばれねえなおい・・・やれ」
男達が嬉々としてマホ達の牢屋に群がる
マホ達もマナが使えなくなる首輪を付けられている・・・もし奴らが牢屋の中に入れば・・・
「待て!!」
「んー?・・・はいストップ!・・・今何か聞こえたか?『待て』?・・・まさか俺命令されてる?檻の中から?聞く必要あるかなぁ」
「・・・くっ・・・待って下さい・・・」
「だよな?そうだよな?・・・びっくりしたぜ・・・で?何?」
「私を・・・」
「サラさん!!」「サラ・・・姐さん・・・」
「口を開くな三下共・・・1人くらい減らしてもいいんだぜ?」
ケン達が声を出すとオードは指を鳴らす仕草をして脅す
この状況を打破するには・・・
「ほら!早く言えよ・・・それとも1人・・・」
「・・・私を犯して下さい・・・」
「はあ?聞こえねえな・・・もしかしたら服の擦れる音で聞こえないかもな・・・どうする?」
「・・・」
「はっ!そうだ脱げ!全部脱いで股を開いて懇願しろ!そしたら・・・」
私が服を脱ぎ始めた瞬間、ドン!と上から音がする
この場にいる全員が天井を見上げる中、1人だけ・・・オードだけがその音の意味を知っているのかニヤリと笑う
「・・・タイミングいいな。勇者の登場だ」
勇者・・・そう聞いて浮かんだ人物は・・・
「・・・ローグ・・・」
「ローグ・・・ダンジョンナイト・・・カッコイイねぇ・・・捕まってる仲間を単身乗り込んで救出に来たって訳だ。迎えるは我らが誇るへガンとブル・・・タンカーと中途半端な野郎2人だが・・・まあ難なく止められるだろう。けど火力が足りねえよな・・・あの2人じゃ」
オードが言わんとしている事を理解する
「ちょっ!サラ姐さん何を!」
「なんで・・・なん・・・」
この拠点には現在3人の設立メンバーがいる
そしてローグを迎え撃っているのは2人・・・ローグならその2人ともやり合えるかもしれない・・・けど・・・もしこの男・・・オードがそこに加われば・・・
「どうした?助けが来たってのに発情したか?いきなり脱ぎ出して」
「・・・ローグの相手は2人で十分なのだろう?なら・・・お前の相手は・・・私だ」
きっと後悔する
こんな奴に純潔を奪われるという事実に
だけど・・・それ以上に私は・・・ローグを失いたくない!
「ふーん・・・賢いな。それに盲信的だ・・・奴が居なければ仲間に欲しいくらいだが・・・」
「オードさん!!すみません!すぐに上に・・・えっ!」
「ああん?てめえ何サラの裸見て固まってんだ!何しに来た!」
「い、いえ・・・その・・・ブルさんとへガンさんがオードさんを呼んで来いって・・・」
「はあ?あの野郎共・・・何やってんだか・・・ハア・・・聞いての通りだサラ・・・足止めしようと頑張ったのに悪ぃな・・・続きはコイツらがやってくれっからちゃんと言う事聞くんだぞ?さもないと・・・分かってんな?」
「ま、待て!」
「待たねえよ・・・じゃあなサラ・・・ゆっくり楽しんでくれ。俺はその後でゆっくり楽しむ・・・お前らサラを殺したら散らすぞ?・・・他の奴らは別に殺していいけどな」
「はい!!」
そう言い残しオードと伝令に来た男は扉の奥に消えて行く
そして残った4人は顔を見合せ下卑た笑いを浮かべ牢屋に近付く
「おい待て!」
「あ?『待て』だあ?」
「くっ・・・お前らの相手は私だろ?こっちに来い!」
「いやぁマナが使えないとはいえAランク・・・体術を使われたら俺らじゃやられちまうかもしれねえし・・・こっちは確か魔法使いとヒーラーだろ?こっちをやる方が安牌なんだわ」
読まれていたか・・・マナを使えなくとも倒せる可能性があった・・・油断して全て脱いだ隙にと思っていたが・・・
「でもよぉ・・・やっぱたまんねえよな・・・どうする?」
「そうだな・・・おっ、そうだ」
そう言うと1人の男が私の居る牢屋に近付くとコッチに来いと指を動かす
そして・・・
「おほっ近くで見ると更に・・・じゃなかった、おい両手を出せ・・・違う違う・・・格子の外にだ」
「・・・これでいいのか?・・・な、何を!」
鉄格子の外に出した両手を懐から取り出した縄できつく結ぶ。これでは身動きが・・・
「おし!これで気を付けるのは足だけだ!後は後ろから・・・」
「おっ!マジか!」
「じゃあ俺はこっちでいいや」
「俺も俺も」
2人が私の牢屋の中に
もう2人はマホ達の牢屋の中に
「分かってんだろうな?おかしな真似をしたら・・・あの2人は犯されるだけじゃ済まねえぞ?」
見るとマホとヒーラは剣先を首に当てられていた
もう・・・どうする事も・・・
「やめろぉぉぉ!!」
ケンがガンガンと鉄格子を殴る
スカットも何度も体当たりをして壊そうと・・・しかし頑丈な鉄格子はビクともしなかった
「いい眺めだ・・・観客もやっと自分の立場が分かったみたいで大盛り上がり・・・安心しろよ・・・少しやりゃあ気持ちよくなっからよ」
「・・・」
「もう黙りか?つまらねえと盛り上がる為に無茶するぜ?色々と壊し方も習ってるから・・・あれ?オードさん?」
その時部屋を出て行ったはずのオードが戻って来た
上に行ったはずなのに・・・ローグは?ローグはどうなったんだ?
「・・・お前達出て来い」
険しい表情で部屋を見渡し男達を呼び寄せる
「な、なんすか・・・まだ・・・」
「口答えする気か?さっさと出ろ!」
オードの雰囲気がおかしい・・・さっきとは別人のような・・・
4人がそれぞれ牢屋から出るとオードの前に一列に並ぶ。そしてオードはそこで待っていろと告げると私の牢屋に入って来た
結局は相手が変わっただけか・・・何も変わらない・・・何も・・・
「後生だ・・・上で何かあったか聞かせてくれ」
「・・・終わった」
終わっ・・・た?
「・・・もう・・・好きにしろ・・・」
その一言で察した
力が抜け地面にへたり込む
床が冷たい
早く終わればいい
こんな悪夢など
──────ローグ──────




