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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
108/856

105階 訓練所にて

さてさて・・・目の前に居るのは人の耳に息を吹きかけるイタズラ娘・・・ではなく『ブラックパンサー』組合長ニーニャ・ブロッサムだ


仮面にマントをつけた怪しげな男を前にしてもニコニコとしているのは何が起きても対処出来る自信の表れだろうか


サラさんに言伝を頼んだらすぐに返事が返って来た


『今すぐにでも』


そう即答されたらしく、逆にサラさんが動揺して『明日の朝に』って答えてしまった程だ


で、朝になって訓練所を訪ねると居るわ居るわ無警戒に訓練所のど真ん中で寝そべり僕をお出迎え・・・そして起き上がり対峙する


「初めまして・・・『ダンジョンナイト』組合長?」


「ローグだ。『ブラックパンサー』組合長ニーニャ・ブロッサムよ」


「ローグ・・・なに?」


「事情があってな。姓はない」


「もしかして仲良くなったら教えてくれるとか?」


「もしかしたら、な。それで早速だが本題に入ろう」


「ん?いいの?せっかくこんなに可愛らしい子と2人っきり・・・色々と聞きたい事があるんじゃない?」


ニーニャはなめかしいポーズをとってウインクする・・・なんだろ・・・誘ってんのかな?


「興味ないな。組合長同士話す事は決まっているだろう?」


「・・・堅物?それともこっち?」


そう言って手の甲を頬に当てる。こっちとは?あの仕草の意味が分からない・・・


「どちらでもない。とりあえずサラから聞いていると思うが『ダンジョンナイト』を解散しそちらに加入する意思がある。その件について話したいのだが・・・」


「・・・よくつまらない男って言われない?」


「人とあまり接する機会がなくてな・・・そう感じるのならそうなのだろう。話を進めても?」


「どうぞ」


少しムスッとした表情が妹とかぶる。そう言えば何年も会ってないな・・・同じ街に居るのに・・・元気だろうか


「・・・無条件でそちらの組合に加入するつもりだったがサラから話を聞いて少々悩んでいる」


「・・・どうして?」


「そちらの組合の死者が異常に多い・・・その理由は聞いたが細かくは聞けていない。もしこのままの状態で加入したら何をさせられるか分かったものではないからな・・・確約が欲しい」


「確約?」


「新たに加入した者・・・それと現在在籍する組合員に無理はさせない・・・という確約だ」


「無理はさせない・・・曖昧だね。その無理って誰が判断するのかなぁ?それに現時点で無理をさせているつもりはないよ?条件は厳しいけど無理強いしてないし」


「そうなのか?それにしては組合員の死者が多いような気がするが・・・組合長として気にならないのか?」


「それ本気で言ってる?組合はあくまでダンジョン攻略を助け合う事を組織化しただけでしょ?助けを求められれば助けもするけどそうじゃなきゃ何が起ころうと自己責任・・・でしょ?」


「それにしても限度がある。まるで幹部候補とは別に冒険者を駆り立てる何かがあるのでは・・・と思うほどに」


「もしかしたらニーニャのせいかも」


「なに?」


「ニーニャはね・・・強い人が好きなの・・・だからニーニャが欲しくて欲しくて堪らなくて・・・無理しちゃう人が出てきちゃうのかもね」


「そんな事で命を懸けるか?」


「そんな事って・・・お金なんてものよりよっぽど価値があると思うけどね・・・」


お金と比べるのはどうかと思うが・・・


ニーニャ曰く死んでしまった冒険者はニーニャの気を引こうとして強くなろうと無謀な事までして命を落としてるってことだろ?うーん・・・ん?


女性の冒険者は?今の話だと女性もニーニャの気を引こうとして・・・それとも他の設立メンバーの気を引こうと?んな馬鹿な・・・


「とにかくニーニャが魅力的なせいで・・・もしローグちゃん達が加入してくれたらなるべく露出は控えるようにするよ」


あくまで冒険者達が勝手に無茶をしているって事で通すつもりか。証拠もないしな・・・なら・・・


「さすがにそれで『はい分かりました』と言って加入する訳にはいかないな。残念だが今回の話はなかったことに・・・」


元々サラさんがニーニャ達に会う為に言っただけ・・・組合員が危険にさらされるのなら無理して吸収される事はない。まあ吸収されて内部から調べた方がより確実だけど・・・仕方ないか・・・


「・・・今更?」


え?・・・ニーニャの雰囲気が・・・変わった?


「それはないよ・・・ローグちゃん・・・今更やめたなんて・・・」


「仕方ないだろう?組合員の命が最優先だ」


「・・・後悔するよ?」


「それは脅しか?」


「知りたければ明日・・・同じ時間にこの場所に来ること・・・そうすれば教えてあげる・・・」


「・・・いいだろう」


「明日が楽しみだね。きっとローグちゃんは是非入らせて下さいって言ってくれると思うよ・・・それじゃ」


ニーニャはそう言い残すと部屋を後にした


奴らにとって『ダンジョンナイト』の加入は棚からぼたもちだったはず・・・なのにどうしてあんな・・・あれは怒り?焦り?・・・昨日のサラの提案で元々あった計画を変えたのか?だからもう『ダンジョンナイト』は加入するって思い込んでたのに僕が断ったから怒った?


そしてニーニャが言っていた()()とは?


「ダンコ」


《なによ》


「・・・機嫌悪そうだね」


《当たり前でしょ?関わるなって言った相手に次から次へと・・・で?なんなのよ》


「僕とニーニャの差は?」


《まだ届いてない・・・半年前よりはだいぶマシだけどね。ロウが50階ならあの人間は・・・そうね60階くらいかな》


「10階も!?・・・こりゃあ頑張ってどうこう出来るレベルじゃないな」


《だから言ったじゃない!関わるなって》


「けどさぁ・・・ちなみにニーニャの言ってた後悔するってなんの事だと思う?」


《知らないわよそんなの!関わった時点で後悔してなさい!》


そんな事言っても関わるしかなかったし・・・やだな・・・何してくるんだろ・・・


吸収されるのを撤回したから後悔させてやるって言ったんだよな?で、僕から是非加入させてくれと言ってくると言ってた・・・って事は・・・・・・・・・さっぱり分からない!


一応サラさんに事を話しておいて警戒しておいてもらった方が良さそうだな──────




『奴らが何か仕掛けて来る可能性がある。気を付けろ』


と言われても・・・何を仕掛けて来るのだろう


やはり嘘などつくべきではなかったな・・・吸収されるつもりなどサラサラなかったが会いに行く理由欲しさに嘘をついたのが仇となったか


表立っては仕掛けて来ないだろうから恐らくダンジョン・・・兵士の手が届かない場所で仕掛けて来るはず


組合員にダンジョンに入るなと伝えるべきだろうか・・・ん?部屋のドアからノック音が・・・誰だ?


「サラさん、ちょっと良いですか?」


この声は受付のペギー?


「開いている」


「失礼しますペギーです。冒険者の方から言伝を預かりまして・・・」


「冒険者から?誰だ?」


「Fランク冒険者のセシス・フェイさんです。どなたに伝えて良いか分からず私に・・・」


セシス・・・ああ、確か組合員の者か。ケン達が組合の窓口みたいになってたからな・・・不在なので誰に言えばいいか分からなかったか


「それでなんと?」


「その・・・明日ダンジョンのお手伝いをお願いしたいと・・・」


明日・・・タイミングが悪いな


「分かった。セシスはまだ?」


「いえ、もう帰られて明日の朝ギルドに来ると言ってました」


「そうか・・・」


明日の朝に直接会って断ろう。さすがに明日はマズイからな・・・うん?


「ペギー・・・まだ何か?」


「あ、えっと・・・ロウニール君がどこに行ったか知ってます?」


「ロウニール?・・・どこにって居ないのか?」


「・・・はい・・・ジケット達が食事に誘おうと仕事場に行ったらしばらく休むと言って居なくなったらしくて・・・」


しばらく休む?突然だな・・・この前の訓練の時は何も・・・まさか『ブラックパンサー』関連・・・いや、冒険者ではないしかも街の兵士のロウニールに手を出すなどリスクが高過ぎる・・・奴らも国にケンカを売るようなマネはしないだろう


「分かった。私の方でも確認してみよう」


「ありがとうございます。ロウニール君の実家を訪ねたのですがどうやら実家にはずっと住んでいないらしくてみんなもどこに住んでいるの知らないらしいので・・・ロウニール君の師匠であるサラさんなら知ってると思ったのですが・・・誰にも言わずにどこに行ったんだか・・・」


「ロウニールの事が気になるのか?」


「い、いえ!同期の仲間を心配しているだけです!・・・前にあんな事があったので・・・見掛けたら言っといて下さい・・・『みんな心配している』と」


「分かった。ペギーが心配していたと伝えておく」


「サラさん!・・・そ、それではよろしくお願いします」


ペギーは顔を真っ赤にし頭を下げると1階へと降りて行った


ロウニールも隅に置けないな・・・しかし・・・アイツは一体どこに住んでいるのだろう──────




翌朝、1階に降りると私を見つけて駆け寄る者がいた


セシス・フェイ・・・確かソロ冒険者で色々なパーティーを渡り歩いている冒険者だったか


「あ、あの・・・サラさん・・・僕は・・・」


「セシスだろ?話は聞いている・・・悪いが・・・」


「お願いします!昨日10階の待機部屋に忘れ物をしてしまって・・・母の・・・母の形見なんです!」


あー、これは断れないやつだ・・・ギルドに居る組合員達の視線が痛い・・・


「落ち着け。とりあえず場所を変えて詳しく聞くから」


もう遅いが場所を変えて詳しく話を聞くことにした


さすがに私の部屋に連れて行くのは気が引ける・・・となると・・・



「おい・・・ここは雑談所じゃねえぞ?」


「場所の有効活用です。どうせ訪ねてくる人も居ないでしょう?ギルド長」


「このっ・・・」


フリップの執務室のテーブルに座り対面に座るセシスを見る


魔法使い特有のローブ、それに杖を持つ垢抜けない少年のような顔立ち・・・まだ冒険者になったばかりだから歳の頃なら15~16くらいか


「それで?形見がどうたらとか言っていたが・・・なぜ10階の待機部屋に?」


「・・・はい・・・昨日あるパーティーから10階のボスに挑むから手伝ってくれと言われまして・・・それで一緒に10階に行き待機部屋に着いてボス部屋の扉を開けたのですが・・・結局挑まずに帰って来ました」


まあよくある話だな


挑むつもりでいたが実際にボスを目の当たりにして尻込みしてしまう・・・そこで引けるのも勇気のいる行動だがそのまま挑めなくなって冒険者を引退してしまう者もざらにいる


「それでその・・・恥ずかしい話ですが10階ボスのトロールを見た時に僕は尻もちをついてしまって・・・多分そこで落としたと思うのです・・・母の形見の御守りを・・・」


「昨日行ったパーティーに頼んでみたらどうだ?多少費用はかかるかも知れないが無下にはしまい」


「・・・それが・・・そのパーティーは昨日までは『ダンジョンナイト』の組合に加入していたのですが・・・」


「まさか『ブラックパンサー』に加入した?」


尋ねるとセシスはコクンと頷く


そっか・・・『ブラックパンサー』の方が高ランクの冒険者が多い・・・そのパーティーは10階をクリアするのに『ダンジョンナイト』ではなく『ブラックパンサー』の方がしやすいと判断して・・・


原因が『ダンジョンナイト』の衰退とはまた断りにくい状況だな


「手伝ってやりたいが明日ではダメか?」


「ダンジョンに置いてある物っていつの間にか消えてしまうと聞いています・・・明日まで確実に残っていればいいのですが・・・」


ダンジョンクリーナーか・・・スライムは何でも食べてしまうからな・・・そうなると・・・


「他の冒険者に頼むのは?10階なら挑もうとする冒険者も探せばいると思うが・・・」


「それも考えたのですが、信用出来る人はあまりいません・・・もし探してもないのに『なかった』と言われても・・・」


それが本当だったとしても疑念が残るか・・・それなら確かに自分で探しに行った方がスッキリする


この状況でなければケン達にお願いすればいいのだが・・・それかジケット達か・・・いや、昨日の件もある・・・『ブラックパンサー』がどう動くか分からない今、彼らに何かあったら・・・



・・・私が行くしかないか・・・



「10階の待機部屋に行ったって事は10階のゲートは使えるのだな?」


「はい!昨日ゲートを使って帰って来たので」


なら待機部屋まで行って帰って来るだけ・・・それなら・・・


「・・・分かった。準備をするから1階で受付をして待っててくれ」


「!ありがとうございます!!」


結局こうなるか・・・何事もなければいいが──────

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