103階 接触
「それで?」
〘いや不気味だなぁってみんなで話してたッス〙
「そうか・・・他には?何か上から言われたりだとか・・・」
〘特にないッスね・・・まあでもひとつ気になるって言えば最近1階にたむろする人が減ったような・・・〙
「なるほどな。引き続き頼む・・・が、無茶はするなよ?」
〘はいッス!では何か分かったら連絡します〙
ケン達は特に何もないか・・・順番なのか何なのか・・・まさか気付かれたって事は・・・ないよな?
ダンジョンはローグに任せて私は表立って行動する・・・つもりだったが何をすればいいのやら
当然向こうは私の事を知っているはず。下手に動いて警戒されてもマズイだろうし・・・かと言って何もしないのもな・・・
自室でケンと通信してそれから特にやる事がない
ベッドに寝っ転がり天井を眺めながら今聞いたケンの話を思い返す
時折妙な声が聞こえる?
しかも1階なのに下から?
まさかダンジョン?・・・な訳ないか・・・ダンジョンとあの建物の場所はかなり離れているしもしダンジョンだとしても聞こえるなら他の建物からも聞こえるはず。だがそんな話は聞いたことも無い
空耳か家鳴りの類か・・・調べようにもさすがに拠点となってい建物の地下を見せてくれとは言えないし・・・
ケン達に調べさせるのも危険過ぎる・・・その件に関しては打つ手なし・・・か
冒険者が減っているのは死んでいるから当然として、ケン達がそれを知らないのは上手く奴らが隠しているからだろう。そうでなければすぐに組合員同士で噂が広がりとっくの昔に『ブラックパンサー』の正体はバレていたはずだ
しかし本当に奴らは・・・『ブラックパンサー』は『タートル』の下部組織なのだろうか
他の街では『ブラックパンサー』ではなく『マジシャン』・・・組合長はニーニャではなく『ブラックパンサー』の設立メンバーでもあるオード・・・だが、このオードと今エモーンズにいるオードが同一人物かどうかも定かではない・・・同名の者だとしたら・・・
しかし冒険者の死者の数が増えているのも事実。たとえ組合が違うとは言え同じ街で冒険者をする仲間だ・・・放ってはおけない
でもだからと言ってどうする事も出来ない歯痒さ・・・『コイツらをぶっ飛ばせ』という指示ならどんなに楽か・・・
ローグはどうするつもりだろうか?
やはりダンジョンを巡回して気になる冒険者に声を掛ける?
だがダンジョン内で唐突に仮面とマントの男が現れたら・・・知っている者でも警戒してしまいそうだ・・・私以外は
・・・いっそうのこと聞いてみるか・・・もしかしたら手が必要かも知れないし・・・
意外と外でやる事がなかったのでダンジョンの方を手伝う・・・と言えば断られる事はない・・・はず
いや、もし緊急連絡が入って来たらダンジョン内に居ては対処が難しくなる・・・ケンからなら通信道具があるけどフリップからだったりジェファーからだったりしたら・・・そう考えると動くにしてもダンジョン内はマズイ
ハア・・・どうしてこう・・・ん?・・・光った!
ついつい眺めてしまう通信道具である石
今もベッドに横たわり手の中で遊ばせているといきなり発光した
慌ててマナを流しそうになるが、とりあえず身嗜みを整えベッドの上に座ってからマナを流す
「・・・はい」
〘今大丈夫か?〙
「大丈夫・・・何かあった?」
えっと今の聞き方は大丈夫かな?ちょっと偉そうな感じに取られたりしないかな?
〘『ブラックパンサー』の組合員に話を聞く事が出来たのでな〙
早っ!ローグ早っ!
「そ、それでなんと?」
〘大した事はない。1週間以内に現在の最高地点から10階分下に行けと・・・達成すれば組合の幹部候補にしてやる・・・そう言われただけらしい〙
想像通りね
でもそれで無謀な挑戦をする?もしかしたら外部に漏らすなと言われているのかも・・・
〘表情も特に差し迫った感じではなかった。達成しなければただの組合員、達成すれば幹部候補・・・ただ・・・〙
「ただ?」
〘幹部候補はかなり組合の中でも優遇されるらしい。幹部候補になった奴を見たら自分もなりたいと思うくらいにはな〙
やっぱり幹部候補になった人に聞くのが早いか・・・建物の2階・・・そこが幹部候補の部屋だったはず
「ありがとう。こんなに早く動いてくれるなんて・・・また何か分かったら教えてく・・・ね」
うーん、やっぱり通信だと距離感が・・・目の前に居たらもっと砕けた話し方が出来るのに・・・
〘・・・分かった。サラも何か分かったら教えてくれ〙
「うん・・・じゃあまた・・・」
会話を終え通信道具はすぐに光を失った
そして私は・・・ベッドに再び横たわり頭を抱える
どうしよう・・・何か分かったら教えたいけど何も進展する気配がない
・・・ハア・・・ローグはこんなに早く動いてくれてるのに私は・・・ベッドの上でウジウジ考えているだけ・・・
幹部候補をエサにダンジョンに行かせているのは分かった。けど特に問題はなさそうだし、切羽詰まった感じでもなさそうな感じだったし・・・ただ・・・
このやり方を以前から・・・この街に来る前からやっていたとしたら?
私は見た事がある・・・表には出さなかったけど・・・
ガゾス・・・疑問に思う行動があった
なぜ彼は宝箱を自分の手で開けたのか・・・私というスカウトが居たにも関わらず・・・正直あの時の私は戦闘に関して言えば足でまといにしかならない存在だった・・・もし宝箱に罠があり戦闘不能になってもボス部屋は近かったしもう私の役目は終わりかけてた・・・だからあの時は私が開けるのが正解・・・罠があってもなくても・・・私が開けるべきだった
あの時は気の緩みと判断したけど・・・もし追い詰められてて正常な判断が出来なかったとしたら・・・
思い返せばガゾス達は笑っていた・・・けど、その笑顔は心からの笑いだった?ダンジョンで魔物を倒しながら普通笑う?20階を越えようと準備を沢山して外部の者・・・私という存在まで連れて・・・必死になってるのに・・・笑う?
もし・・・もし仮に・・・以前から『タートル』が同じような事をしてたら?
無謀な挑戦を強いられ必死に攻略しようとしていたら?
けどローグが言うには強いられている感じではなかったと言うし・・・
そもそも『ブラックパンサー』が『タートル』の下部組織だというのも確定ではない
・・・あれこれ考えててもドツボにハマるだけか・・・やはり行動を・・・起こすしかない
真実を知る為に
私は意を決して立ち上がると服を着替え風牙龍扇を懐にしまう
万が一に備えて簡易ゲートを持ちギルドを出て向かった先は・・・『ブラックパンサー』の拠点
「ふう・・・」
建物の前に到着し懐に手を忍ばせ呼吸を整えると扉を開けた
すると全員の視線が私に集中・・・二度見する者や驚いてポカーンと口を開けている者、そして・・・
「あ、え?・・・サラ・・・姐さん?」
ケン達も居たか
「久しいな。他にも見た事がある者もいるようだ・・・すまないがケン・・・取り次いでくれないか?」
「へ?取り次ぐって・・・」
「組合『ダンジョンナイト』の組合長代理として来た。『ブラックパンサー』の組合長と話がしたい。そう伝えてくれ」
「・・・は、はいッス!」
ローグに言わず組合長代理と名乗るのは少し気が引けるが・・・彼なら怒らないだろう・・・多分
そうでも言わないとニーニャは会ってくれないかもしれない・・・逆に組合長代理として来たのなら無下にはしないはず
「・・・あの・・・3階に来てくれと・・・」
「分かった。では上がらせてもらおう」
まずは自分の目で確かめる
あまり深いところまで聞けないが設立メンバーのヤツらがどんな人間かは話せば分かるはず
疑いが確信に変わるか勘違いと思うか・・・動くにしてもまずはそこからだ
一応2階に上がった時に建物の作りを見ておく
変な動きをすれば勘繰られそうだからあくまで疑われない程度に
2階は階段から廊下があり、いくつか部屋が見えた
どこもドアなどなく自由に出入り出来そうな感じだった
幹部候補をパーティー毎に分けているのか?
さすがに中を覗くとマズイと思い廊下から見るだけにして3階に上がった
3階に上がると踊り場、そしてその先に鉄の扉がある
その鉄の扉をノックすると返事が返って来たので押し開ける
・・・広い・・・が、1階よりも少し狭く感じるのはコイツらのせいか?
ニーニャ、ヘガン、オード、ブル・・・聞いていた話から想像していた奴に名前を当て嵌めていく
まず間違いないのはニーニャ・・・褐色の肌が良く似合う元気いっぱいの女の子って感じだな。背中に背負った2本の剣が物々しさを醸し出し、アンバランスな雰囲気が妙に興味をそそる。服装に期待したが例の服は着ていないのは残念だ
ニーニャの右隣にいる大男は恐らくヘガン・・・筋肉隆々でスキンヘッドの厳つい大男。盾を持たないタンカーと聞いているがもしかしたら肉の鎧というやつなのだろうか
左隣の男はオードか・・・自らを奇術師と名乗る魔法使い。私を見る目がかなり不快だ・・・あまり関わりたくない類いの男・・・下品さが顔から滲み出ている
最後に後ろで腕を組みじっと私を見ているのがブルか・・・スカウトとヒーラーの使い手で職業はモンクだったか・・・こちらもヘガンと同じスキンヘッド・・・
流行っているのか?スキンヘッド・・・
「ようこそ初めまして・・・えっと『風鳴り』だっけ?のサラちゃん!」
ちゃん・・・なんだ?見た目に合わせて作ってるのか天然なのか・・・もうやりづらい・・・
「組合『ダンジョンナイト』組合長代理のサラです。突然お邪魔してすみま・・・」
「堅苦しい挨拶はいいから座って座って!」
そう言って部屋の中央にある大きなテーブルの椅子を指すとニーニャ達は移動してニーニャだけか座り他の3人はニーニャの後ろに立つ
彼女は座ってからも自分の対面を指さし『ほれほれ』と言って私を急かす・・・緊張感がまるでないな
「では失礼して」
4人の視線からは敵意は感じられない。が、好意的な目と言うより好奇的な目と言った方が正しいだろう・・・目でずっと『何をしてくれる?』と語りかけてくる
私はニーニャの指示に従いテーブルを挟んで対面に座ると真っ直ぐに彼女を見つめた
「そんなに見つめられると照れるなぁ・・・で?何しに来たの?」
「随分と直球ですね。もう少し会話を楽しみませんか?ニーニャさん」
「会話が楽しめるかどうかはサラちゃんが何しに来たのかで変わるから・・・先に目的を言ってもらっていいかな?」
妖艶に微笑むニーニャ・・・やはり見た目通りの歳ではないな
女の私でさえ彼女の色香にやられそうだ・・・癪だが私にはない部分・・・どうやったら身に付くか聞いてみたいものだ
「何かおかしいこと言ったかな?」
「いや・・・是非とも仲良くなりたいと思いましてね。私の・・・いえ、『ダンジョンナイト』からの要望を伝えに来ました」
「要望?なに?」
「『ダンジョンナイト』を吸収してくれませんか?──────」




