102階 地下室
力を隠してる・・・そう言われて僕は思わず固まってしまった
なぜ?
どこで気付いた?
制服には力を隠蔽する能力を付与している。常時発動型・・・サラさんにあげた風牙龍扇のようにマナを流して発動するものと違い、身につければマナは吸われ続ける代物だ。けど消費マナは微量な為にこれを着けているからといってマナ切れになる事はほぼないだろう。ちなみに仮面とマントも常時発動型になる
つまりゲッセンはその能力を破り隠している力に気付いたって事になる
一体どこまで?
まさかダンコの事も・・・
「能ある鷹は爪を隠すって言うけど門番にしては強過ぎる力だね。出世欲がないのかそれとも何かを企んでるのか・・・」
「・・・」
「答える気はないのかそれともどう取り繕うか悩んでいるのか・・・誤魔化すつもりなら止めといた方がいいよ。この目は誤魔化せないからね」
そう言うとゲッセンは前髪をズラし隠れている方の目を僕に見せた
「!?」
目・・・義眼?
左目と違い全く動かない右目・・・明らかに作り物に見えるその目が真っ直ぐに僕を捉えていた
「見ての通り義眼だよ。けどただの義眼じゃなくてね・・・マナを流す事で相手の体内にあるマナを見る事が出来る魔道具・・・魔義眼だ」
ほ、本当にいたんだ・・・マナを見れる人・・・って、魔道具の力か
「さっきまで使ってたからマナが残ってたみたいでね・・・すれ違いざまにふと見たら君のマナ量が多くて驚いた・・・俺はマナ量は強さに比例すると思ってる派でね。それから言ったら君は俺と同等かそれ以上・・・」
ゲッセンと同等くらい?・・・良かった・・・見れるって言ってもその程度か
もしかしたらダンコの中にあるマナ量までは見れないのかも・・・もし見えたとしたら・・・ゾッとするな
「・・・隠していた訳じゃありません。最近マナを使えるようになったので実力が伴ってなくて・・・」
「最近?君いくつ?」
「今年で17になります」
「・・・遅いね・・・普通の人ならとっくに・・・」
「ええ。だから学校に通っている時はマナを使えず・・・本当は冒険者になりたかったのですが学校の先生が無理矢理兵士に・・・」
「なら今からでも冒険者になれば?君ならかなり上に行けるはずだよ?」
「・・・最初はそれも考えました。けど門番の仕事が楽しくて・・・今では門番になれて良かったと思ってます」
「・・・そう。でも隠すのは良くないよ?変な疑いを掛けられるかも知れないし・・・今みたいにね」
「そうでもないと思います」
「と言うと?」
「門番が強そうに見えれば何もしない人も一見弱そうに見えれば何かをする可能性があります。なのでその人の本質を見れるって言うか・・・」
「なるほど・・・確かにね。でも抑止力って知ってる?」
「・・・はい」
「君が言う前者は抑止力が働き未然に防いでる。後者は誘発し事が起きてから対処する・・・さて、どちらが効果的だろうね?」
「未然に防げてもいずれ起きるかもしれませんし・・・起きるなら防げる状態で起こさせた方が・・・」
「なるほど・・・女性を裸で歩かせて襲って来た奴を捕まえる・・・みたいな?」
「それは極論ですけど・・・そのようなものです」
「君は騎士にはなれないね」
「・・・別になりたいとも思いませんけど・・・」
「ははっ、なるほど。でもね・・・兵士も騎士も変わらない・・・未然に防ぐ為に存在するんだよ。だから人からは威圧的・・・高圧的に映るかもしれない。だってそうだろ?君に言い分なら門番なんて要らない。誰彼構わず街に入れて犯罪が起きたら取り締まればいい・・・そうならない?で、その犯罪が起きた時に犠牲になるのはいつだって弱い者だ」
「・・・」
「君自身が囮になるのはいい。釣りで言うと疑似餌みたいなものだしね・・・体内に鋭い針を仕込んだ釣る為の餌・・・けど中には普通に泳いでいる魚も居るんだ・・・君が弱い魚に見えても兵士と言う硬い殻を纏っている・・・そこで手を出さない者も中に入れば硬い殻のない魚がうようよしているんだ。君が捕食側ならどちらを選ぶ?硬い殻を纏った魚?それとも柔らかくて美味しそうな魚?」
ゲッセンの言う通りだ・・・僕が弱そうに見えても門番に突っかかってしまうと他の兵士が黙っていない。だから僕を見逃してより簡単な方に行くに決まってる
考えずに答えて失敗したな
「・・・僕が間違ってました」
「分かればいいよ。それに君の考え方もありっちゃありだし。ただ抑止力を上手く使えば犯罪は減る・・・魚に例えたけどそのまんまで言えば君が強く見えれば入って来ようとした犯罪者も入らないで帰るかもしれない・・・ただそういう輩は諦めずに次の獲物を探しに行く・・・それだとここが無事でも他が被害を被ることになる・・・難しいよね」
エモーンズに入れなくても他の村や街に行くだろうし・・・けど僕の仕事はエモーンズを守る事・・・確かにそう考えるとどっちが正しいのか分からない・・・
「まっ、本音を言うと君が未然に防いでくれれば俺の仕事が減って楽が出来るからなんだけど・・・君と同じで俺も出世欲なんてないし」
「そ、そうなんですね」
「右目を失いたまたま魔義眼を手に入れたからここに居るだけ・・・だからケインのような出世欲の塊とは意見が合わなくてね・・・たまたま見掛けた君を追い掛けて部屋を抜け出したってわけ。特に詮索するつもりはないからそのままやりたいようにやるといいよ」
「は、はあ・・・」
「ごめんね突然呼び止めて・・・いい時間稼ぎになったよ」
「・・・それでは失礼します・・・」
なんだったんだ一体・・・でも良かった・・・ダンコの事までバレてたら僕は──────
「ちょっとー何サボってんのよ」
壁に寄りかかったままロウニールの姿をずっと見ていたゲッセンに執務室から出て来たファーネが声を掛ける
「んー?ああ・・・後輩にアドバイスを、ね」
「まさかサボり方じゃないでしょうね?」
「違うよ。どっちかって言うと逆だね」
「逆?それこそアンタが何をアドバイスするって言うのよ。このサボり魔」
「サボる為には努力が必要・・・ってね。で、話は終わったの?」
「報告よ、ほ・う・こ・く・・・仕事の内なんだからサボったアンタは給料ガ入ったらアタシ達に何か奢るように!分かった?」
「勘弁してくれ・・・ファーネはともかくタンブラーに奢るとなると給料が一瞬で消える・・・」
「気にするな。一月後にはまた給料が入る」
「1ヶ月飲まず食わずで過ごせってか?せっかく王都から離れて羽を伸ばせると思ったのに酷い仕打ちだ」
「団長からしっかり見張っとけって言われたしね・・・財布の紐も握ろうかしら」
「何それ・・・求愛?」
「・・・凍らすわよ?」
「冗談です・・・気を取り直して飲みに行くか!タンブラー一緒に行くか?」
「奢りか?」
「・・・お前人の話を聞かないってよく言われるだろ・・・」
ケインが呼び寄せた3人は見回りで赴いた歓楽街に再び繰り出す
今度は客として純粋に飲む為に──────
『ブラックパンサー』拠点となる建物の地下へ向かう階段に2人の姿があった
『ブラックパンサー』設立メンバーのニーニャとオードだ
「どうでもいいけど3階からしか降りられない構造にしたのは誰だよ・・・俺体力ないのに・・・嫌がらせか?」
「たまには運動した方がいいよぉ?魔法使いだって動かなきゃいけない時だってあるっしょぉ?」
「あのなぁ・・・何度も言うが俺は魔法使いじゃねえ奇術師だ。いい加減覚えろよな」
「・・・どっちでもいいし・・・で?今回は逃亡?失敗?期限切れ?」
「よくねえし・・・期限切れだな。土着の冒険者がいねえから脅しが効きにくい。今回なんて『期限って今日でしたっけ?』なーんて言われちまったよ」
「あらま・・・必死さが足りないねぇ」
「土下座して期限延長でも頼んでくりゃ・・・まっ、それでも同じ結果か」
「うんうん、使えない奴は甘えさせても結局使えないしねぇ。はぁ・・・こりゃ何人残るか・・・」
「めぼしい奴はほとんど終わってっからもう残んねえんじゃね?早く次行こうぜ次」
「次はまだ早いよぉ。ちゃんと全員終わってから・・・でしょ?」
「その前に動かなきゃいいけどな・・・犬共が」
「まあね・・・さて、着いた着いた」
地下に到着すると大きな広間となっていた。その広間には鉄格子で囲まれた檻が三つ・・・その中にはそれぞれ冒険者が入れられていた
「組合長!!こりゃどういうこった!!」
左の檻に入れられた男の1人がニーニャの姿を見て叫ぶ
すると真ん中以外の檻に入れられた冒険者達が一斉に騒ぎ始めた
「あーうるせえうるせえ・・・騒ぐな雑魚共。せっかくのお客さんが引いてるじゃねえか」
オードは耳を塞ぎながら左と右の檻の間を通り抜けると一番奥にある真ん中の檻の前に立つ
「な、なぁオードさん・・・いいもの見せてやるって言ってたけど・・・」
真ん中の檻の中には5人の冒険者が入っており、その内の1人が近付いてきたオードに尋ねる
「ん?ああ・・・特別にな。女がいるパーティーにはちぃと刺激が強過ぎて見せられねえからな・・・男同士でパーティー組んでラッキーだったなおい」
「・・・ちなみにこの首輪は・・・」
「質問が多いな。着ける時説明なかったか?そりゃあ囚人とかが着けるマナ抑制装置だ。それを着けられるとマナが使えなくなるってわけだ。マナが使えりゃこんな檻なんてすぐに壊せちまうしな」
「こんなものどこで?」
「あ?簡単だよ。わざと捕まってそれを着けられた状態で抜け出せば一個ゲット出来るだろ?それを繰り返せばいいだけだ」
「抜け出すって・・・助けてもらう、でしょ?」
「ニーニャ・・・ネタばらしは御法度だぜ?」
「はいはい・・・凄い凄い」
「・・・チビぺちゃ女・・・」
「・・・イカサマオードォ・・・ここで殺り合うぅ?」
檻の中の者達をよそに一触即発の雰囲気の2人。そこに新たな者達が地下室に現れる
「お疲れ様です!組合長!オードさん!」
「おお、来たか・・・って、てめえらお客さんには首輪の事説明しとけって言っただろ!無駄な手間かけさせんな!」
「あっ・・・すみません!!忘れてました!!」
「この脳筋共が・・・幹部候補から外すぞこら」
必死に謝る幹部候補達に睨みを利かせた後、オードは表情をコロッと変えて微笑みながら真ん中の檻の方を見た
「さて、準備が整ったから説明しておく。目の前のふたつの檻に入っているのは元々同じパーティーの奴らだ。で、俺達はこのパーティーにある指示を出した・・・ちなみに聞くけどお前達は何階まで辿り着いた?」
「な、何階?」
「ダンジョンだよダンジョン・・・ほら、何階だ?」
「えっと・・・9階です・・・」
「そうかそうか・・・んでな、その指示って言うのが1週間以内に自分達の最高地点から10階分降りろってだけなんだこれが。簡単だろ?1日2階分くらい降りりゃすぐ終わるし」
「え?いや・・・はあ・・・」
「で、だ。コイツらは残念ながら期限に間に合わなかった・・・つーか、期限すら忘れていたどうしようもねえ奴らだ。って事は残念だが組合として制裁を加えないとならない」
「せ、制裁!?」
「ふざけんなオード!!」「ニーニャさん!嘘ですよね?」
「騒ぐなって言ってんだろ?ったく・・・で、どんな制裁かって言うと・・・まあ見るのが早いか・・・お前らやっていいぞ」
「はい!!!」
後から来た4人の幹部候補達・・・その4人は我先にと右の檻・・・2人の女性が入った檻に群がる
そして扉は開かれ・・・蹂躙が始まる
「や、やめろぉー!!」
逃げ惑う2人
それを見る事しか出来ない左の檻の男達は必死に叫ぶ
「うるせぇなあおい・・・女共もどうせすぐ捕まるのに無駄な抵抗しやがって・・・あっ、捕まった」
「いやああああ!!」
「うるせえ黙れ!」「おい、次は俺だからな」
「離して!離してよ!」
「早く済まして代われよ」「黙ってろ!てかもう1人の方に行けよ!」
「・・・やめてくれ・・・頼む・・・やめて・・・」
「泣いちゃったよおい・・・どうだ?これがアメとムチってやつだ。指示を達成し幹部候補になりゃこうやって女を抱けるし金も思うがまま・・・でも失敗すりゃこうなる・・・って聞いてるか?」
「え?・・・あ、はい・・・」
「・・・そんなにおっ立てても今日は見るだけだ・・・やりたきゃ19階までダッシュで行ってこい。まあこれは強制じゃねえから女も金も要らねえってんならこのまま帰りな・・・ただ檻を出る時までに答えを出せ」
「・・・いつ・・・出られるのですか?」
「コイツらが死んだら出してやるよ。まあそんなに時間はないだろうな」
「・・・女性も・・・殺すのですか?」
「ん?残して欲しいなら残しとくけど・・・基本アイツらが飽きたら殺す。男共はそうだな・・・もっと絶望したら殺すかな」
「・・・」
平然と答えるオードに恐怖する冒険者
彼の視線はオードからニーニャに移る
天真爛漫に見えるニーニャがこの光景を見てどう反応しているか興味があったからだ
「んん?もしかしてニーニャを!?」
その視線に気付いたニーニャが冗談なのか本気なのか体をよじらせ露出している部分を隠した
それを見たオードはガクンと頭を下げて首を振ると呆れた表情で冒険者を見た
「・・・マジ?」
「い、いえ!・・・その・・・」
「ニーニャが欲しかったら強くなればいい。目的を達成したければ力尽くで・・・それが組合のモットーだからね」
「え?・・・」
幼い顔からは想像もしなかった妖艶な表情を浮かべるニーニャに冒険者達は釘付けになる。その瞳から目を逸らせない程に・・・惹き込まれてしまう
「それじゃあ説明不足だ。目的を達成したければ力尽くで、達成出来なければ無意味だ、がとある人の言葉だ。つまり指示した目標を達成出来なかったコイツらは無意味な存在って事になる。さっき女達も殺すのかって聞いてきたよな?それって勿体ないって感情より可哀想とかそっちの感情だろ?でもな・・・コイツらは生きてたって無意味なんだよ・・・だから同情する必要なんて全くない。つーか、幹部候補っていう将来ある奴らの役に立ててありがたがって欲しいくらいだ」
「・・・」
「意味のある人生を歩むか、無意味な人生を歩むか・・・まっ、悩むようならオススメはしねえ。目的を持たずに生きるってのもひとつの手だ」
「・・・俺達が成功して幹部候補になったら・・・彼女らは助かりますか?」
「ん?そりゃあどういう意味でだ?」
「俺達が成功して解放してくれと言ったら・・・」
「んなるほど・・・アソコおっ立てて聖人ぶるって訳か・・・答えはノーだ。処理道具として飼うならともかく解放はしねえ。仲間にも当然しねえ。死ぬか道具になるか・・・無意味な奴の使い道なんてそんなもんだ」
「・・・やめます・・・」
「おい!ジッタ!」
オードにやめると答えた冒険者ジッタに詰め寄ろうとする仲間達。だがジッタは振り向き肩を震わせ仲間に問う
「俺達は冒険者だ!犯罪者じゃねえ!・・・こんなの常軌を逸してる・・・俺達が求めてたのはこんなんじゃねえだろ?こんな事する為にエモーンズに来たわけじゃねえだろ!?」
ジッタの悲痛な叫びに何も返せない仲間達・・・オードはそれを聞いて手を打ち鳴らす
「凄い!アソコおっ立ってて説得力ないが勢いだけは認める!そんな君らに俺からプレゼントだ」
「え?」
ジッタが振り返ると目の前に小さな火の玉がまるで線香花火のようにチリチリと音を立て火花を散らす
そして次の瞬間・・・ジッタの目の前で爆発した
「なっ!?・・・ジッタ!!?・・・そんな・・・話が・・・」
「ちがう?でも俺は今のジッタ?って奴の話を聞いてムカついてな・・・今の俺の目的は『ムカつく奴はぶっ殺せ』なんだよ・・・俺達を犯罪者扱いして俺がムカつかねえと思ったか?普通思わねえよな?そうだろ?」
「で、でも・・・」
「んでだ・・・連帯責任ってやつ?お前らも同罪だ・・・受け取れよ」
「やめっ・・・!?」
いつの間にか目の前に漂う火種
その火種は触れることなく次々に爆発する
地下には煙が充満し、女に跨る幹部候補達もその動きを止めて呆然と眺めていた
「悪ぃ悪ぃ・・・邪魔しちゃったかな?どうぞどうぞ続けて続けて」
「・・・」
「『悪ぃ悪ぃ』じゃないよぉ!今日はニーニャが殺る番でしょ!?何勝手に殺してんの!?」
「あっ・・・そうだった・・・」
「オードォ・・・」
「・・・ほ、ほら!まだそこに新鮮なのが3人も居るじゃん!もしあれなら首輪外して遊んでもいいし・・・なっ?」
「・・・それなら許す・・・そこの女共を殺す時もだからねっ!」
「分かった分かった・・・んじゃまとりあえず・・・ストレス発散の道具になってくれや・・・無意味さん達よ──────」




