7階 至高の騎士
一週間・・・ダンジョンオープンから一週間経って未だに客(冒険者)ゼロで御座います。当然、売上もゼロ!とても悲しい状況になっております!
と、嘆いても仕方ない。村長は国へ指示を仰ぎその結果が出るまで勝手な真似は出来ない。その勝手な真似とはもちろんあの入口から入り調査する事。なので村はまだあの入口がダンジョンに繋がっているか不明って訳だ
村長は特殊な方法で国に伝えたって話だからもうとっくに国は知ってるはず・・・なら何か展開があってもおかしくないと思うのだけど・・・
そんな事を考えながら村の入口でヘクトさんと共に立っているとこちらに向かって来る集団が見えた
行商人じゃない・・・明らかに武装した集団・・・
慌てて横を見るとヘクトさんは眉間に皺を寄せ険しい表情でその集団を見つめていた
「ヘクトさん・・・あれって・・・」
「王都から来た調査団・・・にしては大袈裟じゃのう。王国騎士に見えるが・・・」
王国騎士!?なぜそんな人達がこの村に・・・って理由はひとつしかないか・・・
近付くにつれて集団の全容が明らかになる
ヘクトさんが言うように騎士っぽい鎧に身を包んだ人達が馬に乗り、行商人が使う馬車とは違い頑丈そうな馬車が村を目指している
あっという間に目の前に到着すると1人が馬から降りてヘクトさんの元へ来た
「フーリシア王国第三騎士団所属のケイン・アジステア・フルーだ。ここはエモーンズ村で間違いないか?」
「はい。エモーンズ村の門兵をしておりますヘクト・フォローと申します。通行許可証を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「うむ。30名分の通行証がここにある。確認してくれ」
「はい。ロウニールよ、馬車の中を検めてくれ」
僕ぅ!?検めるって見ろって事!?
ジロリと僕を睨む騎士ケイン・・・な、何も悪い事してないのに・・・
「数が合わねば王国騎士団とはいえ中に入れられん。早くせい」
「は、はい!」
普段とは様子が違うヘクトさんに返事をして慌てて馬車の中を覗こうと駆け寄ると何故か馬に乗った騎士が僕の行く手を塞ぐ・・・いやいやどうしろって言うんだ・・・
「馬車の中には2名ずつ計6名だ」
先頭の騎士が僕を見下ろしながら人数を教えてくれた。良かったこれで・・・
「は、はい・・・じゃあそれで・・・」
「ロウニール!検めさせてもらいなさい!」
「え・・・でも・・・」
「数は正確だ。まさか我々が嘘を言ってるとでも?」
ヒィ!何この板挟み状態は・・・ヘクトさんも何も騎士団相手に張り切らなくたって・・・
「こらこら、一般の人を威圧するんじゃないよまったく」
先頭の馬車から聞こえた声に騎士達の背筋がピーンと伸びる。その馬車を見ると窓から顔を出している人と目が合った
第三騎士団・・・そうだ・・・第三騎士団と言えば・・・
「ディーン団長!我々は・・・」
「国民を護る騎士だ・・・そうだろ?それとも威圧するのが仕事か?」
特に睨んでいる訳でもないのに窓から顔を出している人物に見つめられ蛇に睨まれた蛙状態の騎士・・・ディーン・・・団長・・・第三騎士団・・・間違いない・・・至高の騎士ディーン!!
国一番・・・いや大陸一とも言われている騎士ディーン・クジャタ・アンキネス・・・今の僕と同じ15歳の時に騎士となり、その年に当時最深のダンジョンと言われていたマーベリルダンジョン踏破!次の年にはダンジョンブレイクで出現した上級魔物フェンリル討伐!挙げた武功は数知れず・・・最年少の20歳で騎士団の団長に上り詰めたその人が目の前に!
明らかに年上の騎士達を萎縮させるその美男子は僕を見て微笑むと手招きする
僕は緊張して何も考えられず吸い寄せられるようにその手招きに応じて近付いた
「ヘクト殿の言う通りだよ。通行許可証の確認は国で定めた法・・・つまり国王陛下がそれを是としている行為。ひいてはそれを破る行為は国に対する反逆と取られてもおかしくない・・・だからロウニール君、君は気にせず職務を全うしてくれ」
な、名前を呼ばれた・・・至高の騎士が僕の名を呼んだ・・・嘘だろ・・・こんな光栄な事ってないよ普通・・・
「・・・言われたらさっさと動け・・・クズが」
後ろからボソッと・・・それこそディーン様に聞こえないように呟く騎士ケイン。この騎士といい僕の道を塞いだ騎士といいあまり僕達に良い印象を持ってないみたいだな
僕は言われた通り素早く動き最初は一番後ろにいた馬車の扉をノックする
「・・・入りな」
しわがれた声・・・言われるがまま扉を開けると馬車の中には老人が2人座っていた
1人は昔・・・いや、大昔は綺麗だったであろう老婆。杖を持ち眼光鋭く僕を見る
もう1人は人の良さそうな老人。真っ白な服にとても似合う髭を蓄えて優しそうに微笑む
「か、確認致しました!失礼します!」
人数は確認出来たし次に行こう
今度は真ん中の馬車の扉をノックする。すると・・・
「開けていいぞ」
今度は若い男の声
先程と同じように開けると申告通り2人・・・騎士ではなさそうな軽装の男と馬に乗ったら馬が潰れてしまいそうな重装備の男が乗っていた
思わず馬車の車輪を見ると・・・うん、沈んでる・・・どんだけ重いんだその鎧
「こちらも確認出来ました!失礼しました!」
何か言われる前に扉を閉めてようやく大本命の馬車へ
緊張して震える手で扉をノックすると先程と同じ声で「どうぞ」と言われた。恐る恐る扉を開けると・・・眩いほど輝いている白銀の鎧に身を包んだディーン様と・・・少女?
「なんだ?妾の顔に何かついてるか?」
「い、いえ・・・何も・・・」
突如現れた入口を調査に来た・・・んだよね?だとしたらこの少女はこの場に似つかわしくないと言うか・・・ピカピカのドレスにヒールのついた靴・・・グリングリンとロールした髪にパカッと出たおデコ・・・いや、おデコはどうでもいいけどこの姿でダンジョンはちょっと・・・
「・・・ディーン、こやつを斬れ」
へ!?
「どうしてでしょうか?」
「妾を見過ぎだ」
「そんな事で斬ってたら国の人口が激減しちゃいますよ・・・ロウニール君、もういいかな?」
「は、はい!御協力ありがとうございました!」
慌てて扉を閉めるとほっと胸を撫で下ろす。危うく至高の騎士に斬られるところだった
確認を終えた事をヘクトさんに目で伝えるとヘクトさんはいつものように笑顔となりいつものセリフを発する
「エモーンズ村へようこそ」
村に入って行く騎士達を見送った後は訪ねてくる人はおらず門番の仕事は終了・・・僕はヘクトさんに頼んで明日は休みをもらった
ちょうど馬車が通り過ぎる時に聞こえたんだ・・・『調査を開始するのは明日』って
僕は兵舎に戻るとドカート隊長にも明日は休む旨を伝えて自室へ
抑え切れない感情をぶつけるかのようにベッドに飛び込むと枕に顔を埋めて足をバタバタと動かす
《・・・えらい上機嫌ね・・・》
「当たり前だろ?僕達の作ったダンジョンにあの・・・あの至高の騎士が入るんだよ!?しかも一番最初に!」
《・・・ハア・・・》
あれ?何故かダンコのテンションが低い・・・ため息なんてついちゃって・・・なんで??
「嬉しくないの?いい宣伝にもなると思うけど・・・」
《・・・明日になれば分かるわ・・・どうせ司令室で見るんでしょ?》
「もちろん!・・・楽しみだな・・・至高の騎士ディーン・・・どんな感じで戦うんだろう・・・」
胸がときめいてなかなか眠れない
結局布団に入っても寝れずに僕はダンジョンのゲートを開き司令室に行くとスラミを連れて修練場に向かい朝まで汗を流した
それでも眠気は全くない・・・だって至高の騎士だよ?楽しみ過ぎる!!
・・・結果から言うとそのテンションは長くは続かなかった
なぜなら僕の創った魔物達が・・・いとも簡単に斬り伏せられ死んでいく様を見せつけられたからだ
昨日村に着いた騎士団は広場にある入口を囲むようにテントを張り朝まで出て来なかった。村に宿屋がないから予め用意して来たのだろう。そして朝になると馬車に乗っていた6人だけが入口に突入・・・そこまではテンション最高潮だったのに・・・
「ダンコが言いたかったのはこれか・・・確かにこれは・・・嬉しくないな」
感情移入しないようにしてきたけど・・・やっぱり自分の創った魔物が死ぬのを見るのは辛い・・・
《あのねえ・・・この程度の事をいちいち気にしてたらダンジョン経営なんて出来ないわよ?》
「え?でもダンコ・・・昨日は・・・」
《・・・ハア・・・まだ分かってないの?至高だか何だか知らないけど今のダンジョンとかけ離れた実力者が入って来ると・・・溜まらないのよ》
「え?何が?」
《マナよマナ!何の為にダンジョン経営してると思ってるの!?マナを溜める為でしょ?それがあの至高って奴・・・魔物を倒すのに一切マナを消費してない・・・これじゃ赤字よ赤字!最悪の船出だわ!》
あー、確かに・・・ディーン様が先頭に立ち侵入者を排除しようと近寄る魔物達を倒して行く。本来ならやられた魔物のマナと冒険者・・・今回はディーン様の使用したマナが僕の元へ集まるはず。でもディーン様は魔法や魔技を使わずに剣術だけで魔物を倒しているから全然マナが集まって来ないんだ
《魔物と侵入者の格差があり過ぎる・・・だから嫌だったのよ・・・強そうな奴は・・・今のダンジョンには早い》
早い・・・か。いずれはディーン様にマナを使ってもらえるような魔物を創る事が出来るんだろうか・・・
結局ディーン様一行はほとんどマナを使用せずダンジョンを踏破してしまった
使われたマナと言えば軽装の人が罠の有無を確認する時に使用した魔技のみ。もう大赤字確定だ・・・しかも彼らにとって小銭程度にしかならないであろう魔核も持って行かれてしまった
魔核の中には魔物が自ら溜めたマナが詰まってる。だから置いていってくれればダンジョンが魔核を吸収してマナを集められたのに・・・残念
恐らく軽装の人は・・・スカウト
ダンジョンの罠を察知したり解除したりする調査にはうってつけ・・・イタズラ半分で仕掛けていた罠も軽く解除されてしまった
ディーン様のような騎士なら魔核は放置してただろうけど、騎士団にスカウトはいないと思うから・・・冒険者?
「・・・彼ら・・・何か話してる?」
《そうだね・・・映像だけじゃつまらないから声も拾うように・・・》
胸に突き出したダンコが一瞬輝くと彼らの声が聞こえてきた
既にダンジョンの最奥・・・今の段階のラスボスを倒したのに何を話しているのだろう
「ここで行き止まり・・・たったの3階って訳だ」
重厚な鎧を着た男が呟くとスカウトの男は振り返りディーン様を見た
「出来たばかりのダンジョンならこんなもんだろう?で?騎士団長殿感想は?」
「・・・公費を投入するに値しないかな・・・残念だけどね」
え?どういう事だ?
「まあそうだろうね。回収出来なければ無駄になる・・・無駄足だったね」
「厳しいようですがそうなりますね。期待していた村長には申し訳ないですが・・・ダンジョンコアを破壊した方が安全なのでは?」
「妾にとっての初ダンジョンがこれか・・・。実績として残るより消えてしまった方が良いかものう」
老女、老人に続いて少女まで・・・くっ・・・まるで僕のダンジョンが出来損ないみたいに・・・
《ロウ・・・悔しいけどこれが現実よ。踏破されれば侵入者が勝者で私達が敗者・・・何を言われても言い返せない現実・・・》
でも・・・まだ作ったばかりだし・・・これからもっと・・・
《まっ、彼らがコアを壊そうとしても壊せない・・・私達を見つける事など出来はしない・・・もっと強くなってリベンジを・・・》
「ダンコ!」
《・・・なに?》
「これから言う事が出来るかどうか教えてくれ!」
《え?》
「・・・ディーン様達に・・・僕達を認めさせてやる!」