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第5話 勇者義勇軍計画

一旦アルカさんに別れを告げ、僕とアスミアさんは王都に戻る。

アスミアさんは王城に、僕は酒場に帰る。

報酬をもらえば、次に考えるのは行き先だ。

単純に「勇者の技教えます!」と叫んで王都で仲間を探すのも限度がある。


勇者の技の大半はそもそも魔力の塊である魔王の実体のはっきりしない肉体に傷を負わせることに特化したもので、ゴーストや死神のような霊体魔物の相手をするのでもなければ特段に効果を発揮できるような戦技ではないし、霊体魔物への対抗手段なら神聖魔法や霊魂を浄化する聖水なども広く流通している。

そのうえ、本来は勇者の選任は神の領域にあり、その運命を与えられたものにしか「勇者」「勇者の仲間」を名乗ることは許されない。

勇者の技は神よりの賜りものであり、軽々しく世間に広めてはいけないことになっているし、仮に勇者の技を扱えるにせよ、それだけで勇者やその仲間は名乗れない。

僕も魔王在りし頃は「勇者の仲間」という名乗りがあるだけで町や関所の出入りは顔パス、王侯貴族への謁見も速やかに手はずを整えられた。

しかし、神の選任を抜きに勝手に魔王に立ち向かうという計画で教会のメンツをつぶし、宗教面で睨まれるのは困る。


おとぎ話の中には魔物とつるんでダンジョンに引きこもり、冒険者や国軍、聖職者の敵になる黒魔道士はいくらでもいる。

しかし現実問題、僕の計画はそのようなやり方では実現困難だ。

やりたいのは世界征服でも禁忌の研究でもなく、魔王討伐のための義勇軍結成なのだから。


むしろ教会にも協力してもらい、人集めや講堂等の貸し出しや正当性のお墨付きがもらえなくてはならない。

アスミアさんはれっきとした公権力の側の人間であり、騎士団や王への発言力も持ち合わせているだろうが、魔王亡き今ただの冒険者になった僕にできることは限られている。


行く宛てを考えるなら、教会の闇狩人や騎士に聖銀武具を卸す工房がある地域だろうか。

吸血鬼であり元より魔力を操れるアルカさんや王国騎士の訓練の中で魔法を習得しているアスミアさんのような人ばかりとはいかない以上、0から魔法習得にかかる時間を考えれば、義勇軍計画には魔王対策用に特化した聖銀武器が相当量必要になる。

教会関係者に話を通せなくとも、工房に用があるのは事実だ。


「ダン坊、工業地域に行くんなら、ついでに仕事があるぜ。受注者不在で困っている曰く付きでよければ、だがな。」

酒場のマスターは用意がいい。

ただ曰く付きというのが気になる。

「曰くというのは敵の強さと御守りをする相手の問題だ。教会に身を置く大貴族のご令嬢なんだよ。万が一にもが許されないような話だし大方の荒くれ連中に任せるわけにもいかんだろう?『暁の大魔女』お墨付きで『先代勇者の仲間』のダン坊くらいにしか、俺も頼める相手がいないとびっきりのやつだよ。」

こんなに都合のいい話があるだろうか。

いや、今はこの天祐を活かさなければならない。

「その依頼、引き受けます。」

受注を申し出て、依頼主のお嬢様のもとに向かうと、アスミアさんと部下の方々が馬車を用意して待っていた。

荷物の積み込みを行っている依頼主の方が、僕に気が付きご挨拶をくださる。

「シルク=ヴァイオレットと申します。この度は護衛を申し出ていただき、感謝いたします。」

まだ幼いが、さすがは貴族のご令嬢ということはあり、丁寧な仕草の礼だった。

行き先が同じだからと引き受けた依頼だけど、僕も気が引き締まる。

「工業地域までの間ではありますが、安全な旅になるよう、誠心誠意努めさせていただきます。」

僕も謁見のために学んだ礼をすると、馬車に乗り込む。

王都正門を出た馬車は、大きく西に方角を取り進み始めた。


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