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第16話 そろいゆく手札

魔道具工房に無理を承知でなんとか話を聞いてもらった後、シルク様は工房に依頼していたという髪飾りを購入なさっていた。

曰く、本来はノース様に自身の髪飾りへの返礼の品として渡す予定だった品らしい。

「この髪飾りを、ノースお姉ちゃんだと思って生きていきます。私には、もうそれしかないんです。」

気丈に笑って見せたその顔に、涙がこぼれていた。

「とりあえず、帰りの便は明日にして、今日はこの街を楽しみましょう。」

シルク様の提案で、僕たちは街の様々な場所を回った。


まずは南国の植物で飾りつけされたレストランで、先ほど悪魔との交戦で用いた果実のポンチをいただく。

口の中にさわやかながらに濃厚な甘みが広がる。

これをごくりと飲み込めば、まろやかな感覚が全身を駆け抜けてささくれだった心を優しく撫でまわす。

「たしかに、こんな味わいのものを食べれば怒りも吹き飛ぶというものですね。」

アスミアさんもすっかりリラックスした様子だ。

僕も、いつかドロテアとこのスイーツを並んで食べられたら、どんなに幸せだろうと夢想したけど、ドロテアはもういないのだという現実にすぐに引き戻される。


街の一等地から海を見渡せる展望台は、王宮よりなお高かった。

魔力式の昇降機で一気に上空に飛び上がり、そこから見渡す水平線は丸かった。

僕達が箒で飛び上がる高度よりなお高くなると、地平線はこのように見えるのか。

そんなことを楽しんでから、宿に入り荷物を整理していると、窓から一羽の伝書鳩が飛んできた。


「ダン君へ

あれから王都の魔術学校の先生や勇者の選任に立ち会う教会の司教様にも手伝ってもらって、聖銀の武器を勇者の武器に改造する方法がようやく見つかった。7日後に完成品の披露を行うのでぜひ来てほしい。

この武器が成功し次第、この街の鍛冶職人総出で増産に入る構えだ。」

「仕事が早いな。さすが王国軍の武具鍛造を一手に引き受けるだけのことはある。」

アスミアさんも手紙の内容に感心しきりだった。


そして、僕たちは翌朝の便で王都に引き返し、その足で工業地帯に向かう。

到着した僕達を出迎えてくれたイアナ様の父は、薄く虹に光る銀の剣を見せてくれた。

「ダン君、来てくれてよかった。メイ先生が言う勇者の魔法の一つ、月光の結界を武具に組み込んで、闇の魔力とやらでできたものもすっぱり斬れるようになったんだ。」

一緒に出迎えに来ていた先生も誇らしげだ。

「ダン君。これは快挙よ!人類史の教科書がまた分厚くなってしまうほどのね。

ただでさえ勇者の魔法は勇者と神の専売特許だったところから随分と進歩したわ。

ここまで必要なものがそろったら、あとは武器の量産と決戦用の築城、ダン君と私での魔王討伐参加者志願制の育成ね。

こちらはノースちゃんの実家から費用を、この街の建築業者から人や資材を出してもらえることになったわ。」


ここまで、立ち止まらずに走ってきた。

そして、ようやく土台の準備ができた。

此処から4年をかけて、僕たちは未だかつて誰も成し遂げられなかった魔王討伐の準備にかからなければならない。

「いつかはやらなければならない」という魔王との決戦は、現実にこの後に起こる出来事として動き始めている。

人の手で生み出された新たな勇者の武具を手に、あふれ出す勇気を感じた。

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