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他の女にあげるつもりか。
そう思い当たったのは、彼の手料理を食べた翌日の就業中のことだった。
最近のスマホの頻度といい、
逆にわたしに対する返信の速度と内容な薄さといい、他の女ができたとみるのが適当だ。
そしてたぶん、昨日のおそろいの服は彼が着たいのではなく、その女に着せたいだけなのでは、と思い当たるに至った。
思わせぶりな男は罪だな。
一瞬でも動揺した自分を恥じる。
期待なんてするだけ自分を傷つけるだけだ。
わたしの尖った部分をなめらかにしてくれていたはずの人間が、そのやすりでさらにわたしを尖らせ始めたのだと本能的に感じた。
わたしの鋭利な場所は鋭く深く誰かを傷つける。1人きりでいたほうが幾分楽な気はした。
「いつかあゆみさんが作って」
今朝来ていたLINEはそれだった。
わたしの手料理なんてたかが知れている。
そんなの別にいつでもいいよと返すと、予想外に喜んでいる反応が返ってきた。
甘えたいんだろうな、と頭の隅で思う。
誰かに甘えたくて寂しくて、そこに現れたのが年上でいかんせん面倒見のいいわたしだった。
自分を傷つけることに慣れているし、たぶんそこらへんの女の子より人に対する許容量が大きい。
普通の子がこんな男なら、と切り捨てるような賢さをもっているとするなら、わたしはそれができない甘さを持ち合わせていた。
つまり、死ぬほど自傷行為がうまく生まれついた、特技である。
それからだった、彼の連絡がさらに遅くなり始めたのは。
1時間に数度返ってきていたのが、
だんだんと数時間に1度に減った。
話題も途中で切ることが増えたし、
夜眠れないからと返信されていたはずのものがわたしからの連絡で終わることも増えた。
潮時なのか、彼にとって。
薄らとした意識。
どこか重苦しくて、永遠と副流煙を吸っている気分だ。
また終わりを持ちかけなければならないのか、と落胆する。
まだ猶予はあると思っていたのに。
「明日、ごはん作りに行っていい?」
数日後、そんなLINEを彼に送った。
「もちろん!嬉しい!」
そんな短文を読みながら、彼が真顔で煙草をふかしている様が想像できた。
あーあ、明日の終わらせ方を考えなければ。
エンディングを想像するのは上手くない。
ここで終わりだとはっきり示したいのに、それをするのは不得意だ。
それもまたわたしの生まれついた甘さゆえだろう。
お気に入りのものを誰かにあげるのはいつだって、笑顔でなくてはならないから。
自傷行為が得意なくせに、
それを他人に見せるにはわたしには演技力が足りない。
明日の買い出ししなきゃな、と思いながら、わたしは煙を燻らせた。