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  Ch.1.14:美少女と、協調

 クリスティーネの説明に、もっともだとユメカは頷いた。

 町の兵士が巨大ゴーレムの接近を知って、警告せずにいきなり攻撃するのは良くない。

 問答無用の先制攻撃をすれば交渉の余地がなく、勝つか負けるかの戦いにしかならないのだ。


「だから、全部あいつらが悪いのよ!」


 気持ちは分かるが、クリスティーネにも非はあるのだ。


「不用意に相手に脅威を与えたのも良くないから、まずはゴーレムを止めなさいよ」

「その前に。勝負よ」


 ブンブンとクリスティーネが魔杖を振る。

 かわいらしい仕草に、ユメカは微笑む。


「なんで?」

「わ、わたくしのおカネ、返してもらうわ」

「ああ、あれねえ――」


 ユメカは言い淀んだ。

 半分の五枚は返す予定だったが、汚染されて置いてきたのでもう返せないのだ。


「もうあたしの物だから」

「でですがあれがないとわたくし、生きていけないの!」

「どうして?」

「お師匠様がくださった大切な食費だからよ!」

「そっかあ。じゃあ、働こう。そして稼ごう。ニート生活はダメよ」

「ど、どういうことです。お師匠様は、児童労働はいけないと言ってましたわ」

「ああ、やっぱり十三歳だからね」


 ポンポンとユメカはクリスティーネの肩を叩いた。


「ち、違うわ。千十三歳よ」

 ふて腐れたように頬を膨らませ、黒クリは横を向く。

 火に照らされて、チークを入れたように見える。


「でも、あれが町を壊しちゃったら、買い物できないでしょう」

 はっとしたようにクリスティーネは魔杖を掲げた。

「そ、そうだったわ。マザー、止まって!」

 だが止まらない。

「ま、まさか、暴走してしまったの?」

 クリスティーネが険しい顔をしている。


「ねえ、黒クリちゃん」

「クリスティーネ・シュバルツ!」

「非常時に細かいところ気にしないの。それより、まずいよ」

「何がでしょう」

「ケガ人や、ましてや死人が出たら、あなたこの町に出入りできなくなるから」

「なぜ?」

「だって、あなたが連れてきたゴーレムが町を壊したなら、皆の恨みを買うじゃない」

「うっ。それは困りますわ」


「どうにか止められないの?」


「お師匠様は、暴走させてはダメだと、暴走したらもう止められないとおっしゃっていました」

「あなたの魔法で作ったなら、どうにかできるでしょう」

「無理よ! マザーはお師匠様が作ったのです。わたくしを守るために」

「その師匠はどこにいるの?」

「分かりません」

「どうして?」

「だって、五年前に出て行ってから、帰ってこないのです」


「それ、放置幼女の世界ね。ひどい師匠だ」


「いいえ。お師匠様は、日課を与えてくださいました。毎日何をするか、課題もくださいましたし、たまに魔法通信でお話もしました」

「リモート授業か!」

「なんですの、それ」


 ユメカは咳払いしてごまかす。

 異世界人に前世の世界の話をしても通じないのは分かりきっているのだ。


「そんなことより、町の人がケガする前に、ゴーレムを止めよう!」

「ど、どうしましょう」


 クリスティーネはおろおろと慌てている。

 悪い子じゃないとユメカは思った。


「倒してもいい?」

「無理です。マザーは強くて、わたくしの全力魔法で攻撃しても、びくともしないのです」

「いや、そうじゃなくて、倒していいかってことよ」

「ですから、倒せません」


 幼少期から共に暮らした偉大なゴーレムに対する、信頼の厚さなのだ。

 ユメカはポンと、クリスティーネの頭の上に手を置いた。

 見上げてくる幼い顔に戸惑いと照れの色が浮かんでいる。

 妹がいればこんな感じかなとユメカは微笑む。

 かわいい妹が欲しいと前世で思ったことがある。


「あたしは絶対無敵の美少女剣士ヤスラギ・ユメカ。だから、ゴーレムなら倒せるの。でも、あなたの大切なゴーレムなら、足止めして方向変えて、どうにか町から遠ざけるようにする。だけど、いつまでも戦い続けられないのよ!」


「あなたの体力が尽きるからですね」

「いや、そのまえにあたしの忍耐力が切れて、多分倒しちゃうからよ」

「へ……」


 クリスティーネのローブが、脱力したように肩からずれ落ちた。

 気を取り直したように、クリスティーネは魔杖を構えた。


「しかたありません。わたくしも協力しますわ。町を襲おうとしたのではありませんから」


 健気な態度だった。

 ゴーレムの暴走を止めるため、戦おうという決意が伝わってくる。

 クリスティーネの性根は腐っていないのだ。

「いい子だ」とユメカは頭に置いていた手を、クリスティーネの肩に乗せる。


「覚悟は受け取ったわ。だから、あとはあたしに任せなさい」

「わたくしも手伝います」

「いらないわ。大丈夫、どーんとオッケーよ」

「意味不明の自信がどこから湧いてくるのかしら」

「それはね、あたしが美少女で主人公だからよ!」


 ユメカはダッシュする。


「神剣グラビティーソード!」

 剣を持って跳び上がる。

「ヘヴィーウェイト!」


 ドーンとゴーレムの頭に剣を叩き付ける。

 ゴーレムがよろけ、燃える板塀へと倒れた。

 大地を揺るがす大きな音が響き、火の着いた破片が飛び散る。


「あ、延焼する、まずいな」

 どうしようかとユメカは周囲を見渡して考える。

「ここには湖があったよね」


 その水を使えば火を消せると思いついたその時、不意に声が響いた。

 ユメカは振り返る。

 魔杖を掲げて精霊召喚詠唱をする、クリスティーネの姿があった。

 魔杖の先端の袋は取り払われており、瘤のように膨らむそこには七つの魔石が嵌め込まれている。


「森羅万象たる世界の根源エーテルより生まれし四大精霊にして、水を司りし精霊ウンディーネよ。同じく風を司りしシルフよ。湖の水を吸い上げ天より降らせよ」


 クリスティーネが魔杖を天に突き出す。

 七つの魔石の内二つが輝き、光条が放たれる。

 風が吹いた。

 暗い湖面に竜巻が起き水が上空へと吸い上げられる。

 中に吸い上げられた水の塊は人の形になり、町の上空へと風と共に飛来する。

 燃えさかる街並みに、大量の雨粒となって降り注ぎ、たちまち火が消えた。


「やるじゃない、黒クリちゃん」

 ユメカが笑顔を向けると、クリスティーネは照れくさそうに指先で頬を掻いた。

「少しはわたくしも責任を感じていますから」


 やっぱりいい子だと確信して嬉しくなり、ユメカの心が湧いた。

 しかも大魔導師と自称するのも納得がいく魔力を扱える。

 頼もしく優秀でかわいらしい。


「なら、気兼ねなく」


 クリスティーネがフォローしてくれるなら、町の被害を気にせず全力で暴れられると、ユメカは笑った。

 のそのそと巨大ゴーレムが起き上がる。

 ユメカはゴーレムへとダッシュする。

 巨大ゴーレムから敵として認知されたようである。

 巨石のようの拳が迫ってくる。

 ユメカが大きく跳んで避ける。


 ドガーン。


 ゴーレムの拳で地面が陥没した。

 それだけでなく、巨大な腕の動きによって風が起こる。

 圧縮された大気が衝撃波となって広がる。

 ユメカはグラビティーソードで衝撃波を斬り裂く。

 だが周囲の衝撃波は後方へと走り、町を揺らし、窓ガラスを割り、屋根を飛ばす。

 ユメカは焦った。


 しまった――。


 空中でユメカは、振り返る。

 クリスティーネは魔法で衝撃波を防いでいた。

 その背後の街並みは無事だったが、町全体は守れないのだろう。


 早く終わらせよう。


 ユメカは巨大ゴーレムに視線を戻す。

 地面にめり込んだ腕を引き戻そうとしている。

 巨大で重量があるため動きは鈍重である。


「遅い!」


 ユメカは着地と同時に地面を蹴って、巨大ゴーレムの腕に跳び乗る。

 そのまま頭へと腕を駆け登る。

 巨大ゴーレムの逆の手が迫ってくる。


「あたしは蚊じゃないのよ!」


 駆けながらさらに跳躍する。

 巨大ゴーレムの手は目標を見失ったためか、無理な体勢をしたためか、よろけた。

 攻撃が単調で、連動性に乏しく、姿勢制御にも粗があるのだ。


「甘い!」


 巨大ゴーレム肩を踏み台にして大きく跳ぶと、頭上で宙返りして身を反転する。

 剣を両手で持ち、大上段に振りかぶる。

 一撃で決めて見せると、ユメカの決意がほとばしった。

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