九、衝撃
島の生活は一週間を過ぎ、雄太は少し、足を引きずりながらも順調に回復していた。
加奈はようやく疲労が抜けたところだった。
2人は引き続き探索開始ということで、島の密林を歩いていた。
歩く事、しばらく、ゴォ―という地鳴りのような不気味な音が2人の耳に聞える。
彼女は彼を見た。雄太はゆっくりと頷いた。
「ここだよ」
加奈は遠くからその穴を覗き見る。ぽっかりと口を開けた穴に真っ暗な闇があって、そこに思わず吸い込まれそうな感覚に襲われた。
雄太は用心をしながら腹ばいになり、匍匐前進をはじめた。
「大丈夫?」
雄太は後ろに続く、病み上がりの加奈を気遣い言葉をかける。
瞬間、彼女に躊躇いの表情が浮かぶが、こくりと頷くと彼に倣い匍匐前進をする。
穴の手前まで近づくと、雄太はポケットからライターを取り出し、暗闇に向かって明かりを灯す。
ぱっと光が闇を裂き、辺りを照らしだす。
そこに見えたものは、穴の途中に引っ掛かった、半分石化しているフロント部分だけのRV車だった。
「どう思う?」
雄太は率直に聞いた。
「これって車よね」
「ああ、でも変だろ。この車まるで化石のようだ。何十年・・・何百年いやそれ以上経っているようにみえる」
「・・・・・・うん・・・でも、どういうことだろう」
「で、ちょっと穴の中を調べたいと思うんだ」
「えっ、ええー!!」
加奈が驚いている間に、雄太は長い蔓を大木に巻きつけると、しっかりとそれを掴み、
「はい、命綱だからよろしく」
と、彼女に蔓を渡した。
「じゃ、行ってくる」
彼はそう言うと、はじめはへっぴり腰で、ずんずんと穴奥深く入ってく。
「ちょっと、ちょっと!もう!足っ、まだ治ってないでしょ!」
と呆れる加奈。
雄太は奥へ進む。
気になる箇所があれば、身体を壁にして風をよけ、ライターをつけて辺りの様子をうかがう。
やがて、雄太は建物の一部と思わしき柱を発見する。
そこには、何かペイントされた落書きが書かれていた。風化が進んでいて読みづらい、彼は柱にぴたりと身体をくっつけると、ライターをつけ近づいて文字を見る。
(英語・・・かな、える、おー、ぶい、いー・・・LOVEか、それから、いー、てぃ・・・ETERNAL永遠か・・・お熱いねぇ、その下は名前か・・・ジョンとカレン・・・英語の教科書か・・・おや?)
雄太は名前の下部分に埃にまみれ数字を見た。手でそれを払い目を凝らす。
(にー、まる、いち、ぜろ・・・)
「2010」
反芻する。
「2010!」
(9年後の未来・・・ありもしない・・・)
雄太は全身に悪寒が走った。踵を返し震える手でしっかりと蔓を握り締めると加奈の待つ地上へ全力でよじ登った。