八、看病
加奈の意識が戻ったのは、雄太が倒れてしばらくしてのことだった。
「う、う~ん」
ぼんやりな頭の中、目を開けてみる。
雄太が作った乱雑に敷き詰めた家の屋根の葉っぱが見える。
ゆっくりと起き上がろうとするが、身体が重くて動かない。
「・・・なにっ?」
彼が彼女に覆い被さっていたのだった。
一瞬、惑い、それから記憶が戻る。
「・・・・・・!」
加奈は慌ててジタバタする。
が、気を失って倒れている雄太の体重は、小柄な彼女にとって容赦なく重い・・・それでも。
「いやー!」
彼女は叫び声をあげながら、火事場のバカ力で彼を押しのけると、ダッシュで家を飛び出した。
それから木陰へと身を隠す。
(見られた。見られた。見られてしまった・・・)
羞恥の念が再び込み上げ、なんで裸になったんだろうという、最初の段階の後悔まで思い浮かぶ。
果てには、
(私は彼に襲われたのかしら)
とまで考えだす始末だった。
さすがに、雄太の今までのお子さまぶりを思うと、考えられないので、すぐに打ち消そうとした。だが、
(でも、どうして覆い被さっていたのかしら)
という疑問が頭をもたげ、なんだか頭の中が混乱した彼女は、ぽろぽろと涙をこぼした。
(・・・・・・)
加奈はしばらく思いっきり泣いたら頭がすっきりとした。
それから変だなと感じる。
雄太が追いかけても探しにも来ないのだ。
それにかすかに血の匂いがする。
愛想をつかされ家の中で怒っているのかとも思ったが、家の中は静まり返っている。
彼女はぐすりと鼻をすすり、空気をお腹いっぱいに吸い込むと涙を抑えた。
砂浜に脱ぎ捨てた服を取りに行ってから、家に戻ろうかと加奈は思ったが、変な胸騒ぎを覚えた。
彼女はこそこそと雄太が屋根代わりに一か所に集めていた余りの大きな葉っぱを拾うと、それで身体を隠し、急いで家へと戻る。
加奈はそろりと簡素で簡易的な家の中を覗き見た。
「・・・・・・えっ!」
雄太の足から大量の血が流れていて、丸太で敷き詰めた床の一部が真っ赤な水溜まりになっていた。
慌てて駆け寄る彼女。
彼の顔は血の気が無く青ざめていた。
加奈はあたふたとなる自分を懸命に抑えながら、止血を試みる。
まず、足の傷口を見つけ出し、手で抑える。
しかし、傷口は深く血は止まらない。
彼女は自分の身を隠した葉っぱを傷口に巻きつけ、家の柱に結びつけ固定していた蔓を無理矢理ほどく、一瞬、ぐらりと家が揺れるが、そんなのはお構いなしだ。彼の足首に葉っぱごと縛りつけ、両手で傷口を抑え続ける。
(お願い、止まって!)
加奈は懸命に祈った。
やがて、その祈りが通じたのか雄太の傷口から流れていた血が止まった。
(・・・油断は出来ない)
彼女はそう思った。
(彼は多量の血を流している)
しかし、そういう思いとは裏腹に加奈は安心で脱力してしまい、その場にへたり込んでしまう。
天井を見上げる家が傾いている。無理矢理、蔓をほどいたのを思いだした。
(あっ、そうだ!私、裸っ、裸だっ!)
錯綜する思考の中、彼女は立ちあがり、外へ駆けだそうとするが、彼の様子が気がかりとなる。
じっと雄太を見つめる。彼のさっきまで荒かった呼吸も安定し、静かな寝息をたてている。
加奈はゆっくりと雄太の顔を覗き込んだ。
「う、うーん!」
彼が大きな寝返りをうつと、傾いた家の天井屋根の葉が、落ちてくる。
バサッ、バサバサッという大きな音と衝撃に、彼は驚き気がついた。
目の前には・・・彼女の裸。
「うわーっ!」
思わず、雄太は叫ぶ。
「きゃーっ!」
返す加奈の絶叫。
彼女は家を飛び出し、そのまま砂浜に服を取りに駆ける。
また雄太に裸を見られたことは、恥ずかしかったし、腹ただしかったりもしたが、なにより彼が無事であることが嬉しかった。
彼は彼女の背中を見ていた。それから視線を痛む足へとむける手当が施されている。自然と顔がほころぶ。
(良かった・・・生きている)
そっと唇に触れ、また笑った。
しかし、2人の疲労は激しかった。
加奈が着替えて戻ると、雄太は傷口が熱を帯び、それから高熱を発した。
再び、必死に看病する彼女、2日後に彼が回復に向かう。が、そけまでの無理がたたり今度は加奈がダウンしてしまう。