七、チェイス・トゥ・ザ・シー
「いやー、来ないでー!!」
雄太がぐんぐん近づいて来る。
加奈は顔を真っ赤にして必死に逃げようと泳ぎ続ける。
しかし、彼の圧倒的なひとかきのストロークの大きさは歴然、さらに長い間、慣れない泳ぎを続けた彼女の体力は限界だった。
そんな加奈を支えているのは、決して見られてはいけないという羞恥心だけだった。
が、雄太は一心不乱にクロールで泳ぎ、彼女の眼前まで近づいた。
咄嗟に加奈は彼の脳天にチョップをお見舞いし、海中へと潜り込んだ。
いきなりの攻撃に雄太は大量の海水を飲み込み、むせ返ってパニックになってしまう。
「・・・なんなんだ、くそっ!」
雄太は気を取り直すと、加奈を追いかけ潜り、彼女を視界にとらえる為に目を開けた。
振り返る加奈、2人の目が合う。
「いたっ!・・・・・・ぶっ!!!」
驚きで、再び海水を飲み込み、慌てて海面へとあがる。
(見られた・・・)
彼女は全身が燃え滾る羞恥を感じた。
その時、
(・・・・・・!!!)
足がつってしまう。
慌てて海面へあがろうとするが、足が動かないので遅々として上まで届かない。
やがて、息のもたなくなった彼女は、そのまま意識を失ってしまった。
「ぐわっ、ぐわっつっっぷっ!」
海面に顔を出した雄太は、口内の海水を吐き出す。
(彼女・・・真っ裸だったよな・・・そうか、それでか・・・)
ようやく加奈の蛮行を理解した雄太は、そっとしておこうと砂浜へ戻るべく、反転し泳ぎはじめた。
(加奈さんの裸・・・)
雄太はにへらと笑らい、振り返る。
海面は穏やかな波が揺めいている。
(・・・?)
異変を感じた。
彼女の姿がいつまでたっても見えないのだ。
「しまった!」
雄太は全速力で泳ぎ引き返し、加奈の消えた場所で潜る。
気ばかり焦り、思うように進まないもどかしさを感じながら、必死に奥へと向かう。
(・・・いたっ!)
底にうつ伏せ状態の彼女を見つけた。
雄太はほっとしつつ加奈の安否を思う。
裸を見ないようにして、彼女の両脇を両手で抱え込み持ち上げると、底を蹴り上げ、一気に海面を目指す。
「っ!」
海面に顔を出す、彼に激痛が走った。
蹴り上げたさい、岩場の尖った部分に足が刺さってしまい、足の裏からは血が流れ続けてる。
しかし、彼は懸命で一時の激痛も忘れ、ただひたすら砂浜へ向かい泳ぎ続ける。
なんとか砂浜にあがると、加奈の口元に耳をあて呼吸を確認する。
背筋が凍る呼吸をしていないのだ。
雄太は思いだす限りの知識を振り絞り、加奈の背中を叩いて海水を吐き出させる。
やがて日は沈もうとする中、彼はありったけの息を吸い込み、加奈の口に自分の口を押しあてる。
それは純粋な行為、ただひたすら彼女が戻ってくることを願い、人工呼吸を何度も繰り返す。
・・・やがて。
「ぐっ!すー、すー、すー」
加奈の呼吸が戻った。
雄太は喜びで脱力する。
それから彼は意識の朦朧とする中、彼女を抱え運ぶ。
そうして完成間近の家になんとか辿り着くと、彼は力尽きて倒れた。