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六、探索


 密林の中で雄太は行動範囲を広げようとさらに奥へと進んでいった。

 島の中央には傾斜がきつい山があることを確認した。

 体内時計で、およそ30分、そろそろ引き返そうかと思った時、大きな穴を見つけた。

 ゴォーという地の底から響く地鳴りのような音が聞える。

 彼は恐る恐る近づいてみる。用心深くうつぶせになり、匍匐前進した。そうしないと、吸い込まれそうな気がしたからだ。

 穴を覗き見る、大きくて深いその穴は、どこまでも、どこまでも深い闇が続いていた。

 ポケットからライターを取り出し、穴底の闇に向かって照らしてみる。

 しかし、片手だライターをつけたので、吹き上げる風に火は消されてしまった。

「くそっ」

 両手で風を防ぐと火を点けた。

 底を見る。

「・・・!」

 思わず、ライターを落としそうになり、慌てて手を引っ込めた。

「これは・・・」


 加奈は青い海の中にいた。

(ここはきっと、誰もいないし、雄太もいない)

 大胆になった彼女は、一糸まとわぬ、生まれたままの姿となり、気持ち良く穏やかな海を泳いでいる。

 しばらくして仰向けとなり太陽を見る。

 そうすると加奈は海と太陽にやさしく抱きしめられているような感覚になった。

 ゆっくりと目を閉じた。あたたかいひたすらあたたかい海に身を任せる。

「母なる海」

 彼女は自然とそう呟いた。

(間違いない、そうなんだ)

 と、確信した。


 今度は海に潜ってみる。

 加奈はあまり水泳が得意ではなかった。

 だが、彼女はなんの恐れも抵抗もなく、どんどん潜っていく。

 閉じていた瞳を開けてみる。

 海水で目が沁みるかなと思ったが、全くそれはなかった。

 青く透きとおる美しい海中に、色鮮やかな熱帯の魚に珊瑚礁の森、はじめて体験する世界に加奈は興奮し感動した。

 時間を忘れ、海に魅了される。

 ふと、その時、海の底で光輝く何かが見えた。

 さらに潜って手を伸ばしそれを拾おうとするが、息がもたなくなり、慌てて海面に顔をだした。

 彼女は外の空気を目一杯吸い込む。


 その時、

「おーい!」

 雄太は加奈に向かって大きく手を振った。

 海面に顔だけだす彼女にもはっきり聞える大きな声だ。

 手を振って答えようかと一瞬思ったが、はっと我に返る。

(いけない!私、スッポンポンだった・・・)

 途端に羞恥心が込み上げてくる。

 かーっと頭に血が昇り思考回路がわちゃくちゃになってしまう。

 とりあえず、彼女は彼から離れようと、沖に向かって泳ぎはじめた。

 雄太は聞こえてないのかなと思い、さらに大きな声で、

「加奈さ~ん!」

 と叫ぶが、返事はない。

(あれ、聞こえていないのか・・・)

 大きく息を吸い込んだ彼は、腹の底からの大音声で、

「お~い、加奈さ~ん!!!」

 と、力一杯叫んだ。

 だが、加奈はどんどん離れ泳いでいく。

「・・・・・・」

 雄太は砂浜へ駆けだすと、Tシャツを脱ぎ捨て、海へ入って泳ぎだす。

 その瞬間、

「来ないでー!!」

 彼女の絶叫がする。

(聞こえているのに無視するとは、どういう了見なのだろう)

 ふつふつと怒りが沸いた雄太は、彼女の言葉を無視して猛然と泳ぎ進む。



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