三、2人きり
静かな波の音が聞える。
加奈は目を醒ます、辺りは真っ暗だ。
目の前には砂浜が広がっている。砂の熱さは夜闇によって奪われヒンヤリとしている。
うつぶせに寝転ぶ彼女の口の中には砂が入っていて、一瞬、むせ返り吐き出すが、まだ、ざらざらしていて気持ち悪い。
加奈は舌を口の中で、コロコロと動かし砂を唾液にまぜて唾を吐いた。
上半身を起こすと、拳で砂を数回殴り、それを掴むと無造作に投げ捨てた。
それから、ごろりと転がり仰向けになった。
彼女の視界にすべてに広がったのは、手を伸ばせば思わず届きそうな、満点の星々だった。
あまりの光景に、加奈は瞬きもせず、じっと夜空を眺めていた。
彼女の瞼から、涙が溢れだすと、頬をつたわり一筋の川となって、乾いた砂の上に落ちた。
嗚咽が漏れるが、涙を拭くことも嗚咽を抑えることもせず、ただ涙に潤む瞳で星を見つめていた。
(私どうなってしまうんだろう・・・彼は?)
そう思うと、より不安や恐怖がこみあげ、涙と嗚咽が激しさを増す。
「見つけた。加奈さん!」
さっきまで耳慣れたやかましい声が遠くで聞こえた。
足音がだんだん近づいて来る。
不意に加奈の涙と嗚咽が止まった。
「雄太君!」
加奈は立ちあがると、雄太へと駆けだす。
しかし、暗闇の世界、2人は勢い余って激突した。
尻餅をつき、お互い痛さでうずくまるが、互いに無事だった喜びで自然に笑みとなる。
それから2人は、砂浜で仰向けになって星空を見つめた。
「びっくりしたよ。大きな泣き声が聞こえたから」
「普通、こんな状況になったら誰でも泣くよ」
「そうかな」
「そうよ」
加奈はまた泣きそうになるのを悟られないように、そっぽを向いて上半身を起こす。
「でも、俺は真っ先に君を見つけないと、と思ったよ」
「・・・それは、あなたが強いから」
「そうかな?」
「そうよ」
彼女はまた仰向けになり、2人して星を見続ける。
加奈は不安を口にする。
「・・・ねぇ、これから、どうなるのかな?」
「さぁ?」
「さぁ、はないでしょう」
「俺も多少・・・混乱しているんだ」
雄太は顔を曇らせ、頭を掻いた。
「・・・ごめんなさい」
加奈はつい謝った。
「へっ、なんで謝るの」
「だって、何となく・・・」
彼女はそう言ったきり、俯いて黙り込んでしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そんな加奈を景気づけようと、雄太はつとめて明るい声で、
「でも、これだけは言えると思うな」
「何?」
「俺たちは生きている!」
「へっ?」
彼女は彼が言わんとすることを理解出来なかった。
「以上」
スパっと言いたい事だけで打ち切った。
「ちょっと、分からないわ」
「じゃ、俺たちは生かされている・・・つーか、生きているので、やることがある」
「・・・・・・?」
加奈は考える。
(生かされている?なるほどそうだ。あれだけのことがあって、私達は生きている。生かされていると考えるとやるべきことがあるはず)
そう思うと、彼女は少しだけ前向きになれた。
「どう?」
「なんとなく、分った・・・ような気がする」
「じゃあ、しっかり生きなくっちゃ」
「うん、そうだね」
加奈が微笑むと、雄太も微笑み返した。
2人は満点の星空を再び眺める。
すると、彼女は思いのほか、心地の良い風が吹いていることに気がついた。