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07

 街に入ると2人はリリが泊まっている宿屋に直行した。


「女将さん、ただいま」

「リリちゃん!お帰り。怪我はしてない?」

「うん。大丈夫。ところで部屋って空いてるかな?この人を泊めたいんだけど」


 リリは女将にローランを紹介する。


「依頼先で会ったんだけど…」

「リリの夫のローランです」

「ちょっ!!」


 何と説明するかな、と迷っている間にローランが自己紹介してしまった。女将はあらあらと目を丸くしている。リリは慌てて弁解しようとした。


「ちがっ違うの!夫っていうのはローランが勝手に言ってるだけで…!」

「女将さん、2人部屋は空いてますか?」

「ちょっとーーー!」


 ローランがにっこりと笑顔で聞くと、女将は心なしか頬を染めて台帳を確認し始めた。

 女将は40歳を過ぎたくらいの既婚者だが、ローランの前では年齢も夫がいることも関係ないらしい。


「女将さん!違うんです!!」


 リリが必死に否定するが、女将は部屋の鍵を出してきてローランに手渡した。


「ローランさん、あんた男前だねぇ。歳はいくつだい?」

「…25歳です」

「そうかい。リリちゃんと似合いの年齢じゃないか」


 女将はカラカラと笑うと、ローランをバシバシ叩いた。


「リリちゃんにはいつも1ヶ月分前払いでもらってるけど、今回もそれで良いかい?あ、リリちゃんの部屋は片付けたら鍵を返してね。そっちの部屋の残り日数分の代金は日割りで返すから」

「それで結構です。ありがとうございます」


 あたふたするリリを放置して、ローランは女将に言われた金額を支払っている。リリの抗議もむなしく、あれよあれよという間にリリはローランと同室になってしまった。

 ローランはしまいにはリリがもともと使っていた部屋の鍵を奪い取ると、荷物を取りに行きましょうと上機嫌で階段を上って行ってしまった。


「もう…なんなの…」

「リリちゃん、良さそうな人じゃないの。リリちゃんも本当に嫌だったらここに連れてこないでしょう?」


 女将にそう言われ、リリはうっと言葉に詰まった。そうなのだ、もし心底嫌だったのなら、ここまで付いて来させなかったし、何が何でも逃げ出していただろう。リリはなんだかんだでローランを気に入り始めているのだ。


(だって料理美味しかったし…いろいろ世話してくれるし…)


 ぶつぶつと心の中で言いながら、リリはローランの後を追った。


「ねえ、本当に同じ部屋に泊まるつもり?」


 リリはしぶしぶ部屋の荷物をまとめながら、ローランに聞いた。


「そうですけど」

「年頃の男女が同室とか…」

「年頃も何も、夫婦じゃないですか」

「いやそれはあんたが勝手に言ってるだけで、私はまだ認めてないから」

「まだ、ということは認める予定なんですね」

「あ、いや、そうじゃなくて、って揚げ足取らないでよ」


 ムッとしながら荷物を担ごうとすると、さっとローランが持ち上げた。そのまま部屋を出ると、2人部屋に向かう。

 リリが今まで借りていた部屋よりはるかに広いその部屋を見て、まずリリは高かったのでは?と思った。そういえば部屋代はローランが全額支払ってしまった。リリも半額支払うべきだろう。


「部屋の代金はいくらだった?半額払う」

「いえ、部屋代くらい払わせてください。そのくらいの甲斐性はありますよ」


 でも…、というリリを無視して、ローランは荷物を置いた。


「そういえばさっき、女将さんには25歳と説明しましたが、本当は113歳です」


 突然の話題の転換と内容に、リリは一瞬ぽかんとした。


「え?113歳?冗談?」

「いいえ。ドラゴンが長寿だというのは話しましたよね?一般的にドラゴンの寿命は500歳前後です。今の私は人間で言うと20代というところでしょうか。ドラゴンの中では若輩ですが、リリよりはいろんな経験をしていますよ」


 あくまで真面目な口調で話すローランに、リリは事実なんだろうな、と思った。昔冒険者をやっていたとも言っていたし、この街に来る道中で話した限りでは、ローランは博識でいろいろなことを知っていた。魔法の扱いにも長けているし、それも人間より長い年月を生きているからなのだろう。

 リリはブーツと上着を脱ぐと、手前のベッドにごろんと横になった。まだ夕方だが、依頼先で宿に泊まらなかったので久しぶりのベッドである。横になりながらうーんと背中を伸ばす。


「ドラゴンの寿命が500歳ってことはさ、人間と結婚したらまず間違いなく先立たれるってことだよね。なんか寂しいなぁ」


 ローランは父親が人間だと言っていたはず。ということは、既に父親は亡くなっているのだろう。


「いえ、ドラゴンの儀式に魂分(たまわ)けというものがありまして、それをすれば伴侶になった人間もドラゴンと同じくらいの寿命を得られますよ」

「ええ!?嘘っ…」


 もし本当だとしたら、それってとんでもない儀式じゃないだろうか。世の中には不老不死の薬を追い求める人もいるくらいだ。そういう人たちからすれば、垂涎ものなのでは…。


「ぐ、具体的にはどうするの?」

「魔力を交換するんですよ」

「交換する?どうやって?」

「それは…んんっ、秘儀中の秘儀ですので、時が来ればお教えします」


 時が来れば…ということは、もしかしてローランはリリに対してその魂分けの儀式を行うつもりなのだろうか?リリのことを伴侶と言ってはばからないし、やっぱりそのつもりなのだろう。どうしよう?などとリリは考えていたので、ローランが少し目元を染めていることに全く気付かなかった。

 今はやるつもりはないみたいだし、考えても仕方ないかとリリは目を閉じる。ふかふかとまではいかないが、頬に当たる清潔なシーツが気持ちいい。


「リリ?ちょっと、まさかそのまま寝るつもりですか!?」

「んー…」

「いくらなんでも無防備すぎませんか!」

「襲うなら野宿の時に襲ってるでしょ?」

「そっ、そうですけど…ってそうじゃなくて、いえそれもありますけど、さっき同室がどうこうって言ってたばかりなのに…って、え?着替えもシャワーもしないんですか?」


 確かに野宿が続いて体は綺麗じゃないし、なんだったら汗臭い。でも今はベッドで寝たい欲が何よりも勝っていた。


「おやすみー」


 言うなりあっという間にリリは夢の中に入っていった。


「ちょっと!…えぇー…本当に寝ちゃったんですか…」


 ローランはため息をつくと、リリの靴下を脱がせてからそっと掛け布団を掛けてやった。

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