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06

 荷物を片付けると、2人は出発した。今日も1日歩き通して、明日の夕方にはエルールに着くだろう。

 一応周囲に警戒しながらも、2人並んで歩く。天気も良く、時折吹く風が心地良い。右手に森、左手に草原を見ながら街道を歩き、リリたちはぽつりぽつりと会話した。


「リリは冒険者、なんですよね?」

「うん。一応上級だよ。あ、上級って分かる?」

「はい。私も一時期冒険者をやっていたことがありますから。リリはまだ20歳くらいですよね?その歳で上級になるのはかなり苦労したのでは?」


 ローランの言葉に、リリはそうだなぁ、と答えた。


「15歳で実家を飛び出して、がむしゃらにやってきて7年、気付いたら上級になってた。幸い魔力が多い方だから、魔法をいろいろ使えるってのが大きいかも」

「なぜ冒険者になろうと思ったんですか?もっと安全な仕事もあるでしょう」

「まぁ、簡単に言えば、家を出てから最初に面倒を見てくれた人が冒険者だったから、成り行きで、かな」


 リリが実家を飛び出したとき、それを手伝ってくれた人がいた。その人の知り合いの元に身を寄せたのだが、たまたま冒険者だったのだ。しかもひとところに留まるのが苦手な人だったので、おかげでリリは国中のいろんなところを転々としながら鍛えられた。3年で中級に上がって独り立ちしてからは、大体1~2年おきに拠点を変える生活をしている。


「ローランはなんであの森に来たの?ドラゴンって基本は群れで暮らしてて、めったに人里に降りてこないんでしょ?」

「…それは、その。いろいろありまして」

「いろいろ?決闘で負けて追い出されたとか?」


 ローランはそういうわけでは、と言ったきり、口をもごもごさせた。どうやら言いたくないけれど、嘘もつきたくないらしい。


「言いたくないなら別に無理に言わなくても良いけど。でも普通の人にとってはドラゴンはただ怖いだけの存在だってのは、もっと理解した方が良いよ」

「そう、ですね…リリは、私が怖いですか?」

「いや、別に」


 ドラゴンが会話ができる知能の高い生き物だというのは分かっているし、料理まで振る舞ってくれたローランを怖がる理由はない。

 リリの言葉にローランはホッとしたようだった。

 そのまま昼まで歩き続け、太陽が天高く昇った頃に昼休憩をすることにした。ローランはまたもや料理をするつもりらしく、せっせとたき火の用意をしている。あとは火をつけるだけ、というところまで用意すると、リリに待っていて下さいと声をかけて森の中に消えていった。

 リリはとりあえず腰かけて、武器の手入れをしながら待った。

 しばらくするとガサガサと草をかき分けてローランが戻ってきた。その手には1羽のウサギ。

 わざわざ狩ってきたのか、とリリが驚いていると、ナイフで丁寧に捌き始めた。血抜きはしてきたらしい。


「それ、どうやって狩ったの?」


 ウサギの頭には小さな穴が1つ開いていた。どうやら1撃で即死させたらしい。


「魔法で氷の矢を射ったんですよ」


 ウサギは小さくて素早い獲物だ。その頭を一突きとは、よほど狩りに慣れているのだなとリリは感心した。


「ドラゴンの姿だったら丸飲みですけど、私は幼い頃は人間に混じって育てられましたし、どちらかというと人間の生活のほうが慣れているんです」


 話しながらもローランはてきぱきとウサギを解体して、調理し始める。

 たき火に火をつけて鉄板の上で焼き始めると、肉の焼ける良い匂いが漂ってきてリリのお腹がぐぅと鳴った。

 肉が焼けると、串に刺したものがリリの前に差し出される。


「良いの?」

「もちろん」


 リリはありがたく頂くと、肉に噛り付いた。しっかりと下味が付けてあって、臭みもなく美味しかった。

 差し出されるままに食べ続け、気付けば2人で1羽丸ごと食べ終わっていた。

 食後にはどこかで採ってきたらしい果物まで切って出され、リリは早くもローランに絆されかかっているのを自覚した。というより胃袋を掴まれかけていると言った方が正しいのか。


「リリ、付いてます」


 親指で口元に付いた果汁を拭われ、思わずリリは動きを止めた。


「あ、ありがと…」


 ローランはにこりと笑うと、後片付けをし始めた。

 食べかすを拭われるなんて、まるで恋人みたい…いや、それにしては甘さがなかった。どちらかというと母親が幼子の口元を拭ってやるような、と思ったところで、リリは考えるのを止めた。どちらにせよ、どう反応すればいいのか分からなかったのだ。

 結婚のインパクトが強すぎてあまり意識していなかったが、リリは遅ればせながらローランが美しい顔を持った好青年であることを認識した。スラリと伸びた四肢にサラサラの銀髪。結婚に関してだけは頑なだが、それを除けばちょっと世話好きの、まめまめしい好青年。リリに好意を持っているかはよく分からないが、少なくとも大事にはしてくれるつもりらしいし、これは好物件と言うのでは、とちらっと思った。

 とそこまで考えて、リリはハッと我に返った。相手は今は好青年に見えるが、その実態はドラゴンである。しかも訳の分からない儀式でリリと結婚したと言い張っている。ドラゴンなんてやっぱりナイな、とリリは思った。


「ごちそうさま、ありがと」

「どういたしまして」


 片付けが終われば出発だ。2人はまた街道を歩き続け、夜には野宿をして、予定通り翌日の夕方にエルールの街に到着した。もちろん道中の食事は全てローランが料理を振る舞ってくれた。

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