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04

 モンスターのほとんどいない森の中を、村に向けて黙々と歩く。

 2人分の足音と鳥のさえずりや木々のざわめきを聞きながら、ふとリリはドラゴンの名前を聞いていないことに気付いた。


「あのさ、あんた何て名前なの?」

「ローランです」

「私はリリ。ローラン、さっきも言ったけど、私は結婚したつもりはないし、あんたを養う気もないからね」

「自分の食い扶持くらいは自分で稼ぎます。少しは蓄えもありますからご心配なく」


 それなら良いけど、とリリは少し安心した。上級冒険者でそこそこの稼ぎがあるとはいえ、リリにはローランと結婚したつもりもなければ、ローランのためにお金を使う気もさらさらなかった。


「そういえばなんで敬語なの?最初はもっと偉そうな話し方してなかった?」

「それは…この話し方が素なんですが、ドラゴンの威厳がないから止めろと言われていまして。だからドラゴンの姿で人間と話すときは、なるべく上から目線で話すようにしているんです」


 ふーん、とリリは自分で聞いておきながら興味がなさそうに相槌を打った。偉そうな物言いよりは好感が持てるかな、くらいの感想である。

 村に戻ると、リリは村長の家を訪れた。

 村長は顔を合わすなり、どうだったかとリリに尋ねた。


「ドラゴンは追い払いました。ここの森に戻ってくることはないと思いますので、安心してください」

「本当かね!?それは助かった」


 村長は安心した、というように息を吐いた。


(というか今まさに私の背後にいるんだけど)


 という心の呟きはもちろん誰にも届かない。


「村長さん、追加報酬の件ですが」

「ああ、もちろんちゃんと支払わせてもらうよ。ギルドを通して受け取って下され」


 ありがとうございます、とリリが礼を言うと、そこでようやく村長はリリの後ろの青年に気付いた。


「そちらの男性は?」

「ああ、彼は」

「ドラゴンに驚いて転んで動けなくなっていたところを、リリさんに助けられました。お礼をするために同行させてもらっているんです」


 ローランの言葉に、リリは何をいけしゃあしゃあと、と思ったが口には出さなかった。村長に本当のことを言う必要もない。


「村長さん、ここからエルールの街まで馬車は出てますか?」

「定期的には出てないのぅ。村の者が街に出る時は、歩きか時々来る商人の荷馬車に乗せてもらっておる」


 そうですか、とリリは言うとローランを振り返った。


「今日はそんなに疲れてないから、今から歩きで村を出るけど、あんたはどうする?私が拠点にしてるエルールまで3日くらいかかるけど」

「もちろんご一緒します。野宿するなら、少し買い物をしたいのですが」


 野宿をすることを考えると、リリも携帯食糧を買い足しておきたい。2人は道具屋や食料品店を回り、それぞれ必要なものを購入した。

 買い物を終えると村を出て街道を歩く。この辺りは野党やモンスターがあまり出ない安全な地域だ。だからリリも必要以上に警戒することなく、どこかのんびりとした歩調で歩いていく。

 ポツポツとローランと話しながら数時間歩き、暗くなる頃には野宿することにした。

 街道から少し離れ、大きな木の根元に腰を下ろす。リリは荷物から携帯食料を取り出すと、ローランに夕食にしようと言った。


「そうですね…って、もしかしてそれだけですか!?」


 携帯食料と水だけで済まそうとするリリを見て、ローランはなぜかギョッとしていた。

 ドラゴンのローランは携帯食料を見たことがないのかと、包装紙を少し破り、いろんなものを練りこんで棒状に固めたそれを見せ、リリは説明を始めた。


「この携帯食、味はいまいちだけど栄養はしっかり取れるし、少ない量でお腹いっぱいになるから持ち運びにも便利だよ?」

「まさか、エルールに着くまで全てそれで済まそうとしてます?」

「そうだけど」


 ローランはしばし絶句すると、荷物をごそごそと探り始めた。


「食べるのはちょっと待ってください、今準備しますから!」


 そう言うと、ローランは周辺から薪になりそうな木を探してきて、あっという間にたき火を作り、大きな石で囲んで網を乗せて鍋を置いた。鍋に魔法で水を入れて火にかけると、今度は荷物から芋やら干し肉やら調味料やらを取り出してきて、下準備を始めた。


「やけに荷物が多いと思ったら、あんたそんなもの持ってたの?」

「そんなものとはなんですか!食事は大切でしょう。3日分くらいなら持ち運べますし」

「携帯食料で十分じゃない。私は野宿に美味しい食事を求めてない」

「私は野宿だからこそ、美味しい食事で英気を養うべきと思います」


 リリとしては、日持ちもして持ち運びに便利な携帯食料さえあればそれで十分だし、今までもずっとそうしてきたので、ローランの主張には同意できないが、自分に迷惑をかけないのなら勝手にやってくれ、というところである。なにより野宿でわざわざ料理をするなど、面倒臭いの極みだった。


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