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祝言の日は天気に恵まれ、朝から太陽がまぶしいくらいだった。
リリは朝早くから里の女性たちに体中を磨かれ、化粧を念入りに施されて、里に来てから伸ばしていた髪を結われていた。ドレスに袖を通すと、そこには冒険者のリリではなく、姫だった頃のリナリアを彷彿とさせる、美しい女性がいた。ドレスは肩を出すタイプで、胸から腰に掛けてぴったりと体のラインに沿い、そこから下は床に着く長さのスカートがふんわりと広がっている。レースがふんだんに使われ、ところどころにキラキラと輝く宝石が編み込まれていた。
久しぶりに履くヒールに、自然と背筋が伸びた。
「さすが元王女様は立ち姿も美しいわねぇ」
準備を手伝ってくれた義母がリリを見てほぅとため息をついた。
「リリちゃんって時々、やっぱり王女様だったんだなぁって思わせる瞬間があるよね」
「そうそう、大口を開いて笑ったり食事したりしないもんねぇ」
他の手伝いの女性たちも口々に言うが、リリは自覚がなかったので、そうだろうかと行動を振り返ってみる。
ずいぶん冒険者としての振る舞いが身に付いていると思っていたが、幼いころから教育された所作はそうそう簡単に抜けるものではないらしい。
コンコン、とドアがノックされ、ローランの声が聞こえた。
「リリ、準備できましたか?」
義母がドアを開けると、そこにはドラゴンの正装をしたローランが立っていた。立ち襟で袖が広がっており、膝丈まである上着に、ゆったりとした長ズボン。上着にはドラゴンを模した刺繡が入っており、刺繍糸が光を反射して輝いていた。
リリが身動きすると、髪飾りがしゃらりと音を立てた。
「…」
「ローラン、格好良いね」
ローランが黙ってリリを見つめるので、リリが先に感想を言ってみた。
するとドアの横に立っていた義母がローランの背中をバンと叩いた。
「っげほ!!り、リリ…すごく綺麗です。似合ってます」
「ありがと」
はにかむように笑うと、ローランはリリの目の前に片膝をついて、リリの左手を取った。
「リリと結婚出来て良かったです…リリを幸せにすると誓います」
ローランはいつの間にか指輪を手にしており、それをリリの薬指にはめた。人間の国での結婚式を模してくれているらしい。
わざわざ用意してくれたことが嬉しくて、リリは言葉が出なかった。今喋ったら涙が流れてしまうかもしれない。
リリの表情からローランは察したのか、すっと立ち上がるとリリの目元にそっとキスを贈った。
「今泣くと化粧が崩れてしまいますよ」
「わ、分かってる!」
「フフ、では行きましょうか」
左手を差し出されたので、右手をそっと添えてエスコートされる。会場は初めて里に来た日に宴会を行った宴会場だ。会場に入りきれない人が宴会場前の広間に集まっていた。外でも宴会をするらしく、机と椅子が並べられて料理が用意されていた。
会場に入ると拍手で迎えられる。リリとローランは全員が見渡せる中央の席に座った。ドラゴンの宴会は通常、床に座って行われるのだが、ウェディングドレスでは座れないので、リリとローランにだけ椅子と机が用意されていた。
里長が立ち上がり、話し始める。
「皆の者、今日はローランとリリの祝言に集まってくれてありがとう。ローラン、リリ、結婚おめでとう。今日という良き日を迎えられたことを、里長としても祖父としても嬉しく思う。これから過ごす長き時には、嬉しいことも辛いこともあるだろうが、互いに支えあって良き夫婦となってほしい」
ローランとリリは里長の言葉に黙って耳を傾け、頷いた。
「堅苦しい挨拶はこれくらいにして、今日という日を喜び、楽しもう。ローランとリリに幸多かれ!乾杯」
乾杯の後は、挨拶の嵐だった。半年前の歓迎の宴よりも多くの人々がローランとリリの元を訪れ、祝いの言葉を述べていく。
半年前と違うのは、ほとんどの人と顔見知りであることか。皆に祝われ、リリもこの時ばかりは喜びに浸った。
挨拶が一段落すると、ようやく料理を口にする余裕ができた。せっかくだからとリリが料理をつまんでいると、ローランが耳元で囁いた。
「もう少ししたら、今日は下がりましょう」
「え?主役なのにそんなに早く良いの?」
「ええ、明日も明後日もありますから。今日は誰にも文句は言われませんよ」
ローランがそう言うのなら、とリリたちは適当なところで会場を後にした。
家に戻るとローランに手伝ってもらってドレスを脱ぐ。クローゼットにかけて部屋着に着替えると、リリは髪飾りを外し始めた。
「ローラン、これ外すの時間かかりそうだから、先にシャワー行ってくれる?」
「分かりました」
ローランがシャワーに行き、入れ替わりでリリがシャワーを浴びた。リリはシャワーを終えると、脱衣所でこれから着るネグリジェを前に唸った。
普段はパジャマを着ているのだが、里の女性たちから祝言の日はこれを着るのだと渡されたのだ。前をリボンを結んで留めるようになっており、リボンをほどけば簡単に脱げてしまう。ほとんど透ける生地でできていて、大事なところは見えないが、パジャマに比べると着るのにかなり勇気がいる。
リリはしばらく悩んだ後、意を決してそれを着て脱衣所から出た。
リビングに入るとローランがソファに座り、ローテーブルに並べられた髪飾りを見ていた。半年間伸ばしていたとはいえ、リリの髪はまだまだ短いので、沢山のピンと髪飾りを使って結い上げていたのだ。
「ローラン」
「リリ、この髪、かざ、り…」
ローランが顔を上げてリリを見る。そしてそのまま固まった。
「…変、かな?」
ローランがゴクリと生唾を飲み込んだのが分かった。
「可愛いです…リリ、祝言の日に主役が早く下がるのはですね、あの、一応初夜だからということでして…」
「…う、うん」
魂分けの儀式をしてから、そういうことを全くしていなかったわけではないのだが、リリにも今日が特別な日だということくらい分かる。
ローランはソファから立ち上がると、素早くリリを抱き上げた。
「わぁっ、ろ、ローラン!?」
ローランはそのまま無言で寝室に向かった。




