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02

 リリは早速村から出ると、森へと向かった。村長に教えてもらった情報と地図を見比べながら、まずは泉へと向かう。

 今日は良い天気で、木の葉がさわさわと揺れる音と木漏れ日が心地良い。どこかのんびりとしながら、リリは小1時間ほど歩き、泉に到着した。

 泉は少し開けたところにあり、直径5メートルほどの小さなものだった。近くにドラゴンの姿はない。リリはとりあえず様子を見るかと、泉のほとりに座り、持ってきた昼食を取り出した。

 この森は村人が気軽に入ることからも分かるように、危険なモンスターは生息していない。いたとしても戦闘能力のほとんどない村人でも駆除できるレベルのモンスターだけだ。そんな平和な森に突如としてドラゴンが現れれば、焦るだろうなとリリは思った。

 食事を終え、もう少し周りを探索しようかと思った時だった。遠くからはばたくような音がかすかに聞こえてくる。じっとしていると、徐々に近づいてきた。リリが音のする方を向くと、1体のドラゴンが飛んでくるところだった。


(あれが例のドラゴン?)


 一応いつでも剣を抜けるように身構えつつ待っていると、ドラゴンはリリの目の前に降り立った。

 ドラゴンは3メートルほどの体長で、平均的な成獣のサイズだ。色は銀色に近い水色で、おそらくアイスドラゴンだろう。アイスドラゴンは、氷の属性を持つドラゴンで、氷の息吹を吐いたり、氷の魔法が得意だといわれている。弱点はおそらく炎だろう。

 ドラゴンを前にしても逃げ出さないリリを見て、ドラゴンは少し首を下げた。


「娘よ、ここで何をしている?」

「ドラゴンさん、あなたに会いに来たの」

「私に何用だ?」

「この近くに村があるでしょう?そこの村長さんからの依頼で、あなたがなぜここに来たのか教えてほしくて」


 リリはとりあえず話が通じることにホッとしつつ、警戒は解かずに話した。


「私がどこで暮らそうと私の勝手であろう。人間には関係のない話だ」

「うーん…そうかもしれないけど、村の人たちが困ってるの。ここは村の生活には欠かせない森なんだけど、あなたが怖くて皆入れないの」

「私は人間を襲ったりしない」

「でしょうね。でも戦う術を持たない人にとっては、ドラゴンはいるだけで怖いものだから。できればもう少し人里離れた森に住んでもらいたいんだけど」


 ドラゴンは少し考えると、断る、と言った。


「この森はモンスターもいないし食料も豊富で、気に入ったのだ。しばらくは離れるつもりはない」

「それは困ったな。あなたが出て行ってくれないと、こちらとしては強硬手段に出るしかないんだけど」


 リリは剣が見えるように体を動かす。それを見たドラゴンはフン、と鼻で笑った。


「面白い、その貧弱な体で私を倒そうというのか?できるものならやってみるといい。そうだな、ドラゴンの決闘でお前が勝てば考えてもいい」

「ドラゴンの決闘?」


 リリが首をかしげると、ドラゴンは説明した。

 ドラゴン同士で何か衝突があったときに行う決闘があり、それは相手の喉元にある逆鱗に触れた方が勝ち、というものらしい。決闘というだけあり、相手を殺さなければなんでもありで、強いもの同士の決闘だと地形が変わることもあるのだとか。

 今回はリリは人間なので、リリがドラゴンの逆鱗を触るか、リリが戦闘不能になれば決闘終了となる。


「安心しろ、殺すのは決闘では禁止されている」


 リリが負ける前提で話すドラゴンに、リリは一泡吹かせてやろうという気持ちが起こってきた。

 リリは元来負けず嫌いな性格なのだ。馬鹿にされたままでは気が済まない。


「いいじゃない、その決闘、受けて立つ。私が勝ったらここから出て行ってもらうから」


 すらりと剣を抜き、構える。ドラゴンから冷気が放たれて、リリの元まで届いたのを合図に、リリは駆け出した。

 まずは小手先調べとまっすぐ切りかかるが、キンッという音とともに剣が弾かれる。ドラゴンの腕に氷の籠手のようなものができていた。

 何度か剣を振るうが、すべて氷の籠手に防がれる。

 ならばとリリは少し距離をとると、呪文を詠唱した。


「ファイアボール!」


 50センチほどの火の玉がドラゴンめがけて飛んでいく。

 ドラゴンは口を開けると、氷の混じった息吹で火の玉を消した。ジュウ、という音とともに水蒸気が上がる。

 リリは続けて呪文を詠唱し、ファイアボールを何回も放った。そのたびにドラゴンの息吹で火の玉は消され、あたりは水蒸気でもうもうとしていた。

 水蒸気に隠れるようにリリは素早く駆け寄ると、ドラゴンの喉元めがけて剣を持っていない左手を伸ばした。

 もらった!リリがそう思った時だった。


「ガイアウォール!」


 ドラゴンが突然叫ぶと、リリの足元の地面が盛り上がり、土壁ができた。

 だが土壁はリリを止めるには一瞬遅く、勢いのままにリリを真上に突き上げた。


「わああああ!!!」


 叫びながらドラゴンの数メートル頭上に舞い上がるリリ。突然のことに驚きつつも、リリは「アイスドラゴンのくせになんで土魔法を使うんだ!?」などと考えていた。

 一方ドラゴンはドラゴンで、リリの体が空中に放り出されるのを見て慌てていた。翼のない人間があんな高さから落ちたら死んでしまうと思ったのだ。

 慌てるドラゴンをよそに、リリの体が落下し始める。受け止めるのも変だし、かといってこのまま地面に落下すれば死んでしまう、とドラゴンはリリを見上げておろおろしていた。

 リリは真下にいるドラゴンを見て、咄嗟にドラゴンの体をクッション代わりにしようと考えた。手を伸ばし、必死にドラゴンの体にしがみつく。

 結果として、リリはドラゴンの翼に抱き着く形で地面への落下を避けることができた。翼にギュッとしがみつき、バクバクしている心臓の音を聞きながら、リリは深呼吸して息を整えた。

 ようやく落ち着くと、手を放して地面に降り立ち、放り投げた剣を拾う。そこでふとドラゴンが動かないことに気付いた。

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