02
この2人はぼくのこと天才だって言ってくれるけど、たいして使える才能じゃない。
カラオケとか文化祭くらいで重宝されるくらいだ。
みんな物まね芸人になればいいっていうから調べてみたら、大変な世界みたいだ。
年に何回かしかない物まね番組に対し、何千人かの物まね芸人がいる。
それだけで食えるのはひとつかみなのだ。
それに、ぼくは人前にでるのが苦手だ。
ものまねをしたらみんな感心してくれるけど、爆笑にはならない。
それはものまねをネタにできないから。
ぼくのものまねは完コピであって、癖とかを強調したりできないのだ。
だから、僕のものまねはおもしろくないらしい。
「彩崎星姫だったっけ?」
啓之がぼくをじっと見る。
そう、こいつらはわかってて言ってる。
「うん…
でも本当に大丈夫だから…」
ぼくは彼らに心配をかけないように、普通の自分を装う。
そう、僕の元気がないのは、ちょっと前に起きたアイドル消失事件…
スターエンジェルズの4人のメンバーが神隠しにあったように消失した事件のことだ。
それに巻き込まれたのが、僕の推しメン…彩崎星姫だ。
この子に出会うまでは、ドルヲタってばかじゃないとか思っていたけど、この子の歌をきいたとたん、僕は魅了された。
ものまねとかするから、ボーカルのうまい下手はわかるようになったけど、この子の歌声は別格。
それから、僕は星姫さんを推すようになった。
っていっても、学生だから追っかけるとかできないし、何回かコンサートに行っただけ。
なんかいやなことがあっても星姫さんの歌を聴くだけで癒される。
それに、ルックスも清楚で可憐で…
まるで、地上に間違って舞い降りた天使だった。
「まあ、たかがアイドルじゃないか」
浩二が言う。普通の人に言われると気持ちをわかってないとか言って怒るところだ。
でも浩二は本当に天然なことはわかっている。
言ってはいけないこととか考えないのだ。
だから、ぼくには浩二が心配していることだけ伝わる。
その気持ちだけで十分だ。
「星姫さんは他のアイドルとちがうよ!
特に歌、あれは天使の歌、この世のものじゃないの!
絶対、天から降臨したネ申だよ…
この前のアルバムのソロの部分…
ワンコーラスだけど、わかんない…
この素晴らしさ…」
でも、星姫さんのことになると熱くなってしまう僕。
それをいなすように啓之が口を挟む…
「はいはい、わかったから。
浩二ももっと考えてものを言えよ。
いつもいつも、まったく。
この脳筋が」
「おれも、マネカワを心配してだな」
「だから考えたらっていわれるんだよ」
2人が言い争いを始める。