第4話『商人―ILLEGAL』
―――オーキス侯国・ハルマス郊外の屋敷
ここはオーキス侯国でも有数の商人・マルクスが居を構える屋敷。馬車が数台停められている広い庭の奥に建つ屋敷には今、黒服の男達が慌ただしく出入りしている。
「何?見つからないだと?」
「申し訳ありません・・・しかし、何処にも見当たらず、住民の奴らも皆知らない、と・・・」
「チッ・・・この役立たずが!」
その執務室にて、黒服を叱責する貴族風の男。黒檀を叩いて立ち上がると、男は黒服の元へ歩み寄り胸倉を掴んだ。
「もう一度探しに行け!次は必ず連れ帰って来い!」
「は、はい!」
男の命令に駆け足で部屋を出て行く黒服。その後ろ姿に舌打ちすると、今度は別の黒服がやって来た。所々服が裂け傷を負っている。先程市街地区でコールと戦い、負けた黒服である。
「失礼致します、マルクス様」
「何だ、お前達も見つけられなかったのか?」
「はっ、も、申し訳ありません・・・」
「全くどいつもこいつも・・・」
辟易した様に額に手を当て首を振る貴族風の男・マルクス。先程の黒服含め同様の報告しか来ていない様である。
「し、しかしマルクス様!我々は例の男を見つけました!」
「何・・・?男、だと?」
「はい、白髪に紅い眼の若い男・・・間違いなく、“あの”コール・ヴェスパーです!」
「ほう・・・?」
その報告に、マルクスは改めて傷だらけの黒服の姿をまじまじと見る。
「それで・・・?おめおめと逃げ帰って来た、と?」
「そ、それは・・・あの男が滅法強く、私でも歯が立たず・・・」
ふむ、と顎に手を当て暫し考えるマルクス。ややあって、彼は黒服に告げる。
「まあ良い。あの男の強さは有名だ。お前程の男でも、正直敵うとは思っていなかった」
「・・・っ、申し訳、ありません」
深く頭を下げ、謝罪する黒服。しかし、マルクスは後ろを向き新たな命令を下す。
「ハルマスで会ったのならば、その何処かに住んでいる筈だ。なんとしても探し出して・・・殺せ」
「は、はっ!」
「コールさえ殺せれば、女奴隷1人で稼げる額以上の金と地位が約束される。そうだな・・・奴を殺した者にも褒美をやろう」
その言葉に、黒服は顔を上げて目の色を変えた。
「全員に伝えろ。女の捜索は中止、コール・ヴェスパーの捜索と抹殺を最優先にしろ、とな。首を持ち帰った者は幹部として私の右腕にしてやる!」
「はっ!直ちに伝達し、総動員致します!!」
新たな命令を受け、黒服は部屋を出て屋敷を駆け抜けて行った。マルクスは窓辺に立ち、どんよりとした空を眺めながら、胸ポケットから取り出した煙草に火を点けて呟く。
「コール・ヴェスパー・・・その首、私の為に役立たせて貰うぞ・・・くくく・・・」
どこか遠くで、雷鳴が轟く。
―――ハルマス・外周地区
スラム街であるハルマスでも比較的治安の良いこの地区の一角。
一悶着有ったものの、買い物を終えて帰宅したコールは居間の古いソファに座り、コーヒーを飲みながら分厚い本を読んでいた。
2階からリズム良く階段を下りてくる足音が聞こえ、コールは視線をそちらに向ける。
「あ、帰ってたんだ。お帰りなさい、コール」
「ああ・・・もう大丈夫そうだな」
早朝に助けた少女・リアの姿を見て、安堵するコール。
「うん!お陰でもうバッチリ!ホント、ありがとね。コールが助けてくんなきゃ、アタシ死んでたかも・・・」
「気にするな・・・ところで、マルクスの用心棒どもがお前を探してたぞ」
「え、マジ!?ホントしつっこいなぁ・・・」
彼の言葉にウンザリした様に項垂れるリア。そんな彼女にコールは問う。
「お前、何かしたのか?奴隷1人探すのに用心棒を何人も出す程、アイツは困ってない筈だが・・・」
「んー特には・・・あ、いや、1人はアソコ潰したかも、だけど・・・」
リアの答えに腕を組んで考え込むコール。その程度で・・・と思いつつ、改めて問いただす。
「それ以外には何も無いのか?」
「んー・・・アタシは特に何もしてないよ?ただ、見ただけ」
「見た?何をだ?」
良く分からない返答に、コールは再度問う。彼の隣に座り、リアはゆっくり答える。
「うん・・・えっとね、アタシが見たのは・・・屋敷に居る奴隷の人たち。多分、アタシと同じ“商品”てヤツ。その人たちがね、毎日何か飲まされてるの」
「何を飲まされてるんだ?」
「分かんない。ただ、飲まされてる人たちは、どんどんおかしくなってくの。凄いハイテンションになったかと思うと急に静かになったり、泣き喚いたり、何が面白いのかずっと笑ってたり・・・」
「まさか・・・」
リアの話す奴隷達の様子には、コールは心当たりが有った。
「多分・・・一番酷い、のかな。1週間くらい飲まされてるとね、何も喋んなくなって、言う事を何でも聞く感じになっちゃって・・・」
コールは額に手を当てて項垂れた。彼の心当たりはそのまま的中してしまったのだ。
「それにね、真夜中に・・・黒い服来た奴らが、その奴隷の女の子たちを、その・・・乱暴、してるのよ。毎日。たまにマルクスの奴も来てた」
「なるほど、な・・・必死に探す訳だ」
合点が行ったコールは再び腕を組み、リアに説明を始める。
「お前が見たのは・・・いわば犯罪現場だ。アイツが飲ませていたのは麻薬。しかも強力な奴だ。そして、奴隷とは言え商品、つまり“自分の所有物ではない”者を犯すのは違法だ。逃げ出したお前をそのままにしておくのは、マルクスにとって正に自殺行為って訳だ」
「うわ・・・アタシ、とんでもない所見ちゃってたんだね・・・」
コールの説明を聞き、愕然とするリア。しかし、彼の続けて放った言葉に彼女は更に愕然とする。
「とは言え、俺には関係の無い話だ」
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