第2話『遭遇―ENCOUNT』
「はぁ〜、美味しかったぁ〜!ごちそーさまっ!!」
コールが用意した食事を次々と平らげ、14回のおかわりを経て満足したリアは、両掌をぱんと合わせて食事を終えた。
傍らでは、コールが頭を抱えながら深い深い溜め息をついている。
「はぁぁぁ・・・まさか、こんな大食い娘だったとはな・・・」
「仕方無いでしょー?ここんとこずーーっと、まともなごはん食べてなかったんだもん」
「そういやお前・・・奴隷だったな・・・」
リアの首元で鈍く光る首輪の事を思い出し、溜め息混じりに呟くコール。
「あ、うん・・・そうだったわ・・・アタシ、逃げ出したんだった」
「・・・何?」
突然表情に影を落としたリアの言葉に、コールは顔を上げて聞き返した。
その問いに、彼女は顔を背けながら答える。
「逃げたの、アタシ。マルクスって奴の所から。あんな奴の奴隷なんてゴメンよ」
「マルクスか・・・まあ、そうだろうと思ったがな」
コールは背もたれに体を預け、腕を組んで続ける。
「首輪の石の色からして仮の奴隷、売買前の“商品”だと言う事は分かってた。加えて昨日の嵐・・・商人が馬車を走らせる筈が無い。お前があの嵐の中を逃げて来たなら、遠くから来れる訳が無い。そして、この辺りで奴隷を扱う商人と言えば・・・マルクスしか居ない」
「ほえー、凄いね・・・この首輪と嵐の事だけでそこまで分かっちゃうんだ・・・」
「多少の知識が有れば少し考えただけで分かる事だ」
そう言って彼はサイドテーブルに置いていたカップを取り、口に運ぶ。
「それはさて置き、腹が膨れたなら寝ておけ。その分なら熱もすぐさがるだろう」
「うん、ありがとね。コール」
カップの中身を飲み干し立ち上がるコールに、リアはお礼を言って横たわった。
「俺は少し出掛けて来る。誰かさんに半月分の食料食い尽くされたからな」
「え、あれが半月分なの!?ていうか、ゴメン・・・」
「いいさ・・・大人しく寝てろよ」
そう言うと、コールは立て掛けていた剣を手に取り、無くなった食料を買い直す為に街へと出掛けて行った。
―――ハルマス市街地区
この地区にはハルマス唯一の商店が在る。規模は大きくなく品揃えも悪いが、スラムであるこの街の住民は皆、ここに食料や雑貨を求めてやって来るのだ。
店内には数人の客がおり、その中に白髪の青年・コールの姿が有った。
「これとこれ・・・あとは、コレか。取り敢えずこんなもんか」
カゴに詰め込まれているのは、大量の野菜と幾つかの調味料。肉類は入っていない様だ。
会計を済ませようと店主の元へ行こうとした時だった。入口の扉が乱暴に開かれ、黒スーツの男が数人、店内を見渡しながら入って来た。
「ご主人。黒髪の女を見なかったか?背の低い、首輪をした女だ」
その中の1人、黒服のリーダーと思しき男が店主に問い掛ける。
「いんや、そんな女見てませんねぇ」
「ふむ・・・では、そこの。野菜好きな剣士殿は?」
店主の答えに訝しみつつ、男は近くに立っていたコールを指して問う。
「お前ら、マルクスの・・・生憎だが俺は知らん。てっきり俺を探してるのかと思ったが、違ったのか」
「何を・・・ハッ!お前は・・・ッ!!」
コールの意味深な言葉に、男達は改めて彼の姿を確認する。
「白髪に紅い瞳、剣を背負った若い男・・・お前は、コール・ヴェスパー!!」
「今更気付いたのか。随分と鈍いんだな・・・おやっさん、コレ頼む」
驚きを隠せない黒服達には目もくれず、彼は店主の傍の台にカゴを置いた。
「あいよ。んー、120リットだ」
「相変わらずテキトーだな。ほら、釣りは取っといてくれ」
「お、おい!何をしてる!!さっさと奴を殺せ!!」
「は、はい!!」
大雑把な会計を済ませるコールの背後で、黒服のリーダーが他の黒服達に命令を出す。その声に我に返ったのか、黒服達はそれぞれの得物を取り出し、隙だらけのコールに襲い掛かる。
「あんちゃん!危ねぇ!!」
「はぁ・・・先に謝っとく。少し店壊すぞ」
そう言うとコールは振り向き、その勢いに任せて一番近くまで迫っていた黒服の顔面に、綺麗な右ストレートをお見舞した。
「ぐぇえっ!!?」
カエルが潰れた様な声を上げて吹っ飛んだ男は、他の黒服を巻き込んで店の扉を突き破り、外へと排出された。
「な・・・っ!?」
「さあ、掛かって来い・・・身の程って物を思い知らせてやる」