5 超絶合体!! スケルトンウォーリアー!!!
二体の動く石像は、敵性体が感知範囲からいなくなったことを確認するとそのまま台座に戻った。
最初と全く同じ形でピタリと止まり、そのまま動かなくなる。
動く石像はこの霊廟を守るために造られたもの。
その命令は目的の守護しか受けていないのである。
そしてそのまま待ち続ける。
霊廟を犯す侵略者を討つことを。
待ち続けて数日後、地下墓地内に僅かな振動が断続的に響いてきた。
そしてそれは次第に大きくなり、振動に合わせてガシン、ガシンと足音が響いてくる。
二体の動く石像は自らに、この金属門に、もの凄い速度で近づいてくる反応を感知し動き出す。
台座から降り、二体ともが石剣を構えたところに、そいつは現れた。
それは、大柄な戦士の動く石像よりもさらに巨大だった。
全身が骨で作られた巨人。
人骨がいくつも束ねられ、太く大きな手足が作られている。
背骨も多くの人の背骨が縄のようにねじり束ねられ、肋骨はまるで針山のように無数に飛び出ていた。
両肩には前後を睨むように頭蓋骨が二つずつ取り付けられ、頭は五つの頭蓋骨の集合体だった。
「オオオオォォォッッ!!!」
骨の巨人は雄たけびを上げると、恐れずに剣を振り上げた二体の動く石像それぞれの腕を掴み、そのまま投げ飛ばした。
轟音が上がり、動く石像は地下墓地の骨壁に叩きつけられ、粉々に砕けた骨々に埋もれた。
「クックック……、フハハハハ……、ハーッハッハッハ! 見たか、この石ころがッ!」
俺はこいつらから逃げ出したあの後、どうしてもあの金属門の中に入りたくて、この体を考え出した。
弱いなら強くなればいい、ということで、できる限り骨を追加した。
そのおかげで、今の俺は前の二倍の身長を持ち、凄まじい剛力を持つに至ったのだ。
もう天井の高さに迫っており、巨大化はこの地下墓地ではこれが限界だった。
しかし、これだけあれば十分。
お前らにすぐ引導を渡してやるぜ。
砕かれて積もった骨の山が崩れると、そこから二体の動く石像が飛び出してくる。
俺は後ろに下がって片方の剣戟を避けると、もう一つを腕で受けた。
バキバキと骨が折れる音が鳴り響く。
だが、その剣は勢いが殺され受け止められた。
俺は剣を受け止めた動く石像を思い切り蹴飛ばす。
またバキバキと骨の砕ける音が耳に入った。
動く石像は骨壁に再度埋もれ骨の山を作る。
チッ、と舌打ちが漏れる。
やはりどれだけ力が上がっても、材質は所詮骨。
石を壊すには足りない。
だが、それでも――
もう一体の動く石像が石剣を振り抜く。
俺はそれをあえて無視し、こいつの頭を掴み上げた。
石剣が胴体に食い込み、骨の砕かれる音が鳴り響く。
俺は動く石像を掴んだまま持ち上げ、そのまま走り出していく。
「オオオォォッ!!」
勢いをつけ、そして、こいつの頭を金属門に叩きつけた。
動く石像を金属に叩きつければ、金属の塊を動く石像に叩きつけたときと同じ効果を得ることができるのだ。
――ピシリ、と音が鳴る。
動く石像にわずかに罅が入った。
俺は頭を掴んだまま、何度も金属門に叩き付ける。
抵抗され、体に何回も石剣が突き立つが、そんなもの何の痛痒にもならない。
そして遂に、最後に頭を叩きつけたとき、破裂音と共に動く石像の頭は粉々に砕け散った。
ビシリ、ビシリと音が鳴って体も呼応するように砕けてバラバラとなる。
コロンと動く石像の心臓たる魔道石が零れ落ちた。
俺がそれを拾おうとすると、骨に埋まっていたもう一体の動く石像が飛び出してくる。
あまりに大振りだったその石剣を余裕をもって避け、そしてこちらも同じように金属門に幾度も叩きつけることで破壊する。
俺は散らばった動く石像だった石の破片をゆっくりとかき分け、二つの魔道石を二つの手でそれぞれ持った。
二つの魔道石、紫色の球体の水晶は、ぼんやりとした光を放っている。
それは、俺はぼーっと見つめていた。
動く石像は強い。
人間のころの俺では、逆立ちしても絶対に勝つことなどできなかっただろう。
俺だけじゃない。
俺の知る冒険者の内、いったい何人がこいつに勝てるのか。
決して多くは無い。むしろ数えるほどしかいないはずだ。
……俺は強くなった。
できれば人間のときに強くなりたかったものだが、それは考えても仕方のないことか。
しかしこれは、いったいどれほどまで強くなることが出来るのだろうか。
今は地下という制限のせいでこれ以上骨を追加することはできないが、その制限が取り払われたときどれほどの……
強くなるのは大歓迎だ。
そうすれば、何も憂いなく冒険ができるというもの。
この広大な大地のほとんどは、人類にとって未踏の領域で、人間の生活圏は非常に狭い。
その人間の生活圏を、人は人類領域と呼び、それ以外をそのまま未踏領域と呼ぶ。
人類領域の魔物は、とても弱い。
いや、俺からすると、そして大半の人類からすると弱いなんて全く思わないが、未踏領域の魔物と比べると貧弱とも呼べる、らしい。
なぜ、”らしい“らのかというと、そもそも未踏領域なんて場所に行けるのは限られた本物の強者だけで、未踏領域の中のことなど伝聞でしか伝わらないからだ。
未踏領域は魔王と呼ばれる強大無比な魔物たちが支配しているらしいが、実際のところは良く分からない。
いや、そういえば何十年か前に魔王の一体が人類最強を謳う勇者とかいうやつに倒されたと聞いたことがある。
腕を振るえば山を打ち崩し、息を吐けば海を干上がらせるとまで伝承に描かれる魔王を倒すとは、勇者の強さなんて想像もつかない。
それほど強くなるつもりはないが、未踏領域でも問題なく冒険できるほどの強さが欲しい。
そうすれば、俺は未踏領域で溢れる程の未知とロマンに浸かることが出来るだろう。
それはともかく。
俺は魔道石を体の骨の隙間にしまうと、目の前の金属門に手をかけ、力を入れて押し開いた。
金属門は錆など感じさせず、ゆっくりと開く。
そして、俺は中へと入っていった。
――中は輝いていた。
黄金と宝石の寝具や箪笥などの家具や、立てかけられた煌めく武具、鎧。
中央に置かれた棺は、なんと、黄金に輝いていた。
「おお……」
俺はあまりの財宝のまぶしさに、引き寄せられるように、ふらふらと歩み寄る。
「おおお……」
近くにあった黄金の箪笥に手を触れ、なでる。
なで、なで、なで。
なで、なで、なで。
なで、なで、なで。
「はあぁぁ……っ!」
そして、撫でるだけでは飽き足らず、顔をつけて頬ずりをしだす。
スケルトンの頭蓋骨には何の変化もないが、もし人間のままであったのであれば、まるでスライムのようにべちゃりと蕩けた笑顔を浮かべていたことだろう。
「……うん? あれは……?」
ふと、目に入った壁面。
そこには、大きな壁画が描かれていた。
中央に大きな鳥の絵、その周りに……人、か?
人以外のものもいるように思える。
大きな鳥は炎か光のようなものを放っており、上には太陽と月、下のおそらく地中に描かれているものは良く分からない。
他にもいろいろと描かれているが、読み解けるのはそこまでだ。
俺は考古学の専門家じゃない。
「――しかし、どうするかな、これ」
これら財宝は、全て合わせたらおそらく金貨数万枚を下らないだろう。
歴史的価値を考えたら、一〇倍、一〇〇倍に値が吊り上がってもおかしくはない。
しかし、しかしだ。
俺にはそれに何の意味もない。
なんでって? もちろん俺がスケルトンだからだ。
人間の文化圏で価値があったって、俺は人間に近づけないのだから意味が無い。
どれだけお金を持っていても、使い道がないのだ。
まあ、それでも財宝はロマンの塊だからコレクションとして蒐集したいのだが、持ち歩けるはずもなく。
結局はその場で鑑賞するしかないのが悲しいところである。
……ただ、記念に小さいものを一つだけでも持っていきたいなあ。
俺は黄金の山をガサゴソと探る。
国宝級とも思える魔道具なんかもいっぱいある。
しかし、使い方がまるで分らないので除外。
王冠に宝石……、なんかしっくりこない。
「お、これは?」
きらびやかな宝物類に紛れた、古臭そうな懐中時計。
中を開けてみると、魔法陣のような文様が浮かび上がり、いくつもの時計盤に針が回っている。
そういえば、人間だった時いつも身に着けていた懐中時計はどこにったのだろうか。
スケルトンになった今の俺には必要のないものだが、少し気になった。
「この懐中時計、どこかで見たような……、いや、伝聞かなんかだったっけか?」
魔法陣が浮き上がり、表には二匹の竜が絡み合う紋章が彫り込まれた古びた懐中時計。
確かこの紋章は、古代帝国の……
「あっ……、これ、天時計だ……」
天時計。
古代、人間領域を統一し、未踏領域を開拓して人間領域を史上最大まで拡大させた超大国<天帝国>で作られた世界に一〇個しかないとされる時計で、現在でも使用されている<天帝国>の建国年を紀元とした紀年<天歴>を正確に刻む時計だ。
なんでも、どんな衝撃を与えても壊れないらしい。
見たところ盤には一年の巡りを示す時計や、一日の巡りを示す時計を内蔵されているようだ。
金貨に換算したら、貴重性や、<天帝国>の遺産という遺物頂点ともいえる価値を考えるとこれ一つで金貨一〇〇万枚いってもおかしくはない。
ロマン、価値、実用性を考えるとこれ一択だな。
よし、これにしよう。
ん? そういえば、これを見れば俺が死んでからどれだけ立っているかわかるのではないか?
調べてみると、俺が死んでから大体三年ほどが経過していることが分かった。
だからといってなんだという話ではあるが、安堵を覚えたのも事実だった。
今まで、自分が時代に取り残されているような不思議な孤独感に苛まれていたが、それが薄くなった。
自分が孤独であることには変わりないが。
俺は天時計を骨の隙間にしまう。
三年しかたっていないのであれば、俺が死ぬ前にいた森に繋がる通路があってもおかしくはない。
あの一面の砂の海を見てもそう思えるのはおかしいと思われるかもしれないが、ここが天帝国の遺跡であるとすれば、そんなことが起きてもおかしくはない。
当時は、今では考え付かないほどに技術が発達していたという。
現代では半ば伝説と化している時空魔法も当然のように使われていたという記録もある。
「さあて、収穫はあったし、やりたいこともやれた。あとはここから脱出するだけだな」
そうして、俺が何とはなしに壁に手を突くと、ガコッと音がしてそこが凹み、目の前の壁が動いて通路が現れた。
「……なんて都合がいい」
俺はそろそろとそこに近づくと、用心深く中を覗き込む。
通路は長く、ここからでは出口を見つけることはできない。
「行ってみるか……」
俺が一歩を踏み出すと、床の石タイルの一つがズレる音がした。
「ん?」
そこを覗きこむと、小さな隠し棚があり、中には古い本がいくつも詰め込まれていた。
俺はそのうちの一つを取って流し読みするが、内容はほとんど分からなかった。
これは魔法文字だ。魔法術式や魔法陣を組む時に使用される文字。
俺は勉強したから魔法文字は読めるが、それでも記述は難解で、俺の知らない文字もいくつもある。
しかし、時間をかけて解読すれば、読めるようになる可能性は高い。
よし、これも持っていくか。
もしかしたら、もうほとんど記述が残っていないと言われる天帝国のことが少しは分かるかもしれない。
それは、非常に、ロマンだ。
俺は隠されていた全ての本を体にしまうと、今度こそ通路を奥へと歩くことにした。
グラグラと揺れる石畳をゆらゆら揺らしながら歩いてゆく。
真っ暗な通路は、しかし、スケルトンの目にとって薄暗い程度にしか映らなかった。
埃っぽい中をしばらく歩く。
すると、ようやくといったところで光が見えた。
引っ張られるように体中をガシャガシャ音を立てて走る。
一瞬光がはじけ、現れたそこは――魔境だった。
鬱蒼と、狂うほどに生い茂る草木。深過ぎる森。
極彩色の花々が咲き乱れ、それらは草陰から飛び出した小動物を喰らっていた。
周囲からは魔獣の雄叫びや悲鳴が溢れ、ざわめきが絶えない。
空は突き抜けるような快晴で、太陽が光り輝いていた。
「どこだよ、ここは……」
眩しく目を細めるようにして空を見上げる。
しかし次の瞬間、俺は目を大きく見開く程に驚愕を現すことになった。
――それは山の影から現れた、一体の魔物。
それは、山が浮かんでいると見まがうほどに大きかった。
それは鳥だった。
空に蓋がされる程に巨大な鳥の魔物。
その羽は黄金の色に輝き、虹色の業火を纏っていた。
巨大な鳥は下界のことなど気にも留めず、そのままゆったりと遠ざかっていく。
俺は、その遠ざかっていくその背を眺めながら、呻くようにつぶやいた。
「魔王……」
黄金の鳥。伝承に残る魔王と呼ばれる魔物の一体だった。
あの魔王に冠された名は<天災>。
天から滅びをもたらす災禍の魔王である。
――俺は、自分の体が僅かに震えていたのに気が付いた。
「アンデッドが恐怖するのかよ……、ふざけてるな……」
<天災>はそのまま飛び去り、そして見えなくなった。
俺は、その残滓を見つめながら、震える手を固く握りしめた。
「だがなあ、お前が俺のロマンを邪魔するならただじゃあ置かないからな――」
まあ、少しでも近づいたら速攻で逃げるけど。
敵うわけない。当たり前だ。
格好くらい付けてもいいと思う。
しかし、この広い大地で二度出逢うことなどまずあるまい。
俺は新たな冒険とロマンの予感にワクワクしながら一歩を踏み出した。
――――To Be Continued……?
お読みいただきありがとうございます。
これにて一応の完結になります。
――俺たちの冒険はこれからだ! 的な感じで。
一応これからのストーリーも設定としては考えてはいるのですが、完結理由としまして、正直同時に二本の連載を抱えるのは作者的に無理、という事が一つ。
そしてもう一つは、これ以外にも書いてみたいストーリーがてんこ盛りで、そっちも書きたいという事が一つです。
もし続けてほしいという声があれば、続けるかもしれませんが、確約はできません。
ごめんなさい。
前述のとおり、他にも作品を投稿しておりますので、読み足りない! という方がいらっしゃればそちらをご覧いただくこともしていただければと、ご案内させていただきます。
作者ページ、もしくは下にスクロールいただければリンクがございますので、そこから入れます。
それではまた、別の物語でお会いしましょう!