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新三国志 退廃帝曹叡と賢英帝劉禅  作者: 水源
建興7年(229年)
11/41

感情では呉は蜀の敵なのは当たり前であるが感情だけでは政治は出来ない

 蜀では呉の孫権が皇帝を名乗ったことに一部の群臣達が激怒し、今こそ先帝の無念を晴らすべしと、呉との同盟を早急に破棄して荊州に攻撃を仕掛けそれを奪回し、そのまま江東へ攻め入り呉を滅ぼすべきと言う声は日増しに大きくなった。


 なにせ呉は先帝劉備や関羽を殺した張本人たちであると彼らは考えていた。


 無論、彼我の国力の差というものを考え、夷陵の戦いの結果も更に考えればそれは無謀極まりないのだが、人間の感情というのはそういった理屈を超えたとこにあって、感情を完全に無視して行動をすることもまた現実的であるとは言えなかった。


 そして成都を向かう孔明を途中で止めたのは楊儀である。


「丞相、魏より下った兵を大量に加えている今こそ好機というものです!

 すぐさま荊州に攻め込み、そのまま江東も制圧して憎き陸遜と孫権の首をはねてやりましょう!」


 しかし諸葛亮はそれに首を振る。


「たしかに呉に対して我々は散々に煮え湯を飲まされてきている。

 だが、それにも関わらず我が国が長年彼らと同盟を結んでいるのは、同盟することによって呉と連動して魏へ攻撃を仕掛けることができ、呉からの攻撃を心配しなくて良いからだ。

 それ故、今いま呉と同盟を破棄してしまえば呉と魏両方を相手にしなくてはならなくなり、蜀の国力では両方を相手にすることは不可能。

 そして両国から同時に北と東から攻撃を受けることになれば蜀は滅ぶ」


「ならば一度魏と手を結んで呉を攻めてはいかがか?」


「そうなれば魏はますます強大になり呉を滅ぼした瞬間に矛先をかえて魏は我々を滅ぼすでしょう」


「むむむ、しかし陛下も納得されますまい」


「陛下は聡明なお方だ。

 理を持って話せばきっと理解してくださる」


「そうでございましょうか」


 あまり納得していない様子の楊儀を従えて諸葛亮は成都へ向かった。


「相父よ、長安より引き返し急に朕を訪ねてくるとはいったいどうされた?」


 諸葛亮は劉禅に迎えられてこう言った。


「はい、呉に対する対応についてでございます。

 今現在こちらでは呉の僭帝孫権を撃つべしとの機運が高まっているようです」


「うむ、そうであるな」


「確かに天に二日なく、地に二王なしと申します。

 それ故本来であれば孫権は即座に倒すべき敵でございます。

 ですが、今は権に応じ変に通じ、広く遠益を思うべしでございます。

 我らと呉が相争い笑うのは曹叡のみ。

 それ故に呉には祝福の使者を送り共に魏を攻めるとして彼らに積極的に兵を出させるべきでございます」


 今までのやんちゃな行動もあって現状の劉禅は諸葛亮に頭が上がらない。


 もう少し前、李厳が謀反し、趙雲が死ぬ前の劉禅であれば猛然と反論したであろうが、今の劉禅は争いを広げることが自国の利益にならないことは理解できていた。


「うむ、相父のいうとおりである。

 使者を立て呉に祝福の文を届けよ」


「ご理解いただきありがとうございます。

 使者には陳(震)孝起がよろしいいかと」


「うむ、それについては任せる」


 陳震は南陽の名士の出身でありこの地は蜀漢を支えた人物を多数輩出している。


 そして陳震は荊州で従事を務め、劉備没後から孔明が南征・北伐を行った期間まで重職の尚書令を務め、益州南部や交州の利権を巡って蜀漢と呉が激しく対立・衝突していた時期にも呉との間の使者を務めている。


 そして蜀呉同盟を結ぶ際には、陳震は呉領に入ると武昌へ向かうまでの道中で両国の友好と盟約のメリットをずっと言い続けていた。


 これは孫権や呉の重臣たちの耳に入るよう計算した上での行動で、益州南部や交州の帰属問題で蜀漢と呉が揉めている最中だっが、結果として呉は益州南部への介入をしなくなった代わりに、蜀漢は交州から手を引き呉の領有権を認めることになった。


 そして陳震はまた呉へ向かうことになった。


「ではなんとかしてまいりましょう」


 そういう陳震に諸葛亮はうなずく。


「あなたならうまくやっていただけると期待していますよ」


 しかし荊州派閥の人間で呉との同盟の話が進むことに益州派閥の人間は面白くなかった。


 火種は少しずつ燃え上がりつつあったのである。

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