最後の晩餐
今日はいつもより彼の帰りは遅かった。
何かあったのかな。
もしかしたら主婦の人たちが話してた女優さんとご飯かな。
そしたら邪魔したらダメだな。
あのドラマ好きだったけど、もう見れないかもしれない。
...泣いちゃダメ。
最後は笑顔でお別れだから!
と頬を両手で叩く。
今までのお礼を言わなきゃ!
ソファーに座り、テレビをつけてるけど頭には入らなかった。
...早く帰ってこないかな。
私の願いが届いたのか鍵を開ける音がする。
ガチャ...あ!帰ってきた!!
すぐ立ち上がって玄関へ急ぐ。
「おかえりなさい!」
練習通り笑えただろうか。
彼はいつもより疲れてそうな顔してるけど、微笑んで「ただいま」と返してくれた。
彼が着替えてる間に最後のご飯を盛り付ける。
今日は煮込みハンバーグ。
私の得意料理。
まだちょっと肌寒い今の時期にはあったまるかなって。
食卓へ座って一緒に「いただきます」と挨拶。
短い間だったけど、毎日してきたこと。
その一つ一つが最後なんだなと思うと涙が出そうだけど、別にこれが最後じゃない。
だって私は祐也くんのファンだから。
コンサートは毎回必ず行っている。
輝いている祐也くんに会いに行くのが、私の仕事を頑張ってる自分へのご褒美だった。
今よりもずっと遠いけど、これからもずっと、いや、これまでよりも大好きでい続けるよ。
本人へはこんなこと恥ずかしくて言えないけどさ。
「今日まで結局毎日ごはん作ってくれてありがと。どれも美味しかったよ。」
と言ってくれた。
うああ、もったいないお言葉!
私は思わず立ち上がると彼はびっくりしている。
「わわ、驚かせてごめんなさい...。
私こそ食べていただいてありがとうございました!
この街へ来たばかりの時はどうなるかと思いましたが、高杉さんのおかげで毎日楽しかったです。
とっても優しくしていただいてありがとうございました。
この恩は一生忘れません。」
と深々とお礼をした。
「いやいや、おおげさだよ。結局住むとこ貸してあげただけで、ごはん作ってくれるのも、掃除してくれるのも桜井さんだったでしょ?
そんなことしてもらうの久々だったから嬉しかったよ。
ありがとう。」
住まわせてもらえただけでよかったのに、あなたはたくさんの励ましや笑顔をくれた。
やっぱり優しい。
ボイスレコーダーに録音しておきたい気持ちを抑えながら、胸に留めておく。
「最後だから聞くけど、もう、大丈夫?」
と遠慮がちに彼は聞いてくる。
私は笑顔で答える。
「はい、もう大丈夫です!
あのお店にもまた行きたいと思ってます。」
彼は目を丸くして固まっている、と思ったら笑い出した。
「ほんと面白いね!
そこまで回復しててよかったよ。
憧れのお店だもんね。」
「はい!行ったら、クッキー買ってポストへ入れときますね!」
「ありがと(笑)」
今までのお礼を伝え、この部屋の鍵を返し、たわいのない話をして最後の夜が終わった。
気になった週刊誌の話は胸の奥底に隠してあったけど、ざわざわと揺れていた。




