最後の夜。
明日はマンションの入居日。
明日の朝この家を出て行く。
だから一緒に食べる夜ご飯は今日で最後。
彼にリクエストを前日に聞いてみたけど、「どれも美味しいから、作ってくれるものならなんでもいいよ」と言われた。
美味しいと褒められるたびにカッと顔が熱くなるのは最後まで変わらなかった。
だから、そうやって言ってくれた時彼は寂しそうな顔をしていたことに私は気づかなかった。
いつものように夜ごはんの買い出しへ出かけた時、思わず主婦の人たちが話しているのが聞こえてきた。
テレビ番組にでて何でもやり遂げてしまう祐也くんがかっこいいという話だった。
やっぱみんな好きだよね!大人気だもん!
となぜか私は得意げになっている。
ーでも...
と突然ひそひそ声になる主婦集団。
私は野菜を選ぶふりをしながら、耳をそばだてる。
「私、週刊誌で見ちゃったんだけど、前にドラマで共演した女優さんと仲よさそうにご飯食べてるとこが映ってたのよ〜。
お店から出てくるとかも撮られてて、肩くっついてたわよ!」
....え?
彼女さんいたんだ...
そだよね。私にほんとのこと別にいう必要ないし。
そう思おうとするが身体がこわばってしまってその場から動けない。
「記事には結婚についても書かれてたわよ〜」
やだー!独身でいてほしい〜などと周りの主婦は言っていた。
胸がちくりと痛い。
でもこれは恋じゃない。
ファンとしての、あの主婦たちと一緒。
そう自分に言い聞かせた。
やっぱり彼女さんのためにも早く出ないと。
鉢合わせしちゃったら迷惑かかるし。
頭を左右に振って、レジへ進んだ。




