成弔~2~
強烈な衝撃。
手摺から身体を伸ばしていた私は、空中に投げ出されました。
「あっ!」
景色がゆっくりと動いている。
死ぬのかな。
電車のドアが吹き飛ぶ。
ゆっくりと私は落ちていく。
死んじゃう!
そのドアから。
彼女が出てきた。
「おや、おゆかりさま」
こちらに気付いて、私を優しく受け止める。
すごい。
彼女は、片手には長い銃を持っていました。空いた片手一本で、私を受けたのです。
「馴染みとはいえ、そろそろ出演料でもいただきとうす」
ゆっくりと笑う。
長い髪に崩れた着物、切れ長の目に赤い紅。
相変わらずの美人さんです。
「あ、あそこに、まだ生きている人が」
私が指差すと、彼女は私を下ろし2階へと走ります。
「ま、待って下さい!」
私も追いかける。
尖った一本下駄で、階段を駆け上がります。
これまたすごい。
ヒールより難しいだろうに。しかも着物で。
私には無理だ。
2階に上がると、彼女は中年の女性に組み付いていた骨を、銃で撃ち抜きました。
続いて、私と対峙していた骨を吹き飛ばし、チャラ男へ向かいます。
「大丈夫ですか!」
私は、倒れていた女性を抱き上げて、頬を叩きました。
彼女は白目を剥いたままです。
「おゆかりさま」
チャラ男をこちらに投げ、着物の女性は言う。
「こん人ら、手遅れでありんす」
「え?」
「ヒトノエに取っ憑かれたら、お仕舞えでありんす。諦めておくんなんし」
彼女は、申し訳なさそうに頭を下げました。
「そんな」
「己等も悔しくってなりんせん。よもや、こんな有様だとは思わなんだ」
私は、中年の女性を見る。
いつ顔が裂けるか解らない。
「せ、せめて、楽にしてあげることは出来ませんか?」
私は卑怯だ。
彼女に、殺してくれだなんて。
自分が嫌になる。
「そりゃあ、どうともしんしょう」
着物の女性は目を伏せました。
「その女と男、どう見えんす?」
「え?」
白髪のこと?
「おゆかりさまも、そん人らも、目が白く濁っていんす――おゆかりさま、一つ、お伝えしときんしょう。己等が狙えんのは、目が黒いか、『もの』だけでありんす」
「は?」
「中身のあるもんは出来んせん」
中身?
じゃあ、他の人は、中身が無いってこと?
もしかして、ゲームで言うNPC?
「いっそ死んで、骨が出てくりゃあいいものを」
言いながら、彼女は私を抱き上げました。
「な、なんですか?」
「下に降りんす」
飛び降りた。
「えええええ!」
ふんわりと着地する。
「な、なにを!」
「なに、ちいと掃除でありんす」
周りを見ると、どこからかヒトノエ?がわらわらと出て来ました。
「きゃっ!」
彼女は撃鉄を引く。
銃身が、縦6つに開きます。
ガチャガチャと分かれた部分を回し、閉じる。
「屈んでおくんなんし」
言われた通り、私は頭を抱えてしゃがみました。
彼女は左足を横に伸ばし、片足だけで屈む。
ゴクリ。
艶めかしい太ももが露わに。
いやいや、今はそんな場合じゃない。
しっかりしろ、私。
でも仕方ない。
生まれ持った明るい性格は、そう簡単に治らないのよ。
「そうら」
トリガーがある輪っかに指を引っ掛け、ヘリコプターのように回しました。
途端に、凄まじい発射音が続きます。
なにこれ、マシンガン?
そのまま彼女は立ち上がり、くるくると銃を回しながら、撃ち漏らした骨を殲滅する。
「上を見なんし」
ふと見上げると、2階から2人分のヒトノエが降りて来ました。
ああ。
ダメだったんだ。
私の考えをよそに、彼女は2体を吹き飛ばします。
「終わりんした」
私の前に、骨が落ちてくる。
その骨に。
紙束が貼り付いていました。
「はあ」
溜息を吐く。
こんな時でも、これがあるのか。
一枚破る。
『2/11』
「あの」
「はい?」
「これって、カレンダーですよね? 今日は2月11日だし」
なんでカレンダーなんか。
と聞こうとして、以前嫌がられたことを思い出しました。
うーん。
煮え切らん。
また助けてもらったから、文句は言えないけど。
「おゆかりさま、夢には、いくつか型がござんす」
彼女は、左手を私に翳しました。
「はい?」
「たいていのものは、思い通りになりんすめえ。それは、まざりもんであったり、つくりもんであったり……」
言いながら指を折っていきます。
「貴様らぁ!」
そこで、電車から声が上がりました。
あの車掌さんです。
「どうしてヒトノエを全滅させた! またペヨーテが繁殖するだろうが!」
かなりおこです。
綺麗な男の人ですが、顔も身体もボロボロになっていました。
ところで、ペヨーテってなんですか?
「へえ」
着物の女性が、呆けた顔で答えます。
めっちゃ聞き流してる。
ところで、まったく話が解らないんですが、私はどうすれば?
「またシステムがおかしくなるぞ!」
システム? なに?
「これまたきふうを」
逡巡していると、女性は再び撃鉄を引く。
「この六道、言うまでもなくあの男からの差し金でありんす」
六道?
あのトンデモガンの名前かな。
彼女は銃身を、ガチャリガチャリと回します。
「嘘を吐くな!」
「ヒトノエが不都合と」
そして閉じる。
「嘘だ!」
「どうとでも言いなんし」
男に銃を向けます。
「腹黒い」
ドン、と男の上半身を吹き飛ばしました。
「お客さん」
私は、目を覚ましました。
「はえ?」
ふと見上げると、車掌さんが立っています。
勿論、普通の車掌さんです。
「ああ、すいません」
ヨダレすげえ。
夢で吐いたからかな。
ショック!
「終点ですよ」
「あー、そうですか」
「大丈夫ですか?」
大丈夫じゃないです。
すんごい乗り過ごしました。