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夜の王  作者: 狐面
17/113

成弔~1~

 通勤の長いトンネルを抜けると廃墟であった。


「へ?」


 私は、電車の窓にへばりつく。

 四角い枠に切り取られた世界は。


 うん。


 やっぱり廃墟だった。


 え? え? なんで?


 首を(かし)げながら、今日の記憶を反芻(はんすう)してみます。


 確か、ちょっと残業して。

 電車に乗って。


 あー。

 寝ちゃったかぁ。

 夢じゃないと、こんなのあり()ないもんなぁ。


 いや、夢だからって嫌なんですけど。

 嫌なんですけど。


 大事なことなので2回言いました。

 周りを見ると、何人かの乗客が()ます。

 老若男女。

 髪が白いのは、2人くらい。

 私は手鏡を取り出しました。


 ああ。

 今日も若白髪(わかしらが)


 こうも続くと、さすがの私もショックです。


 あれ?

 でも、ちょっと黒くなったかも。


「え?」


 窓を(あらた)めて見つめると、西洋の洋館が在りました。

 入り口は大きく崩れ、そこに向かってレールが続いています。

 電車はそのまま、廃墟の中に入って行きました。

 アトラクションみたい。

 間違いなくホラーのやつ。


 か、帰りたい……。


 電車が止まり、扉が開きます。

 怖気(おじけ)づく私をよそに、黒髪の人々は迷いなく降りて行きました。

 私を(ふく)めた白髪三人衆は、互いに礼をしながら集まります。

 スーツを着た私と、若いながらも白髪の男性。そして中年の女性でした。


此処(ここ)、何でしょう?」


 中年の女性が聞いてきます。


「知らね」


 あー! コイツ!

 あの時のチャラ男!


「あの、私、確か、電車に乗っていたんですけど」


 女性が続けました。


「え? 私もですよ?」

「そういや、俺も」


 どうやら三人とも、電車で眠ってしまったようです。


 電車で眠ったら見る夢?

 そんなことってあるのかな。


「終電ですよ。降りて下さい」

「わぁ!」


 いきなり、車掌と思わしき人物に声を掛けられました。


「ビビったあ」


 チャラ男は、帽子を被った車掌を下から(のぞ)き込みます。


「なんだ。綺麗(きれい)なヤツかと思ったら男かよ」


 私からはよく見えませんでしたが、綺麗な人のようです。


 あの人かな。

 いや、あの人なら緑がかった髪だ。

 この人は黒髪だもん。

 男だし。


「早く降りて下さい」


 彼は無機質な声で繰り返しました。

 私達は電車を降ります。

 洋館のエントランスでした。

 ボロッボロだけど。


「キミキミ、怖かったら俺に抱き着いていいからね!」


 チャラ男が言います。

 私は思います。

 お断りします。

 電車は汽笛(きてき)を鳴らし、そのまま行ってしまいました。

 廃墟の中は暗く、私達は携帯端末を取り出し、ライトを点けました。


「みんな、どこ行ったんだ?」


 チャラ男が言います。


「さあ?」


 私が返すと、チャラ男は歩き出しました。


「ま、待って下さい」


 女性が続きましたので、私も後を追います。



 1階には、客間や応接室が在りましたが、特に異常は見られませんでした。

 私達は2階に上ります。

 階段はミシミシと音を立て、いつ落ちるか解らない様相(ようそう)です。

 横を見ると、廊下の奥を何かが横切りました。


「今、何か通りましたよね?」

「え? マジ?」


 チャラ男が走りだします。


「ちょっと!」


 止めい!

 死亡フラグだぞぅ!


 私達は追い掛けます。

 左手にはドアが並び、右手は1階を見下ろせる手摺(てすり)が続いている。

 廊下の先をチャラ男が曲がりました。

 後ろを振り返ると、中年の女性は少し遅れています。 

 はぐれるかもしれない。

 待つべきかな。

 いや、まずは視界に居ない人を減らす方がいい。

 私も曲がりました。


「え?」


 そこで、チャラ男が白目を()いていました。


「え?」


 身体を大きな白い手に(つか)まれ、口を開けている。


「ええ?」


 よく見ると、白い手だと思ったのは『あばら骨』でした。

 頭蓋骨(ずがいこつ)から(つな)がった背骨、背骨から突き出た肋骨(ろっこつ)――それだけの生物が、生物かすら怪しいそれが動き、男を掴んでいるのです。

 頭蓋は骨格に対して小さく、どんどん彼の口に入っていく。


「ひっ!」


 私は彼の呼気(こき)が移って、短く息を吸い込みました。


「ひぐっ!」


 喉が引き()って、また短く息を吸い込む。

 私は女性を呼ぼうと、来た道を戻ります。


 そこで。


 女性も倒れ、こちらに白目を向けていました。 


「きゃあ!」


 彼女も別の骨に掴まっている。

 ごぶ、ごぶ、と奇妙な音が鳴り響き、彼女の(のど)()まっていく。

 不意(ふい)に、ガチャリと近くのドアが開きました。

 一人の男が出て来る。

 姿を見るに、さっき一緒に乗っていた乗客のようです。


「ああ、良かった。た、助けて下さい」


 私は彼に近付(ちかづ)く。

 彼はゆっくりと、私に顔を向けました。


「え?」


 頭が凹んでいる。


「だ、大丈夫ですか?」


 頭がボコボコと動いている。


「あ、あれ?」


 彼は、口を大きく開きます。


「なにそれ?」


 口の中で、小さな口が動いている。


 口から顔に亀裂(きれつ)が入り。


 顔が、裂けた。


「いやぁ!」


 私は叫ぶ。

 身体が恐怖で動かない。


 ぎち。


 ぎちぎちぎち。


 顔を突き破って、白い虫が飛び出しました。

 そのままずるずると、まるでろくろ首のように、背骨が抜け、上に伸びていく。

 胸から腹が(うごめ)き、肩が裂け、肋骨が背骨と一緒に()い出てくる。


「うぐっ」


 私は思わず、胃の中のものを吐き出しました。

 頭蓋が虫に変わり、背骨が続き、肋骨が足。

 そんな虫なんだ。

 身体は倒れ、その生き物はわしゃわしゃと足を動かす。

 肉片と血がこびり付いた骨が、宿主に突き刺さる。


「おええ……」


 吐き気が止まらない。

 なんだ、この醜悪(しゅうあく)な生き物は。

 私は手摺を支えに、なんとか踏み(とど)まる。

 ふと、遠くから汽笛が聞こえました。

 また生贄(いけにえ)が増えてしまう。

 手摺から身を乗り出し、階下を見つめます。

 なんだろう。

 汽笛が不規則だ。

 電車が入ってくる。


 その電車が。


 1階に激突した。

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