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3日間の旅行  作者: 間島健斗
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二日目、最終日


 いつの間にかに眠っていたのだろう、目を覚ますと辺りは少しずつ明るくなってきていた。空は薄い雲に覆われていた。体を起こそうとして、力を入れようとするが、筋肉痛でうまく力が入らない。加えて、昨日転び方の練習をしてたくさん転んだのでお尻が痛かった。よろよろになっているところを伊月に笑われたが、伊月も生まれたての小鹿のようだった。井原と尾崎は筋肉痛にはなっていないようだ。井原はいつも通りの笑顔で尾崎もいつも通り凛としていた。井原の言った「ずるいだけ」の意味は分からなかった。



 ここまで送ってもらった車に乗り込み、スキー場まで送ってもらった。朝食バイキングで食べすぎて足取りの重たい伊月を冷たい視線で尾崎が見ていた。

昨日と同じものをレンタルして、上に上がろうとすると昨日とは違い、ゴンドラに乗るために行列ができていた。やっとの思いでゴンドラに乗り込み、尾崎と練習を続けることとなり、井原も練習に付き合ってくれた。下まで降りるとゴンドラの行列に並ぶことになるからと言ってリフトがあるところまで下ったら、もう一度上まで登ろうということになった。リフトには井原が一緒に乗りたいと言ってくれたので、一緒にスノーボードを抱えて乗ることになった。おかげで、リフトから降りるたびに係員のお姉さんにすごい目で見られることになったが、井原が楽しそうなのでそんなに気にしないことにした。午前が終わるころには、尾崎からの初心者講習が終わり、あまり転倒することなく、下まで降りていくことが出来た。下っていくとそこには、なぜか、黒髪のサラサラなおっさんと仲良さそうに肩を組んでこっちに手を振っている伊月の姿があった。ナンパはどうした。自分が正しいと照明するのではなかったのだろうか。



「いやー、おっさんが挑発してきたからその挑発に乗ってやって勝負をしているうちに友情が芽生えたんだよ」

 伊月がそう言うと、おっさんはまぶしいほどの白い歯を見せて笑い、親指を立てるとゴンドラに乗るための列に並びに行った。俺たちも食堂へと移動した。



「骨のあるやつを探してるんだとよ、で、片っ端から勝負を仕掛けてるらしい」

「勝負ってなんのだよ」

「どっちかのラインにもう一人が付いて行って、剥がされたら負けって勝負をするんだよ。なんかやってるうちにナンパとかどうでもよくなっちゃって。気が付いたら午前中ずっとおっさんと遊んでた」

 そう言って伊月は笑った。今日もステーキ丼を食べている。

「あなた今日こそはとか言って息巻いていなかった?」

「いやー、もういいかなって思っただけ、もちろん今回の旅行ではって話だけどな、で、よく考えたら俺、一回も裕孝と滑ってないと思ってな、だから午後は裕孝と滑ることにした。どうせだったら、みんなで一緒に滑ろうぜ」

 伊月は、とんでもなく、いいことを思いついたみたいな顔だった。尾崎は呆れているようだったが、嫌ではないようだった。「慣れてるとこがいいから、裕孝が滑っているコースにしよう」ということになった。



「なあ、美緒、なんであいつら一緒にリフト乗ろうとしてんだ?」

「椎名くん、リフト怖いんだって、だから、一緒に香織が乗ってあげているらしいわ」

「なあ」

「乗らないわよ」

「まだ何にも言ってねーじゃん」

 後ろから、伊月の嘆きが聞こえる。もう何も言わなくても井原と一緒にリフトに乗るのが普通になっていた。俺より滑るのが上手な三人は俺のペースに合わせながら、滑ってくれた。伊月は、うまく滑れていると、素直に褒めてくれた。尾崎の指導のおかげだった。何度かリフトを上り何度目か滑っているときに、井原が近くにやってきて、端の方を指さしている。停まってほしいということなのだろうか。減速しつつゲレンデの端の方移動し、井原が同じようについてくるのを見ていると雪がくぼんでいるところに引っ掛かり、激しく転倒する尾崎が目に入った。井原はこっちを見ていたので後ろで何が起こっているのかわからなかったのだろう慌てて動き出した俺を見て、少し戸惑っていた。

「大丈夫か?」

 尾崎は、かなり激しく、転倒したように見えたが、起き上がろうとしていた。

「痛いところは?頭とか打ってないか?念のため医務室まで行こう」

 確か、レストハウスの中には、医務室もあったはずだ。

「大丈夫よ、ちょっとよそ見してしまっただけだから、痛いところもないし」

 いつも表情の変化はあまりないが、今は無理して感情を表に出さないようにしているように見えた。

「なんで邪魔するの?」

 俺の後に駆け付けた井原から出た言葉とは思えないくらい、厳しい言葉だった。声は少し震えていた。

「美緒ちゃんは、私のこと応援してくれるっていってたよね。じゃあ、なんで?」

 井原は苛立っていた。手は固く握られている。

「おい、香織やめとけって」

 いつの間にか、伊月も駆けつけていた。いつものふざけた様子は微塵もない。

「伊月くんは、黙ってて。美緒ちゃんも椎名くんのこと好きなんでしょ?好きだから、私と椎名くんの邪魔するんでしょ?」

 井原は俺を好いてくれているのではないか、薄々感じていたことだった。でも、こんな形で知るとは予想もしてなかった。

「違う、違うの、誤解なの」

 力なくうなだれている尾崎の声にいつものような凛とした響はなく、ただただ弱々しかった。

「じゃあ、何?」

 井原の声は冷たい。

「椎名くんのことじゃなくて、香織、あなたのことが好きなの、香織が椎名くんのことを思うように、私も香織のことを思ってしまったの」

 尾崎は泣いていた。顔には悲しみと罪悪感が滲んでいた。

「香織が嬉しそうに椎名くんの話を聞くたびに胸が痛んだの、香織が椎名くんのことを見ているだけで苦しかったの、忘れようと思った、こんなの間違ってると思ったから、でも、できなかった。それくらい香織のことが好きなの」

 尾崎は「気持ち悪いわよね」と涙を流しながら、自嘲気味に笑った。

井原も泣いていた。何も言わず、目を見開いて、怒りを感じているわけでも、苛立ちを感じているわけでもなく、ただ泣いていた。

 尾崎は、さっきの転倒で飛んで行ったゴーグルを拾うと、何も言わずに下って行った。伊月に井原のことをお願いして、尾崎を追った。かなりのスピードで下っていく彼女に必死に追いかけたが、一番下まで降りたときにはもう、尾崎の姿はなかった。医務室やレストハウスの食堂、休憩スペースを探したが、尾崎はいなかった。やっとのことで尾崎を見つけたと場所は昨日の足湯だった。着替えを済ませ、足湯につかりながら、遠くを眺めていた。

「ここにいたのか、ずいぶん探したぞ」

「別に探してほしいとは言ってないんだけど」

 ぶっきらぼうに言う尾崎。目線はまだ遠くを見つめている。

「あんな別れ方したら、普通探すって、体大丈夫なのか?かなり激しくこけてたような気がするけど」

「大丈夫よ、ほとんど痛みはないから」

「ちょっとは、あるんだな。念のため、診てもらわなくてもいいのか?」

「大丈夫よ。特に腫れてきているわけじゃないし」

「そうか、それにしても、尾崎って意外とドジなんだな」

 尾崎の顔がちょっとだけ、赤くなった。

「うるさいわね。脚フェチの変態。昨日の温泉での会話ほとんど聞こえてたわよ」

 とんだ、カウンターパンチが帰ってきた。これと殴り合う自信はない。言い合いができる伊月を素直に尊敬する。

「聞かれてたのかよ。言ってくれよ、あれはさ、伊月が変な言いがかりをつけてきたから、思わず口に出たというか」

「でも、ほんとなのよね」

「まあ、そうだな」

 はぐらかすことはきっとできない。尾崎の眼前ではすべての嘘が暴かれる。それくらいの迫力がある。泣いた後で、目が腫れていたって関係ない。

「汚らわしいわね、昨日もそして今だって、私の脚を見て興奮してるだなんて」

「待ってくれ、それはちょっと、自意識が過剰じゃないか?確かに尾崎の脚はきれいかもしれないけど」

「冗談よ。あなたからいやらしい視線を感じたことはないから」

 冗談なら、もう少し冗談っぽく言ってほしかった。かなり、本気っぽかった。

「椎名くんは好きな人いるの?」

「急だな。家族、友達は好きだけど、そういうことじゃないんだよな?」

「そうね、性的にの方ね」

「女子が性的にとか言うなよ。まあ、そうなると好きな人はいないな」

「香織のことはどう思っているの?」

 矢継ぎ早に質問をしてくる尾崎。

「井原は優しいやつだよな。井原のことも好きだけど、異性としての好きではないな」

「香織はかわいいわよね、思いやりがあって、いつも笑顔で、私みたいな女でも一緒にいてくれる。だから、香織のことが好きになった。香織に好かれている椎名くんがうらやましかった。二人を応援したかったのよ、こんなことになってしまったけれど、さっきのも邪魔しようとしたわけじゃないの」

「そんなのわかってるよ。尾崎はそんな人間じゃない」

「本当のことを言っているかどうかは本人にしかわからないだから、疑ってしまうのよ、だから、私は人を素直に信じることが出来ない、そんな勇気はない。でも、あなたは、私の言葉を信じた。人を信じることが出来る。そんなあなただから、香織に好かれた。それができない私は香織に嫌われた」

 人は自分にないものを求める。俺はみんなが持っている放課後の自由な時間や遊びに使うお金が欲しいと思うように。尾崎は、人を信じられる自分を求めたのだろうか。井原のことが好き故に。じゃあ、行ってやらなければいけない。

「大丈夫だよ、本当に誰も信じることが出来ない人は、尾崎みたいに人をそんなにも好きになったりすることもできないはずだ。好きだってこと、と信じるってことは別々のものじゃないと思う。欠点に目が行く尾崎はもっと自分の良いところ、他人の良いところを見るようにしないとな。そうしたら、何かが変わるかもしれない、井原に対してできたんだ、きっと他の人に対してもできるさ。俺は、尾崎のこと信じてる」

 考え方の癖はそんな簡単には変わらないだろう。そして、どんな言葉をかけたとしても、変わるか、変わらないかは、尾崎次第だ。

 少しの沈黙の後、すっかり腑抜けた様子だった尾崎いつも通りを装った尾崎へと変わったように見えた。

「椎名くんは、私のこと好きなんじゃないかと思うことが多々あるわ、でもあなたは誰に対してもそうなのでしょうね。口説かれているところ申し訳ないけれど、私は香織一筋よ」

 不敵に笑った尾崎の言葉には強い意志が感じられた。

「そうか、じゃあ、ちゃんと井原と仲直りしよう」

 告白しているつもりがないのに尾崎に振られたのはこれで二回目だった。尾崎はどこか吹っ切れた様子だった。


 

 伊月と連絡を取り、井原と尾崎を引き合わせることにした。伊月の連れてきた井原はいつもより暗い顔をしていたが、しっかりと自分の脚で歩けていた。尾崎はいつもの調子を取り戻しているように見えた。二人にしてほしいと言われたので、伊月と二人で食堂に向かった。



「裕孝ごめんな、せっかくの旅行だったのに、ぶち壊しになっちまって」 

 伊月の声にいつもの元気は無かった。

「伊月は知ってたのか?」

「ああ、福引のチケットが当たったときに真っ先にお前に言ったんだけど、どこからかそれを香織が聞いたらしくて、私を連れてけ、って言うから、なんかあんだなと思ってた。美緒が香織のことを好きなのは知らなかったけどな」

 本当に意外そうだった。だが、そのこと自体を否定しているような気配はない。ただ驚いている様子だった。

「尾崎があんな顔するんだ。本当に井原のこと好きなんだな」

「俺も美緒のあんな悲しい顔見たこと無かったぜ。まあ、好きな人から否定されるようなこと言われたらしょうがないか」

 ばつが悪そうに頭をかいている。

「井原も気持ちの整理がつかなくて、言ってしまったって感じだったし、尾崎も自分の気持ちを押し殺し続けるのは大変だったと思うから、これでよかったんじゃないか?」

「そう言ってくれると助かるよ、まあ、旅にトラブルは付き物だって言うしな」

 声を挙げて笑う伊月を何事かと振り返る人もいたけれど、気にせず笑っていた。そんな伊月に誘われるように俺も笑い、さらに視線を集めた。

少ししてから、井原と尾崎が歩いてきた。二人は仲良く手をつないでいた。井原にはいつもの見る人を和ませる笑顔があった。尾崎の顔にも笑顔があった。顔の横で拍手をしている結婚披露宴のウェイター然とした伊月のがら空きの腹に尾崎のノーモーションから右手一線、重たい一発が入り、伊月は伸びていた。

「ありがとう、私たちはもう大丈夫よ」

 相変わらず、表情にはあまり出なかったけれど、尾崎の言葉には、うわべだけではない温かさがあった。



 伊月を回収して、旅館からの車に乗り込み、旅館へと向かった。降りる際に井原から「ちょっと話したいことがあるから後でいいかな?」と言われ、それに返事をすると、復活した伊月はニヤニヤしていた。豪華な夕食を持ってきてくれたのは昨日の若い女の人じゃなく、母親と同じくらいの女の人だった。伊月は粛々とご飯を食べていた。温泉に入り、部屋に戻ろうとすると、伊月が尾崎に卓球の勝負を仕掛けていた。「生まれてきたことを後悔させてあげる」というラスボス然とした尾崎の態度に伊月は圧倒されていた。勝負になるのだろうか。俺と井原は先に部屋に戻ることになった。俺はすこし緊張していた。それが井原にうつったのか、井原の動きも少し硬くなっているようだった。



「今日は、格好悪いところ見せたね。伊月くんが椎名くんと旅行に行こうとしていること聞いた時チャンスだと思ったの、一緒に旅行に行けば、椎名くんともっと仲良くなれるかもしれないと思った私は伊月くんを利用したんだ。美緒ちゃんにしか椎名くんのこと話してなかったから、美緒ちゃんにも協力してもらうことにした。協力っていうのは聞こえが良いね、美緒ちゃんのことも利用したんだ。そしてこんなことになった。私がずるしたつけが回ってきたんだね。椎名くんの楽しい旅行を台無しにしてごめんなさい」

「台無しになんかなってないぞ、尾崎とは仲直りしたんだろ?」

「うん」

「じゃあ、きっと台無しになんかなってない、少なくとも俺はそう思うぞ」

 終わり良ければ総て良し、いい言葉だと思った。

「椎名くんは優しいね」

 井原は笑っていた。

 あの時の井原の尾崎に対する態度は、感情が暴走したに過ぎなかった。誰もが持っている自分の醜い感情、勘違いいろいろなものが混ざった結果ああなってしまっただけなのだろう。

「もうわかってると思うけど、改めて言うね、私は椎名くんのことが好き。あなたに触れてみたいとか、あなたに触れられたいとかの好き、椎名くんはどうかな?」

 井原からの告白は、まっすぐなものだった。緊張しすぎると本当に心臓が脈打っているのを感じるのだと知った。息が少し苦しい、涙が出そうになる。誠実に答えるべきだ。でも必要以上に彼女を傷つけないように。中途半端なこともしてはいけない。

「俺は、井原の気持ちに答えることはできない」

 もちろん井原のことは好きだった。でもこの好きというのは人としてということだ。異性として見たことはなかった。

「そっか、椎名くんは、好きな人いるの?」

 少しだけ目線を落とし、井原はそう言った。

「異性として好きな人はいないな」

「そっか、じゃあさ、私はまだ、椎名くんのことを好きでいてもいいんだね。椎名くんにダメって言われても椎名くんのことをあきらめてあげない」

 井原はいたずらに笑っていた。すごい言葉だと思った。

「そうか、井原にそこまで思ってもらえるなんて、嬉しいよ」

「井原、じゃなくて香織って呼んで、私も裕孝くんって呼ぶから」

「香織」

 女子を名前で呼ぶのはこんなにも恥ずかしいものだとは思わなかった。

「なに裕孝くん」

「ありがとう。頑張ってるって言ってくれて、嬉しかった」

 あの夜、自分の中で少しづつ溜まっていた澱のようなものが一気に流れていったような気がした。

「弱音、吐いてもいいんだよ。辛いなら私に話して、きっと私が裕孝くんのこと受け止めてあげるから」

「あと、好きになっても」幼気な笑顔でそう言った。香織はやっぱり優しい女の子だった。



 少ししてから、涙目の伊月と、いつも通りの尾崎が帰っていた。結果は尾崎が圧勝したみたいだった。伊月は部屋の隅の方で小さくなっていた。温泉卓球でどうしたらそこまで追い込むことが出来るのだろう。しかし、三人でトランプをしていると仲間に入れてほしそうにこっちをちらちら見ていた。完全にこちら側からの「一緒にやるか?」待ちだった。それを無視し続けているとチラ見から、ガン見に代わり、トランプをしている周りをうろうろし始めた。尾崎とババ抜きの残り一枚の高度な心理戦を繰り広げているときに、視界の端にチロチロする伊月の変顔が気に障ったのか、尾崎は目にもとまらぬ速度で伊月との距離を詰めた。伊月はその行動を読んでいたのか、待っていたとばかりに腹を守る防御態勢を整える。それすら読んでいた尾崎は腹と見せかけて軌道を縦にずらしそのまま、の勢いで伊月の顎を打ち抜いた。美しいアッパーカットだった。満足気な尾崎と「おーっ」と声を挙げながら拍手をしている香織、横たわる伊月、現場はかなり混沌としていた。




最終日は快晴だった。「せっかくだから、ゴンドラで一番上まで上がることにしよう」と伊月が言い出し、降りた先で、四人で記念撮影をした。真っ青な空と足元に広がる雪、四人の笑った顔が収まっていた。中上級者コースと書いてある看板が示しているように、今まで俺が滑っていた場所とは違い、緩やかなところと、かなり急斜面になっているところがあり、もたくさやっていると後ろで香織が笑っていた。相当腰が引けていたのだろう。三人とも俺のペースに合わせてくれた。下に降りていくにつれて斜面がどんどん緩やかになっていく、ペースはそのままで、ゆっくりと降りて行った。予定より少し早めに切り上げるとレンタルしたウェアとスノーボードを返却し、レストハウスの食堂で最後の昼食を食べた。伊月は最後の日もステーキ丼を食べていた。


「裕孝は今回の旅行どうだった?」

 伊月は、ごはんを頬張りながら言う。

「楽しかったよ。本当にいい思い出になった」

「そうか、今度はみんなで話し合ってどこに行くか決めような」

 伊月はあっという間にステーキ丼を平らげていた。

「来年度は受験生なのよ、そんな時間あるかしら?」

「あるんじゃなくて作るんだよ、それぞれが目標決めて頑張って勉強して、その息抜きにどっかに行く、誰かが勝手に決めるんじゃなくて、みんなで話し合って決める」

「それもそうね、私は香織と一緒にいられるなら悪くはないわね」

「自分のために勉強するにしてもそればっかじゃ、息つまっちゃうもんね、何かあると頑張れそう」

 香織も尾崎も乗り気だった。

「裕孝はどう思う?」

 自由に使えるお金はほとんどなかったから、毎週とか毎月とかは無理だと思った。でも、二か月に一回とか、それでもいいんだったら。

「いいかもしれないな、でもあんまりお金がかかるようなところにはいけないぞ」

「どこに行けて、どこに行けないってのも、みんなで決めるんだ」

 伊月は笑顔でそう言った。断る理由はどこにも無かった。




 帰りはみんな疲れたいたのだろう。スキー場からの空港に向かうバスに乗り込むとすぐに眠ってしまった。空港のお土産選びは案の定、時間がかかった。家族全員に向けたお菓子、弟の好きなキャラクターのご当地キーホルダー、母親の好きそうなつまみ、俺のいない間、頑張って家の手伝いをしているであろう妹にはみんなに向けたお菓子とは別のちょっとお高い有名なプリンを買っておいた。たくさんのお土産が置いてあり、試食がたくさんあった空港内は、出発までの時間では到底周りきれないほど充実していた。というか、一番、北海道らしさを感じたのが帰りの空港というのは少し間抜けな話かもしれない。各々が家族へのお土産を買うと、飛行機に乗り込んだ。



初めての旅行はいろいろあったが、とても充実したものだった。帰りの飛行機では、きれいに背中を座席につけた姿勢で寝ている尾崎、尾崎に肩を借りて寝ている香織、爆睡しすぎて、通路に体を半分乗り出すような姿勢でも起きない伊月を横目に、この3日間にあったことを振り返っているうちにいつの間にか眠りについていた。飛行機が空港に着くとまだ正確にはまだ地元まで帰ったわけではないのに、帰ってきたという感覚があった。外の空気は、向こうに比べると大したことがないと感じる。この感覚も一週間ぐらいすると忘れて、この寒さでさえも億劫になるのだろう。しかし、少し、格好をつけた言い方をすると、この3日間の旅を俺は生涯忘れることはないだろう。そう思えるくらい最高の旅行だった。


ここまで読んでいただきありがとうございました(*^_^*)


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