初めての依頼
ソクラとの食事も終わり、美湖は一度部屋に戻り、着替えを持って再びカウンターに来ていた。
「ソクラさん、お風呂に入りたいんですけど?」
カウンターの奥に声をかけると、ソクラが出てくる。
「はーい、お風呂ですね。じゃ、着いて来て下さい。」
ソクラに案内され、美湖は宿の地下に来た。1mくらいの幅の廊下をはさんで、5個ずつの部屋が設けられている。
「美湖さん、ここがお風呂です。こちらをご利用の際は、100ルクス頂いてます。」
ソクラがそういうので、美湖は銅貨を取り出そうとしたが、
「ですが、今回だけ、特別に無料で利用出来ます。条件つきですけど。」
「その条件って?」
美湖が尋ねると、ソクラは頬を赤くして、
「私と、一緒にお風呂に入ることが条件です。」
と言い、顔をさらに赤くした。
「まぁ、僕は構わないですけど、ソクラさん、いいんですか?」
(よっしゃあ~~!!美少女との混浴チャンス!!)
表情は、遠慮しているようにしているが、内心はテンションMAXになっている美湖だった。
「はい、よろしくお願いします。」
しかし、ソクラは美湖の内心には気づいていないようで、美湖の手を引いて、一番近くの部屋に入っていく。
部屋の中は、3畳分くらいの広さの脱衣所だった。壁際には、洗面台もついており、奥にはさらに扉がある。
「ここで服を脱いで、この籠に入れてください。あの扉の奥が浴室です。では、服を脱ぎましょうか。」
と、ソクラは自分の服を脱いでいく。幼いながらに成長した四肢があらわになっていく。美湖は、その光景に目が釘付けになった。
「ん?どうしたんですか、美湖さん?服脱がないとお風呂入れないですよ。」
ソクラに声をかけられ、美湖は正気に戻り、いそいそと服を脱いでいく。二人は一糸まとわぬ姿になると、扉を開けて浴室に入っていく。浴室には、ヒノキによく似た木材で作られた、3人くらいならゆったり入れそうな湯船に、体を洗うスペースが2畳分くらいの広さが設けられていた。
「おお、すごいですねぇ。とても立派なお風呂です。」
「でしょう!これは、かつて、勇者様が広めたとされるお風呂らしいのです。何でも、勇者様の故郷にあったものだとか。」
ソクラが説明しつつ、桶に湯を汲んで体にかける。
「ほら、美湖さんも体を洗いましょう。」
そう言って、美湖にもお湯をかけてくる。
「はは、わかりましたよ。ソクラさん。ほら、そこの椅子に座ってください。頭洗ってあげます。」
美湖はソクラを椅子に座らせると、桶にお湯をすくって、ソクラの頭にかけていく。そして、石鹸を手に取り、ソクラの髪の毛を洗っていく。
「ふぁ~~、気持ちいいですぅ。」
ソクラは、気持ちよさそうにほおを緩めている。
「はい、じゃあ泡を流すよ~。目を閉じててね。」
再び桶でお湯をすくい、ソクラの頭の泡を流していく。泡が流れた後の髪の毛を触ってみると、つやつやとしていて、現代の洗髪料で洗ったのと大差ないくらいだった。
「へぇ、このせっけんすごいね。僕がいたところの石鹸は、髪の毛を洗うとごわごわになってたのに。」
「ああ、その石鹸は特別なんですよ。町の近くにある塔から産出される『聖水』が素材として使われているんです。聖水は、様々な浄化作用があるので、汚れを落とすのには最適なんです。」
美湖は、ソクラの頭の水けをタオルでとると、次に体を洗ってあげた。
「って、美湖さん!?どうして、素手で洗ってるんですか?」
そう、美湖は、石鹸を手に取ると、なでるようにソクラの体を洗い始めたのだ。これには、ソクラも大いに驚いた。
「なに、簡単なことだよ。女の子の皮膚はとても傷つき休んだ。だから、手で洗うほうが肌を傷つけないんだ。」
と言って、ソクラの体をしっかりと洗っていく。
「ひゃん、美湖さん、くすぐったいですよぅ。」
「はいはい、我慢しててね~。あ~、幼い少女の体、癒されるわ~。」
そのあとも、美湖はソクラの体を堪能した。泡を流し終わると、きれいになったソクラの体が現れる。
「はい、ソクラさん、洗い終わったよ?」
「~~~~っ、次は美湖さんの番だからね。ほら、椅子に座って!!」
ソクラは、顔を赤くして、美湖に椅子に座るように促す。美湖が椅子に座ると、ソクラは石鹸を手に取り、
「じゃあ、髪の毛から行きますね。」
と、美湖の頭に石鹸を付けて、丁寧に洗っていく。
「おお、ソクラさん、上手ですね。気持ちいいですよ。」
美湖の感想に、ソクラは少し気をよくしたのか、
「ふふふ、伊達に宿屋の娘をしてませんからね。経験は豊富ですよ?」
と、自慢げに言ってくる。そのあと、美湖の髪の毛に着いた泡を落とすと、美湖の真紅の髪の毛もつやつやになっていた。
「おお、ほんとによく汚れが落ちますね。しかも、しっかりと髪の毛を保護してくれる。」
「でしょう。さて、次はいよいよ体を洗っていきますよ~。」
ソクラは再び石鹸を手に取ると、美湖の後ろから、そのたわわに実った胸に手を持っていく。
「ひゃん、ソクラさん、どこからやってるのさ!」
いきなりのソクラの行動に、美湖は驚いていたが、ソクラは止まることなく美湖の体を隅から隅へと洗っていく。
「や、そこはだめだよ、ソクラさん。」
「いえいえ、全部私にお任せください。」
そのあとも、しばらくの間、美湖の嬌声が風呂場に響いていた。
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「ふぅ、満足です。」
美湖の体を洗い終わり、ソクラはやり切った顔をしながら湯船につかっていた。先ほどまで、体を洗っていた場所には、頬を赤くして恍惚の表情を浮かべた美湖が横たわっていた。
「ソ、ソクラさん、なんて、テクニシャン、なの...」
美湖は、ソクラが湯船から上がるまで、横になったまま動けなかった。
「まったく、女の子同士でも、あれはやりすぎだと思うんですよ。」
風呂から上がり、美湖もソクラも寝間着に着替えていた。といっても、美湖は今まで着ていたものとは違う、同種のものを着ているだけだが。
「あはは、ごめんね。僕、女の子が好きだからさ。つい、いたずらしたくなっちゃって。」
しかし、美湖は悪びれる様子もなく、照れたように後頭部を掻く。ソクラは大きくため息をつき、
「明日からは、ほかの肩と同じように100ルクス払っていただきますからね。」
と、自分の荷物を持つと、部屋を出ていった。美湖も、自分の荷物を持つと、自分の部屋に戻った。
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翌朝、美湖は、隣の酒場で朝食をとると、クラン支部に仕事を探しに出かけた。クラン支部には、すでに何十人もの探索者がいて、依頼票が張られている掲示板を見ている。美湖も、その集団の中に入り、一枚の依頼票を手に取ると、アリアの者とに向かう。
「おはようございます、アリアさん。この依頼を受けたいんですけど。」
美湖は、アリアのいるカウンターに行くと、先ほど手に取った依頼票をアリアに渡す。アリアはその髪を一瞥すると、にっこりと笑顔を浮かべて、
「だめです。」
と告げた。
「そんな、どうしてですか!?」
「あのですね。美湖さんが持ってきたのは、今、国境あたりで暴れている、『コカトリス』と『キマイラ』、『グリフィン』を討伐しろっていう、Aランク探索者以上の依頼なんですよ。Hランクの美湖さんには、到底お願いできる内容ではありません。ていうか、どうしていけると思ったんですか?」
アリアは、依頼票の中身を口にして説明した。
『コカトリス』は、鶏の頭に、馬の体、わしの翼をもつ魔物で、毒息と、石化ブレスを使用してくる、Bランク以上の魔物に分類されている。
『キマイラ」は、ライオンの体にヤギの頭が生えており、尻尾は蛇という魔物で、力強い突進や、爪による攻撃、八木頭は魔法を詠唱するほどの知能を持ち、蛇は、毒ブレスをはく、こちらもBランクの魔物である。
そして、『グリフィン』は、鷲の頭に、馬の体を持つ魔物で、上空からの滑空攻撃や、その丈夫な脚での踏み付け攻撃も脅威だが、雷属性の魔法を使用でき、また、自身の体にも帯電させることができるので、安易に近づけば、感電して死んでしまうかのせいもあるほどの脅威であり、Aランクに分類されている。
美湖は、そのような化け物を3体も相手にしなければいけない依頼を受けようとしていたのだ。アリアが止めるのも当たり前だった。
「美湖さんが受けていい依頼は、この辺りです。」
アリアはそう言うと、カウンターの下から数枚の依頼票を取り出した。そこには、『ゴブリン討伐』、『ライフミント採取』、『フレンジカウの肉採取』、『魔石採取』とあった。
「ゴブリンは、この町周辺、いえ、この世界でどこにでも存在する魔物で、その数は、爆発的に増加します。これは、そのゴブリンの駆除が目的の常設依頼です。いつでも受け付けているので、ゴブリンを討伐したら、カウンターに報告することで、報酬を得ることができます。
ライフミントは、回復ポーションの素材の一つで、商人クラン、生産者クランから常に採取依頼が出てますので、これも常設依頼ですね。ちなみに、ライフミントは、この町の草原に、たくさん生えてます。
フレンジカウのは、この草原に多数生息している牛型の魔物ですね。大人しい性格で襲ってくることはありません。その肉は食用として用いられております。
最後に魔石ですが、どの魔物も、人間の心臓部分に魔石と呼ばれる結晶があります。魔石には魔力が詰まっていて、それをエネルギーとして利用する、魔道具等があるのです。その材料採集ですね。
どうですか?美湖さんのスキルなら、全部受けても大丈夫だと思いますが。」
アリアの説明がおわり、美湖は、少し考えた後、
「わかりました。全部受けます。」
と、つたえた。
「はい、承りました。では、これらの依頼の期限は明日中となっておりますので、お気を付けくださいね。では、ご武運をお祈りいたします。」
アリアに見送られて、美湖はクラン支部を後にした。