異世界『ストライド』
大変遅くなりました。
これからもよろしくお願いいたします。
気が付くと美湖は、見たことのない森の中にいた。どうして見たことがないのか。それは、明らかに日本に自生していた植物とは、異なる植物が生えていたからだ。
「うん、さすがに、真四角の葉っぱなんて見たことも、聞いたこともなかったもんね。ってことは、やっぱり僕、異世界に来たんだ。」
美湖は自分の姿を今一度確認する。世界の狭間で装備した状態だった。
「さて、こんな森の中に転移しちゃったけど、これからどうしようかな?」
美湖は、周りを見渡してみる。木々が茂っていて、少々薄暗いが、足元が見えないほどではなく、空も見えていて、地面も乾いている。
「うん、歩きやすそうな地面。こういった創作物だと、もっとうっそうとしてて、じめじめしてそうなもんだけど。」
美湖はとりあえず、南の方角に進むことにした。といっても、前世の記憶での方角なので、この世界で正しいとは言えないのだが。
「しっかし、ほんとに異世界なんてあったんだなぁ。いまだに信じられないよ。」
美湖は独り言をつぶやきながら、森の中を歩いていく。
しばらく進むと、水が流れる音が聞こえてきた。
「ん、この音...、もしかして、川にでたのかな!?」
美湖は、音のするほうに駆けだした。しばらく走ると、木々が開けて幅10mくらいの川が目に入った。水は透き通っており、流れは緩やか、深さは岸のあたりで美湖の膝下くらいまで、水中には魚の姿も見えた。
「おお、大きな川だ!テンション上がる~!この水は飲めるのかな?」
美湖は、川の水を手に掬い、水を鑑定してみる。
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天然水
蒸留されていない水。そのままでも飲めるが、腹を下す可能性がある。
蒸留することで、『蒸留水』となる。
ろ過することで、『水』になる。
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「おお、飲めるんだ!でも、お腹壊すかもしれないのか。火は今のところないし、ろ過もする場所がないし、どうしようかな?」
美湖はとりあえず、銀の封じ札がいっぱいになるまで封じてみた。すると、銀の封じ札に水の絵が現れ、その下に『天然水×50』と表示された。
「おお、こんな感じになるのか~。じゃ、水はどのくらいで1になるのかな?」
美湖は、いましがた天然水を封じた銀の封じ札をかざして、天然水を1つ解放するように唱える。すると、目の前にハンドボールくらいの水の球が現れ、すぐに重力によって地面に落ちる。
「ん~、大体1ℓ位かな。なら、これで、水を50ℓ運べるってことだね!よし、とりあえず、3枚分持っていこう。」
美湖は、別の2枚の銀の封じ札にも『天然水』を封じ込め、三枚の銀の封じ札をベルトについているカードケースにしまう。
「さて、んじゃ、下流に向かっていきますか。」
美湖は川に沿って、下流に向かった歩き出した。少し歩くと川岸が土手に変わり、さらに歩きやすくなる。土手から水面まで約1mくらいになる。美湖は、口笛を吹きながら、川の景色を楽しんでいた。だが、そんな時間も長くは続かなかった。
川岸を歩いていると、森の中から何かが飛び出してきた。
「キャッ、びっくりした~。なにこれ?」
美湖は、飛び出してきた何かに『鑑定』スキルを発動する。すると、鑑定結果が脳内に流れてくる。
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ゴブリン
レベル 3
HP 69/69
ST 50/50
MP 0/0
AT 22
DF 19
MA 16
MD 14
SP 20
IN 26
DX 11
MI 8
LU 22
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と、ゴブリンのステータスが脳内に入ってきた。ゴブリンの見た目は、赤黒い肌をした、身長120cmくらいの、痩せぼそった体に、ひどく吊り上がった目、小さいながら鋭い牙の生えた口、短いが鋭利な一対の角の生えた凶悪そうな頭部を持っている。だが、戦闘力は低く、場合によっては、人族の子供でも討伐できるくらいの魔物である。ただし、他種族の雌個体を苗床に大量に繁殖するので、どれだけ討伐しても、数が減ることはほとんどない。
「ふむふむ、僕でも倒せそうだね。てか、僕のステータス、ほんとにおかしいんだね。」
美湖はそう言いつつ、腰に下げた『ブロンズソード』を抜き、ゴブリンに向かって構える。ゴブリンも、美湖が戦闘モードに入ったのがわかったのか、美湖を警戒して様子をうかがっている。その均衡を破ったのは、ゴブリンだった。ゴブリンが、こぶしを振り上げ、美湖に殴りかかる。だが、その動きは、美湖のステータスには及ばないので、美湖が軽くよけると、ゴブリンは勢いを殺しきれずに体勢を崩す。美湖はその背中に、ブロンズソードでの斬撃を繰り出す。その攻撃は見事に命中し、ゴブリンのHPをすべて削り取る。ゴブリンは、物言わぬ躯となった。
「ふぅ。こんなもんか。でも、命を奪ったのに、罪悪感や、忌避感みたいなものはないなぁ。これが、最適かってやつなのかな。まぁ、助かるからいいけど。」
美湖は、先ほどと同じように、ゴブリンの死体を銅の封じ札に封じる。すると、銅の封じ札に、ゴブリンの絵が現れ、『ゴブリンの死体 ×1』と表示された。その銅の封じ札をベルトについているカードケースにしまい込む。
「よし、これで持ち運びも楽だぞ。よーし、進むぞ。」
美湖は再び、川に沿って歩きだした。少し歩くと再びゴブリンが現れた。しかし、今回のゴブリンは、素手ではなく剣を持っていた。美湖は、すぐさま鑑定スキルを発動する。
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ゴブリン・ソードマン
レベル 5
HP 75/75
ST 60/60
MP 0/0
AT 35
DF 25
MA 20
MD 19
SP 30
IN 32
DX 18
MI 12
LU 18
スキル
剣術 (3/20)
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「さっきの奴より強いな。でもま、余裕で勝てそうだね。」
美湖は、剣を抜くと、ゴブリン・ソードマンの出方をうかがう。それはゴブリン・ソードマンも同じだったが、先にしびれを切らしたのは、ゴブリン・ソードマンだった。ゴブリン・ソードマンは、手に持っている『錆びた鉄剣』を振り上げ、美湖に斬りかかるが、美湖はそれを自分の剣で受け流し、勢いを後ろに流す。勢いを流されたゴブリン・ソードマンは、そのままつんのめって倒れてしまう。しかし、すぐにあお向けに転がり、追撃を防ぐために、剣で体を頭部守る。
「へぇ、さっきのゴブリンよりは賢いんだ。でも、まだまだだよ。」
美湖は、ゴブリン・ソードマンの膝辺りを、ブロンズソードで斬りつける。ゴブリン・ソードマンは痛みにより上体を起こしてしまう。そこを美湖が首に剣を一閃させ命を刈り取る。
「ん~、そんなに強くないなぁ。もっと手応えのあるやつ出てきてほしいよ。」
美湖は、転がっているゴブリン・ソードマンの死体と、彼(?)が使っていた剣を銅の封じ札に封じる。
「せっかくだから、人里に出る前に魔法も使って戦いたいな。」
美湖は、銅の封じ札をベルトについているカードケースにしまうと再び歩き出した。
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しかし、美湖が森を抜けるまで、新たな敵は出てこなかった。美湖は少し残念に思いながらも、森の先に広がっていた広大な草原に胸を躍らせていた。だが、陽が傾いており、すでに昼を回っているようだった。
「ん~、この世界でも、時間とかの感覚は同じなのかな。東西南北が変わらないなら、もう正午を回ってるはずだし、早く人里に行かないと野宿になっちゃう。」
美湖はとりあえず、川が続いているほうに歩いていく。そよ風が吹いていて、歩いているのが心地よく感じる。視界にちらほらと魔物の姿が見えなければ、絶好のピクニックとなっていただろうに。
「んー、今ここで戦闘するのは面倒だな。できるだけ目立たないように進もう。」
とはいうが、美湖が歩いているのは川岸。自然と草丈が低くなり、魔物たちの視界にも入りやすくなる。少し歩くと、太ったダチョウのような魔物が近づいてきた。美湖は鑑定をかける。
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コケ
レベル 3
HP 80/85
ST 50/50
MP 0/0
AT 20
DF 15
MA 10
MD 10
SP 28
IN 22
DX 18
MI 8
LU 11
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「体力が高いだけか。でも、的としても大きいし...よし、魔法を使ってみよう。」
美湖は、コケに向かって氷魔法を使うように念じる。すると、魔法の呪文が頭に浮かんでくる。それを口に出して唱える。
「『敵を貫け、凍える氷矢。アイスアロー!』」
美湖が呪文を詠唱すると、美湖の右手から魔力があふれ出し、3本のつららが現れる。そのつららたちは、美湖の手からコケに向かって一直線に飛んでいき、目、首、胸に命中する。
「コケェェェェ...。」
コケは、断末魔の悲鳴を上げてその場に倒れてしまう。
「へぇ、これが魔法か。案外、イメージで見た目とか変わりそうだなぁ。」
美湖は今回の魔法で、詠唱中につららをイメージしていた。そして現れたのは、イメージしたままのつららだったのだ。
美湖は、銅の封じ札にコケの死体を封じ、カードケースにしまい込み、進みだす。
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しばらく進むと、川の下流に城壁が見えてきた。横に長く続いており、川は、城壁の中に流れ込んでいっていた。城壁は、四角い大きな石を規則正しく積み重ねて、元の世界でいう、4階建てのアパートくらいの高さまで積み重ねてあった。
「お、あれは町かな?よかった~、どうやら野宿しないですみそうだよ。」
美湖は、見えてきた城壁に向かって小走りで走り出した。