不穏な情勢
美湖たちが、ウーサーメイジョアーの塔第1階層階層主を討伐してから約1か月がたっていた。その間、美湖たちは塔を10階層まで突破していた。全30階層が確認されているウーサーメイジョアーの塔だが、1/3を突破した形になっており、現在は11階層を攻略中である。
本日も、11階層の攻略を進め塔産の素材の納品依頼を納品しているところだった。
「はい、確認できました。依頼の報酬と、そのほかの素材買取金額で30000ルクスです。ご確認ください。」
美湖の専属受付嬢のアリアがトレーの上に金貨2枚、銀貨10枚を載せてカウンターにやってきた。
「はい、確かに受け取りました。ありがとうございます。ところでアリアさん。今日の探索で、シュガーベリーの実を収穫できたので良ければいくらかいかがですか?」
「あら、それはいいですね。私も好きですし、シュガーベリーはアヤメ支部長が大好きなので喜ぶと思いますよ。でも、希少なものですし、分けてもらっていいんですか?」
アリアが美湖に確認する。シュガーベリーは見た目はラズベリーなのだが、すごく甘く、またその甘みがくどくなく、コーヒーやお茶に合うとのことで、ある程度の収入以上の市民や貴族たちからは店に並ぶとすぐに買い占められるほどには希少品である。
「大丈夫ですよ。うちの子に、こういうのを探すのが大得意な子がいまして…。あの子、ふら~と離れたと思ったら、見つけてくるんですよ。おかげで銀の封じ札2枚分見つけましたよ。」
「それはすごい才能ですね。アヤメ支部長なら喜んで欲しがるスキル?ですね」
アリアは苦笑いしながら、美湖たちを支部長室まで案内する。
「アヤメ支部長、探索者の美湖さんたちからシュガーベリーの実の差し入れです。入室してもよろしいですか?」
支部長室の扉をノックし、用件を伝えるアリア。すぐにドアが開きアヤメが出てくる。
「よくやった、美湖!さぁ、入るがいい。うまい茶を出してやろう。」
と、すごくテンションの高いアヤメが出てきて、美湖の腕を引き支部長室に引き込んでいった。それを見たユーナたちは、
「アリアさん、あれアヤメさんですよね?」
「ええ、そうですよ。だから言ったでしょう、シュガーベリーが大好きだって。」
と、半ばあきらめた顔でユーナに返答していた。そして置いて行かれた3人を連れて、支部長室に入っていった。
美湖、ユーナ、アリサ、スーリン、アリアはそれぞれ椅子に座り、アヤメが入れたお茶を飲みながら、美湖の札から出したシュガーベリーを食べていた。
「しかし、よくこれだけ収穫できたな。シュガーベリーはある程度流通はしているが、それなりに希少で私も1月に1一皿分食べれるかどうかだぞ。それがこんなに山盛りに。」
「ああ、さっきアリアさんにも説明したんですけど、うちのスーリンちゃんが、そういうのを探すのが得意でして、ここに出した以外にも結構在庫も確保できてるんですよね。しかも塔での収穫なのですぐに同じだけ収穫してくることもできると思いますよ。」
と答えると、アヤメが身を乗り出してきて、
「なんだと!?美湖、スーリンを私にくれ!!なんなら、私付きの秘書という形でもいい。給与もアリアの10倍は出すぞ!」
「おいこら、そんな理由でスーリンちゃんをやるわけないだろ!『アイシクル・ロック』」
「支部長?ふざけてると、私でも怒りますよ?『アクアプリズン』」
アヤメの言葉に美湖、アリアが切れて魔法を発動する。美湖の『アイシクル・ロック』でアヤメの首から下が凍り付き、アリアの『アクアプリズン』で大きな水の球にその状態のアヤメを閉じ込めた。
「おい、貴様ら、これは何の真似だ?」
突然のことにアヤメが怒りを示すが、
「支部長、僕が怒っているのは、スーリンちゃんを連れて行こうとしているからですよ?しかも、シュガーベリーのために?ふざけてます?」
「支部長?私の10倍っていくらかわかります?私、月々金貨5枚ですけど?毎月払えます?金貨50枚。500000ルクス。もちろん、支部長の私的な採用なので、クランからではなく、支部長のポケットマネーから出してくださいね。」
と、二人からの冷えた視線と、圧の強い言葉にみるみる怒りの気持ちをしぼませていき、
「すみませんでした、私が間違っていました、魔法を解いてください。」
と、涙目で二人にお願いしてしまった。
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「あ~、久々に怖かったぞ、お前たち。」
美湖、アリアの魔法から解放されたアヤメが、椅子に座りなおしてシュガーベリーを食べながらうなだれていた。
「支部長が悪いんですよ。わけのわからない理由でスーリンちゃんを引き抜こうとするんですから。」
「私もぉ、支部長の下で働くつもりはないですねぇ。ご主人様のほうが楽しいのでぇ。」
と、美湖たちにあしらわれつつ、つかの間のティータイムを過ごしたのだった。
「そういえば美湖、少しきな臭い話があってな。」
美湖からもらったシュガーベリーもなくなりかけたころ、アヤメが思い出したように美湖に話をしだした。
「実はな、最近この町の教会の担当者が変わったらしくてな。今まではまぁ、穏健な方針の担当者だったんだが、今回その担当者がもう高齢で隠居したんだ。そしてそいつの代わりに来た奴が曲者でな。人間種以外の亜人種、まぁ、お前のパーティーメンバーのような人種だな。それらの人種に対して差別思想を持つ奴が来てしまってな。特に、ユーナのような魔族の特徴を持つものや、ダークエルフなどはその差別が大きいんだ。クランとしても、異議を唱えているんだが、そこそこ権力が高くてな。注意していてほしい。」
と、4人に伝えた。それを聞いた美湖はもちろん怒りをあらわにして、
「支部長、そいつどこにいます?僕今から殺してくるよ。」
と、アヤメの周囲を凍らせながら尋ねる。しかし、今回はアヤメは落ち着いた態度で、
「まぁ、落ち着け。お前ならそんな反応になると思ってたよ。だからとあるものを用意した。アリア、あれを持ってきてくれ。」
アヤメに言われてアリアは少しの間支部長室から出ていき、少ししてからあるものを持って戻ってきた。
「皆さん、こちらをそれぞれつけてください。」
と、腕輪が4つ乗ったトレーをさしだしてきた。
「これは認識疎外の腕輪だ。効果としてはつけた対象の見た目を人間種と認識させる効果がある。ほかにも、認識されないやつとか、ほかの種族に見えるようになるなどいろいろあるが、今回はこれを準備した。持ってけ。」
と、腕輪の効果を説明され、各自腕輪を付けた。
「ていうか、自然にだけど、どうして僕もつけてるんだろ?僕人間族だよね?」
「支部長の計らいですよ。同じパーティーで同じアクセサリーを一人だけつけていないのは不自然ではないですか。なので、美湖さんに関してはただのアクセサリーですけど、つけておいたほうが変な疑いかからないからって理由です。」
「なるほどです。じゃあ、皆とおそろいだね。」
そういうと、美湖も腕輪を取り付ける。ほかの3人も取り付けると、3人とも見た目が人族のようになった。ユーナは銀髪が茶髪になり、目立っていた犬歯が八重歯くらいまで縮んだ。アリサは狼耳、しっぽがなくなった。スーリンはハーフエルフ特有の長めの耳がなくなり、薄黄緑色の髪の毛が黒髪になった。
「ああ…、皆の姿が、皆の姿がぁぁぁぁ……。」
とその場に美湖が崩れ落ちる。それを見てアヤメとアリアは少し引いて見ていた。
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アヤメから腕輪を受けっとた美湖たちは、クラン支部を後にしたのち奴隷商『スレイブ』に立ち寄っていた。
「お久しぶりですカルアさん。今日、アヤメ支部長から教会の担当者について聞きました。今回についての奴隷の扱いってどうするのか教えてもらいたくて。」
「これはこれは、美湖さま。ユーナ、アリア、スーリンもよくしていただいているようで何よりです。さて、内容も内容ですので商談室にお越しください。」
カルアに連れられ、美湖たち4人は『スレイブ』の商談室に通された。
「さて、教会の担当者についてでしたね。確かに私も話は聞いております。人間種以外の者に対する差別思想が強い方と聞いています。ただ、こと奴隷商についてには問題ありません。ユーナの購入時にも説明したと思いますが、奴隷の主人にはどういう目的で購入するか、そしてある程度の衣食住を維持することが義務付けられております。そしてこの衣食住には過度な暴力や、奴隷を故意に殺害することが禁止されております。塔の探索中に魔物に殺されたとか、盗賊に襲われて殺害されたなど不可抗力の場合を除き、もしそれを行った際に、犯罪行為となりクラン証がロックされます。相当高位の権力者でなければクラン証を所持しています。そして、この町の教会の担当者クラスの権力者であればクラン証を所持しています。なので少なくとも犯罪行為をしないとは思っております。」
カルアはここで一呼吸を置き、さらに続ける。
「そして、教会が一般の市民に所有している奴隷を譲渡するように強要することも犯罪行為に該当します。もちろん、正当な対価や理由があるのであれば問題ありませんが、私ども奴隷所を通じて行います。譲渡後も犯罪奴隷でなければ待遇は先ほど言った内容を守らなければなりません。
美湖様が知りたかったことはこのくらいでしょうか?」
カルアが美湖に確認する。美湖はそれに対して、
「すごいですね。その通りです。でも、教会の権力とかで無理やりとか、断りづらい状態にしてくるとかもあるのでは?」
「確かに、そういうこともあるでしょうな。ですが、それも犯罪行為なので、もしそれをされた場合、各クラン支部長に報告してください。美湖さんの実力であればそれくらいは大丈夫でしょう。ユーナについても今は腕輪でごまかしていますが、特殊な魔眼持ちの者なら見破ってしまうでしょう。万能ではありませんのでご注意を。ちなみに、理不尽に取り囲まれたりしたときは実力行使も問題ありません。」
と最後に口の端を少し吊り上げながら、最後の言葉を美湖に伝えた。それを聞いた美湖は同じように口の端を吊り上げ、
「なら、問題ないですね。それが聞けて良かったです。今日は急に来てしまってすみませんでした。」
と礼を言い、『スレイブ』を後にした。




