旅立ち
「へぇ~、まるでゲームみたいですね。」
美湖は、自分のステータスを見てそうつぶやいた。
「そうですね。あなた方の世界では、その認識で問題ないでしょう。ですが、あなた方の世界では娯楽でしたが、あちらの世界では、日常となります。ゆえに、その数値によって、自身の能力、才能が一目でわかりますので、そういう意味では、生活は楽になっているかもしれませんね。」
デュナミスは、どれどれと美湖のステータスをのぞきこんだ。そして、
「ななな何ですか!?そのステータスは!?」
と、おおいにおどろいてみせた。
「え、え?僕のステータスおかしいんですか?」
美湖もおどろいているが、彼女からしたら、 比べる対象もいないので、自分のステータスがどんな物かわからないでいた。
「おかしいですよ!本来、あなたくらいの年齢なら、レベルはそれくらいが妥当ですが、すべての能力値が大幅に基準を超えてます。大体5~6倍くらいはありますよ!」
そう言って、デュナミスは、成人男性の平均的なステータスを見せてきた。
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レベル 7
HP 120/120
ST 100/100
MP 100/100
AT 50
DF 40
MA 45
MD 40
SP 60
IN 40
DX 40
MI 30
LU ???
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「ふつうは、こんな感じです。そりゃ、どれか一つくらい飛び出ている人はいたりしますが、こんなに全部の能力が、基準を大幅に超えてる人なんていませんよ。まぁ、能力については、大きければ大きいほど死ににくいのでいいとしますが、スキルもおかしいでしょ!なんですか、全部熟練値MAXって!」
「そ、そんなにおかしかったんだ、僕。でも、これって女神さまがくれたものじゃないんですか?」
美湖は、一人エキサイトしているデュナミスに問いかける。
「確かに、貴女をもとの体のままあちらに送っていれば、すぐに体が適応できずに死んでいたでしょう。なので、そういう意味では、私があなたに与えた能力ということになりますが、これは本来、あなたが持っていた能力を数値化したものなんです。だから、驚いているのです。」
デュナミスが言うには、「言語理解」と『鑑定』は、転移する際、必ず与えられるとのことだ。そして、美湖の能力は、元の世界で培ったことをもとに、『ストライド』での能力に反映させたものらしい。確かに、美湖は運動神経抜群で、学力も優秀だったから、平均よりは能力値は高いだろうと思える。
「あなたの場合、剣道をしていて、同世代で全国大会に出るほどの部員を差し置いて、全員を打ち倒せるほどのスタミナと技術、母子家庭により、家事全般をしていたことから、生活魔法に適性があるのはわかりますが、ほかの説明ができません。」
美湖の持つスキル『剣術』と『生活魔法』は、美湖の前世の状況から得ることができたようだ。しかし、『封札』と『氷魔法』の説明がつかないそうだ。
ちなみにデュナミスは、各スキルについて説明してくれた。
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言語理解
様々な言語を理解し、話し、読み書きができるようになる。
習得時に5言語を理解し、熟練値が1上がるごとに、一つの言語を理解する。
熟練値MAXで、すべての言語を理解する。
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鑑定
対象のステータスを確認することができる。
対象が生きている場合、対象のレベルが術者本人よりも高い場合は、情報が正しく読み取れない場合がある。
熟練値MAXで、レベル差にかかわらず読み取ることができる。
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片手剣術(上限20)
剣全般を使う際、行動に補正がかかる。
習得時に基本武技『スラッシュ』を習得する。
その後、5の倍数の熟練値ごとに、武技を習得する。
5…直線突き
10…ダブルクロス
15…クワトロピアース
20…クインテットスラッシュ
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氷魔法(上限30)
氷属性の魔法を使うことができる。
習得時に基本魔法『フリーズ』を習得する。
その後、5の倍数ごとに、基本魔法を習得する。
5…アイスボール
10…アイスアロー
15…アイスバインド
20…アイシクルロック
25…アイスバレット
30…アイスウォール
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封札
従 美湖のユニークスキル。
対象を専用の札に封じ、開放することのできるスキル。
生きているものも封じることができるが、植物以外の個体は、札1枚につき1個体までしか封じれない。また、封じる際は対象の同意が必要。
魔法も封じることができるが、ベクトルまでは封じることはできず、解放した際、その場に現れる。
金のインゴット、銀のインゴット、銅のインゴット、魔石から札を作ることができる。
魔石は、魔石のランクに応じて、封じることのできる数が増える。
金の封じ札 …100個
銀の封じ札 …50個
銅の封じ札 …20個
魔札(TS)…100個
魔札(WS)…90個
魔札(S) …80個
魔札(A) …70個
魔札(B) …60個
魔札(C) …50個
魔札(D) …40個
魔札(E) …30個
魔札(F) …20個
魔札(G) …10個
魔札(H) …1個
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生活魔法
日常生活に用いる魔法。
火をつける『トーチ』、対象を綺麗にする『クリーン』、暗闇を照らす『ルーメン』、水を出す『ボトルウォーター』、対象を乾燥させる『ドライ』、避妊する『マタニティオフ』を習得する。
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「普通、人間族がこれだけのスキルを得ようものなら、たくさんの修業が必要なのです。しかし、一度発現した能力を消去することは、神にもできないことなので、このまま転移していただきます。それから、あなたがあちらの世界で生きていくための、最低限の物資をお渡しします。」
デュナミスが手をかざすと、何もないところから、剣や服、コインや鞄などが現れた。
「これらがあなたに与えられる物資です。ちょうどいいので、『鑑定』スキルの練習もしてみてはいかがでしょうか?対象を調べたいと念じつつ、「鑑定」と唱えれば、対象のステータスが見えるはずです。」
美湖は言われたとおりに、それぞれに『鑑定』をかけていく。
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ブロンズソード
片手剣
青銅でできた片手剣。安価であり、駆け出しの探索者や、騎士がよく用いる。
AT +10
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ブロンズダガー
短剣
青銅でできた短剣。安価であり、駆け出しの探索者や、一般市民がご使用として用いる。
AT +8
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ブロンズサークレット
頭防具
青銅でできたサークレット。頭部を守る。
DF +10
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ブロンズコート
胴防具
青銅片を編み込んだコート。斬撃に耐性がある。
DF +20
斬撃耐性 極小
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ブロンズバングル
腕防具
青銅で出来た腕輪。
DF +20
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ブロンズスカート
腰防具
青銅片を繋ぎ合わせたスカート。
DF +20
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ブロンズブーツ
脚防具
青銅でできたブーツ。
DF +15
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フォレストシルクシャツ
胴服
森蚕の糸から作られたシャツ。
DF +8
5着
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フォレストシルクパンツ
腰服
森蚕の糸から作られたホットパンツ。
DF +8
5着
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レザーブーツ
脚服
動物の革から作られたブーツ。
DF +5
3足
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絹の肌着セット
胴、腰、足下着
絹で出来たブラジャー、ショーツ、ソックスのセット
各DF +1
5セット
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非常食
一つ食べると1食分のエネルギーと、満腹感が得られる。無味無臭。
30個
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金の封じ札
『封札』スキルにて、対象を封じることが出来る。また、同種の物なら100個まで封じることが出来る。
『封札』スキルにて、金のインゴット1つから、1枚生み出すことができる。
5枚
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銀の封じ札
『封札』スキルにて、対象を封じることができる。また、同種の物なら50個まで封じることができる。
『封札』スキルにて、銀のインゴット1つから、1枚生み出すことができる。
10枚
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銅の封じ札
『封札』スキルにて、対象を封じることができる。また、同種の物なら20個まで封じることができる。
『封札』スキルにて、銅のインゴット1つから、1枚生み出すことができる。
20枚
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金貨
『ストライド』全域にて使われている貸幣。1枚で10000ルクス。
10枚 100000ルクス
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銀貨
『ストライド』全域に手使われている貨幣。1枚で1000ルクス
10枚 10000ルクス
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銅貸
『ストライド』全域にて使われている貨幣。1枚で100ルクス。
10枚 1000ルクス
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カードケースベルト
封じ札が50枚入るケースが10個ついているベルト。どれだけ入っていても、中味の重さを感じない。
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「これ全部貰えるんですか?」
「えぇ。本来、転移者に渡す基本装備に、あなたのスキルのための初期アイテムですから。それに、貴女には、新しい人生を楽しんでいただきたいですから。転移してからすぐに殺された。何て最悪ですからね。では、服を着替えてしまいましょう。」
デュナミスに言われるまま、美湖は来ていた制服を脱ぎ、『フォレストシルクシャツ』『フォレストシルクパンツ』『絹の肌着セット』を身に着ける。そのあと、『ブロンズサークレット』『ブロンズコート』『ブロンズバングル』『ブロンズスカート』『ブロンズブーツ』を身に着け、最後に『ブロンズソード』を腰に下げる。
「はい、とってもかっこいいですよ。どう見ても、向こうの探索者です。次に、『封札』スキルの練習をしてみましょう。札を対象にかざして、『封札』と唱えてください。」
デュナミスの言うとおりに、美湖は『銅の封し札』を、自分の脱いだ制服にかざして、
「『封札』!」
と、唱える。すると、制服のうちの上着のブレザーだけが消えて、『銅の封じ札』に『ブレザー ×1』と表示された。
「これが、『封札』スキルの力です。半径3メートル以内の物を、封じ札に封じ込めるスキルです。そして、『解放』と唱えると、封じていたものをその場に取り出すことができます。」
美湖は、ほかの物もすべて封じ札に封じていった。
「さて、これで準備できましたね。最後に質問や、疑問はありますか?」
デュナミスは、準備できましたと言わんばかりに、最終段階の準備を始めた。
「そうですね。質問というか、疑問なんですけど。僕が死んだということは、元の世界ではどのようになってるんですか?」
美湖は死んだが、こうして世界の狭間という場所に来ている。美湖の死という状態が、向こうでも正しく処理されたのか、別の何かに置き換えられたのか、それが知りたかった。
「あなたの死は、友人からの刺殺となっています。これは変わりません。まだ、だれにも見つけられておりませんが、いずれ見つけられ、殺人として処理されるでしょう。」
デュナミスは、いたって冷静にその事実を告げた。しかし、美湖はその答えに納得して、
「わかりました。では、お願いがあります。」
美湖はそこで言葉を切り、大きく深呼吸して、
「お母さんを、幸せになるようにしてもらえませんか?お父さん、あの男に裏切られ、何とか耐えて、やっと二人で幸せになろうと頑張りだしたところだったんです。ここで僕が死ねば、お母さんはもしかしたら発狂してしまうかもしれない。だから、どうか、お母さんが幸せになるようにしてください。」
美湖は、その瞳に涙を浮かべてデュナミスに祈るように訴えた。デュナミスはその訴えにうなずき、
「わかりました。ですが、神が一個人に干渉することはできません。あなたのように、この世界の狭間に来たなどは別ですが。しかし、できることはしましょう。あなたの母親―従 美紅―が幸せになるように、少し因果律や、運命をいじりましょう。あとは本人次第です。」
「...ありがとう、ございます。女神さま。」
美湖は、涙を流して礼を言う。その姿を見て、デュナミスも、微笑むように笑う。
「さぁ、あなたも旅立つ時が来ました。大丈夫。あなたの母親は強い方です。あなたも、強く、そして元気に、この『ストライド』で生きてください。」
デュナミスは、美湖の前に魔方陣を作り出す。その魔方陣に乗れば、美湖は世界の狭間から、異世界『ストライド』に転移する。
「ありがとうございます。女神さま。僕、頑張って生きてみます。」
美湖は、流していた涙をぬぐい、魔法陣に乗る。すると、魔法陣が輝きだし、あっという間に美湖の姿は見えなくなってしまった。
この瞬間、美湖は、『ストライド』に旅立ったのだった。