第一階層主 4
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
周囲の大気をも振るわせるほどの、美湖の叫びが響き渡る。その声に、仲間たちも、ビーエンプレスも動きが止まる。
「この虫野郎がぁぁぁぁっ!」
美湖が再び咆え、海洋鉱の剣を抜く。それと同時に、彼女の体から大量の魔力があふれ出る。
美湖が地を蹴る。一気にビーエンプレスの滞空する高さまで飛び上がった。
美湖が剣を振るう。ビーエンプレスの羽が根元から切り離される。飛ぶことができなくなったビーエンプレスは地面に落下する。
着地した美湖の剣戟が、動きを封じられたビーエンプレスに降りかかる。一撃ごとに、甲殻が、脚が、ばらばらに切り裂かれていく。
すでにビーエンプレスのHPは0になっているのだが、美湖による攻撃が止まないため、いまだに消えていなかない。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
しかし、美湖はそんなことはどうでもいいというように、切り刻み続ける。それは、ビーエンプレスが黒い霧となって消えるまで続いた。
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「あ、あんたらの主人さん、どうなってんだ?」
美湖の変わり様を見たユリカがアリサにきく。その声は震えていたが。
「知らねぇよ…。あんなご主人様見たことないんだから。っても、私とスーリンは昨日ご主人様に買われたばかりなんで、一番付き合いの長いユーナさんがこの状態だし。」
「でもぉ、昨日の模擬戦の実力、異常でしたよねぇ。あの力をぉ、どこで手に入れたのかは気になりますねぇ。」
アリサとスーリンも、自分の主人の異常な力を見せられて、呆気に取られている。
「あ、終わりしたわ!」
エリザの言葉で、美湖の戦闘に見入っていた皆も、我に返る。そこには、剣を下ろし、怒りが沸き立ったままの美湖が立っていた。
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ビーエンプレスが消えた後、少しの間立ち尽くしていた美湖だったが、すぐに仲間たちに向き直りかけよる。
「みんな!ユーナちゃんは!?」
あれだけの戦闘をした後だというのに、彼女はユーナのことを第一に心配していた。
「大丈夫ですぅ、ご主人様ぁ。回復魔法でぇ、しっかり治療しましたぁ。今はぁ、気を失ってるだけですよぉ。」
スーリンの言葉を聞いた美湖が、今までの焦燥にかられた表情が一気に軟化した。力も抜けてその場所に座り込む。
「よかったぁ~。」
その美湖の様子を見たほかのメンバーも、そこでようやく肩の荷を下ろしたのだった。
「んっ。う~ん...。」
全員の緊張が解けたところで、ユーナが意識を取り戻す。
「あ、ユーナちゃん。気が付いたんだね。よかった。」
ユーナはおぼろげな目を左右に振り、周囲を見渡す。少しして意識がはっきりしてきたのか目を見開き、
「っ、ご主人様、あの蜂は!?」
体を起こし周りを見るが、すでにドロップアイテムも回収されており、あるのは第2階層につながる階段だけだった。
「大丈夫。もう討伐したよ。それより体は大丈夫?」
美湖はユーナの体を支え、落ち着かせるように言う。それを聞いて、ユーナも次第に落ち着き、
「そう、ですか。ありがとうございます、ご主人様。すみません、ご迷惑をおかけしました。」
ユーナはゆっくり体を起こし立ち上がる。
「さて、ユーナちゃんも目を覚ましたし、第二階層に行ってから町に帰ろうか。ユリカさんたちもそれでいいかな。あんな戦闘をした後だし、帰るでしょ?」
美湖の提案に、ユリカたちも賛成してくれた。全員でドロップアイテムをかき集め、美湖の封じ札に封じていく。ジャイアントビーの素材が多く、30分くらいかかってしまったが、無事に回収し、一同は第2階層に向かう。
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「へぇー、ここが第2階層か~。」
一番乗りで階段を上り終えた美湖の、第一声がそれだった。
第2階層は、第1階層と同じように草原が広がっていた。が、大きく違う点がいくつかあった。
「わぁ、すごいですご主人様。あんなきれいな湖、見たことがありませんよ!」
続いて登ってきたユーナが、そこから見渡せる景色を見て声を上げる。そう、第2階層には、きれいな水を湛えた大きな湖があった。
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「ほう、第1階層と大きくは変わらなさそうだな。しかし、あの湖、おそらく水棲系の魔物もいるのだろう。そうなると、さらにいろいろな素材も手に入りそうだ。」
ユリカたちも、新たな階層に胸を躍らせている。先ほどの戦闘の疲れも感じさせないほどの盛り上がりようだ。
「さて、このまま攻略に行ってみたい気もするけど、いったん帰ろうか。さすがに消耗が激しいからね。ユリカさんたちも、それでいいよね。」
「ああ、かまわない。むしろ同行させてくれ。さすがにきつい。」
と、苦笑いしながら同意してくれた。
「あはは、だよね。じゃ、ラティアの街に帰ろう。」
美湖達は、第2階層の入口にあった転移石に触れ、塔の入口まで転移し、ラティアの街に帰るのだった。
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「えーと、これは何の冗談ですかね。」
塔から帰えってきた美湖達を出迎えたアリアは、その後の美湖の報告を受けて頭をかかえていた。アリアは、美湖達が大量の素材があるから、解体室に行きたいというので同行した。そして、美湖が放出した素材の内容を見て、今に至る。
「今日の塔での成果です。何か問題ありました?」
「ありました?じゃないですよ!どうして本来、第1階層にいない魔物の素材がこんなにあるんですか!?私言いましたよね!?」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。とりあえず、今日の塔攻略の流れから説明しますね。
まず、僕たちが塔に入ってからは、普通に魔物を討伐してました。ゴブリンやフレンジカウなんかです。それからしばらくして、ワイトやロックリザードといった上階で出現する魔物たちが少しずつ出始めて、それらを討伐しつつ、階層主のエリアを目指してたんです。」
「えっと、とりあえずそこに突っ込んでいいですか?何で上階で出現する魔物が出始めた時点で、撤退を選ばないんですか!?私、あんなに言ったのに!」
美湖の報告を聞いて、アリアの怒りのボルテージはガンガン上がる。美湖達は少し気おされながらも、さらに報告を続ける。
「えーっとですね。そのあと、階層主のエリアを見つけたんですけど、すでにユリカさんたちのパーティーが戦っていて、ビーエンプレスや、ジャイアントビーなんかがいて、結構危ない状況だったんですね。それで、僕のスキルで障壁を破れないか試してみて、うまくいったのでそのまま討伐して、第二階層に登ってすぐに帰ってきました。」
アリアの起源をうかがいながら、美湖は報告を終える。それを聞いていたアリアはこぶしを震わせながら、
「だからなんであなたは無茶ばかりするんですか!!結果的にユリカさんたちが助かったのは幸いですが、一歩間違えば今頃第一階層はとんでもないことになってたんですよ!」
アリアは、そこで言葉を区切り大きく息をつくと、
「でも、正しくない判断とも言い切れないんです。もし見捨てていても、途中で撤退していても、おそらくユリカさんたちのパーティーは壊滅、ここにはいなかったでしょうから。ユリカさんたちの命が助かっている点を見れば、これ以上怒ることもできないですから。美湖さんてずるいですよね。」
と、悔しそうな、それでもほっとしているような微笑みを浮かべて、その話を終わらせた。
「...すみません。でも、やっぱり放っておけなかったから。」
「いいですよ。それよりも、今回の報酬の話をしましょう。皆さん、支部長室に来てください。」
アリアの言葉に7人は同意し、支部長室に向かうのだった。
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「だから、どうして私の部下達は、部屋に入るときにノックをしないんだ?」
デスクにつきながら、アヤメは大きくため息をつき、そのようなことを呟いた。
「それで、こんどはなんだ?また、美湖が何かやらかしたのか?」
「ちょっ!?支部長、決めつけはよくないと思います。」
アヤメの質問に、美湖は誤魔化すように言う。
「まぁ、今の反応でだいたいわかった。アリア、説明してくれ。」
アヤメに促され、アリアは先程の美湖とのやり取りを説明した。一通り説明が終わったところで、
「...なぁ、美湖。お前、毎回無茶しないと死ぬ呪いでもついてるのか?」
と、アヤメが呆れながら言う。となりでは、アリアが何度も頷いている。
「さて、美湖をいじめるのはこれくらいにしておいて、そろそろ真面目な話をするか。」
と、真剣な表情になったアヤメが、一同を見渡す。
「まずは美湖のパーティーから。まずは第1階層の突破おめでとう。クランとしても、より高い層に挑める探索者はありがたいのでな。そして、異常な状態になっていた第1階層の主を討伐してくれたことだ。もちろんしばらく様子は見るが、おそらくこのまま元の状態に戻るだろう。これで安全に他の探索者も行動出来る。それに、ビーエンプレス、ミドルトレント、ワイト、ロックリザード。これらを軽く訂代出来るパーティーをEランクにしておくことは出来ん。美湖、ユーナ、アリサ、スーリンの4人をDランクとする。アリア、後でランクアップの手続きをしてやってくれ。」
「わかりました。」
1度言葉を切ったアヤメにアリアが返事をする。
「次にユリカのパーティーだが現在、全員Fランクで間違いないな?」
「はい、その通りです。」
アヤメの質問にユリカが答える。それを確認したアヤメは、
「今回の件により、ユリカ、レイク、エリザの3名をFランクからEランクに昇格とする。アリア、まてめて処理しておいてくれ。」
「いいんですか?私達、ビーエンプレスとは戦いましたけど、何も出来ずに美湖さんたちに助けられただけですよ?」
「ははは、ビーエンプレスは、本来Bランクの魔物だぞ。いくら第1階層に落ちて来ていたとはいえ、異常状態の塔の主だったんだ。それと戦って生き残っているんだ、1ランクアップくらい当然の対応だ。」
ユリカの質問にアヤメがしれっと返す。そして、
「改ためて言う。美湖達もユリカ達も、異常状態の塔からの帰還、そして、美湖達には、階層主を討伐、塔の正常化の助けまでしてもらった。クラン支部長として礼て言う。ありがとう。」
と深く頭を下げた。美湖達は、アヤメの言葉をしっかりて受けとめたのだった。




