第一階層主 1
翌日、美湖達は宿の横に併設されている酒場で軽い朝食をとった後、クラン支部に向かった。
「おはようございます、美湖さん。ユーナさんにアリサさん、スーリンさんも。今日はどのような御用でしょうか?」
カウンターにいたアリアが、美湖達を見つけて自分のカウンターに誘導する。
「おはようございます、アリアさん。今日も、ウーサーメイジョアーの塔に挑みたいんですが、先日言っていたミドルトレントが出た件について、その後どうなりました?」
と、美湖はクランに来た理由を話す。塔に挑むだけなら、クランに顔を出さなくても問題はない。今回、美湖達がクランに来たのは、先日、美湖達が遭遇したミドルトレントの件だった。
「はい、多分そのうち聞かれるだろうなとは思っていましたよ。といっても特に異常はなかったんですよね。今のところ、出現する魔物の種類や強さ、階層主の強さも依然と同様なんですよ。ただ、まだ日にちが立っていないので、Fランク以下の探索者は、たとえ実力が認められていても塔に入るのを止めております。また、階層主に関しても、最大限の準備をしてから挑むようにしてくださいね。」
と、いまだ警戒中であることを教えてくれた。
「なるほど、なら僕たちは、まだ2回目ですし、普通に探索したほうがいいですね。アリサちゃん、スーリンちゃんは初めてですし。」
「そうですね。できればそうして欲しいです。ですが、以前のように強力な魔物が現れたら、撤退するのも忘れないでくださいね。」
アリアは美湖に向かって念を押す。美湖にはいろいろと前科があるのだ。
「な、何を言ってるんですか、アリアさん。僕がそんな無茶をすると思ってるんですか?」
と、美湖が動揺しながらも返すと、
「ほほう、美湖さんは身に覚えがないと?
登録して間もなくスタンピートを壊滅させる。
毎日100体近くの魔物を討伐してくる。
その素材をほぼすべて持ち帰る。
塔に挑んだら、本来出現しない魔物を見つけるだけでなく討伐してくる。
私が何度頭痛薬飲んだと思ってるんですか!?」
アリアはカウンターをドンっと叩き、感情を爆発させた。
「まぁ、ご主人様の異常性は今更気にすることでもないのでは?」
と、ユーナが一言突っ込みを入れるがアリアはスルーして美湖を睨んでいた。
「でも、それってクランからしたらいいことなんじゃ?」
美湖はアリアに言い返す。アリアは、大きくため息をついて、
「ふつうはそうですね!でもですね!それらを短期間で駆け出しの探索者がしたら、普通に大ごとなんですよ。専属の私の仕事がどれだけ増えたことか!!」
アリアは、美湖に向かって大きな声をぶつけた後、うつむき、
「自分の専属が死ぬかもしれないような、無茶な探索をしているんですよ。お願いですから、無茶はしないでくださいね?」
と、声を絞り出すように言った。美湖は、そんなアリアの手を取り、
「ごめんね。アリアさん。そんなふうに思ってたなんて。でも、大丈夫。僕たちは絶対戻ってきますから。」
と、笑顔で言うのだった。
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「なんかいい感じに言いくるめられた気がしますが、実力があるのも事実ですしね。まぁ、私のわがままですから、気にしないでください。」
アリアは気を取り戻すと、美湖達が塔に登るという報告書を書いて引き出しにしまう。
「ですが、今現在で、塔が不安定になっているのも事実です。安全マージンは取りすぎ位がちょうど良いと思ってくださいね。」
「はい!今日は新人たちも初めてですし、かく言う僕も2回目ですからね。焦らず、自分たちのペースで行きます。」
と、アリアに挨拶をして、美湖は3人を連れてクランを後にした。
「ああ、今日のアリアさん怖かった~。」
「まぁ仕方ないですよ。ご主人様のしていることがおかしいんですから。それに慣れてきてしまっている私が言うのもなんですが。」
と、ため息をついた美湖にユーナが話を返す。
「あ~、そんなこと言うんだぁ。アリサちゃん、ユーナちゃんが僕をいじめるんだよぉ。」
「あ~、なんつぅか、とりあえず、ユーナさん、一応ご主人様だろ?もっとこう、態度ってもんがあるんじゃないか?」
アリサは、美湖に縋りつかれ、苦笑いしながらユーナに言う。
「ふふ、わかってますよ。ですが、ご主人様がおかしいのは事実です。あなたたちも、今日の探索で私の気持ちが理解できますよ。」
微笑みながらユーナは言う。そんなやり取りをしながら、4人はウーサーメイジョアーの塔に向かった。
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「うん、ユーナさんが正しいわ。ご主人様おかしすぎだぜ。」
「そうですねぇ。これはユーナさんやぁ、アリアさんのほうが正しいですぅ。」
塔に入り、何回かの戦闘を行った後、美湖の戦闘を見たアリサとスーリンは同じようにつぶやいた。
「でしょう。ね、ご主人様?ご主人様の力は異常なんですよ。ですが、その異常はとても頼もしいですよ。」
と、ユーナが微笑みながら3人に言う。
「そ、そうかなぁ。ま、いいじゃん。それよりも、もっと探索しよう。」
と、美湖は言って、今倒した魔物の素材を封じ札に封じた。
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ミドルトレントの枝(塔)
ミドルトレントから生えている枝。時折動く。
魔力を帯びている。
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ミドルトレントの葉(塔)
ミドルトレントから生えている葉。時折動く。
魔力を帯びている。
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ミドルトレントの魔石(塔)
ミドルトレントの魔石。Eランク
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「あの、ご主人様。本来この階層には出現しない、強力な魔物をどうして一人で討伐してしまってるんですか?」
ユーナは、美湖がしでかしたことに頭を抱えながら質問する。
「てか、水属性を持つ剣で、木の魔物を倒すのってすごいよな。普通に威力半減してるはずなんだが...」
アリサが、そこに追い打ちをかける。
「いや~、一回戦ったことあるし、大丈夫かなって。それに、倒せたから問題ないよ。それに、ほかにも変な魔物を見つけたしね。」
美湖は、苦笑いを浮かべながら、3人に返す。そして、今まで倒した魔物の素材が封じられた封じ札を取り出す。
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ワイトの宝珠(塔)
ワイトの核が宝石化したもの。膨大な魔力が秘められている。
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ワイトの骨(塔)
ワイトの体を形作っている骨。魔力を帯びている。
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ワイトの魔石(塔)
ワイトの魔石。Dランク
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ロックリザードの外殻(塔)
ロックリザードの外皮。岩が生え、防御力が高い。
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ロックリザードの尾(塔)
ロックリザードの尾。岩が生え、硬度が高い。
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ロックリザードの魔石(塔)
ロックリザードの魔石。Eランク。
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「どれも本来は、第一階層には出現しない魔物です。やはり、塔が異常をきたしているのは間違いないですね。」
ユーナが美湖が取り出した封じ札を見て、いぶかしげな声を出す。
「だよね。やっぱりおかしいよね。僕たちだから何とかなったけど、この魔物たちって、本来もっと高ランクの探索者が倒すものでしょ?」
美湖も、声のトーンを落とす。ワイトやロックリザードは、第一階層に出現しているため、多少のステータスが落ちていることはあるが、それでも第1階層にいる探索者にとっては荷が重い魔物だった。
「なぁ、ご主人様。確か塔ってのは、短期間で魔物を狩りすぎると、こんな強い魔物を生成するんだろ?それをこんなに倒しちまうと、もっとやばいのが出てきてもおかしくないんじゃないか?」
アリサの言葉に、3人はハッとしたように顔を見合わせる。
「そうだよ。今はまだ勝ててるけど、これより強いのが出てきたら、さすがに勝てるかどうかわからないね。」
美湖は、顔を青くして言う。
「ですね。ですが、アリアさんは、この状態の塔の場合、その階層主を討伐すればこの異常は収まるらしいですが。」
ユーナが、美湖にアリアが言っていたことを伝える。
「なら、やることは一つだね。できるだけ魔物を討伐せずに、階層主を目指そう。そして、階層主を倒そう。」
美湖は、3人を連れて、階層主のいるエリアを目指した。
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階層主のエリアは大体その階層の中心となっている。そして、第1階層は数えるのも億劫になるくらいの探索者が探索してきた階層だ。マッピングはされつくしている。美湖は、クランでその地図を購入していた。
「もうすぐ、階層主のエリアに着くよ。みんな、覚悟はいい?」
地図を見ながら、美湖は3人に声をかける。すでに、全員が自分の武器を持ち、臨戦態勢になっている。
「はいご主人様。私は何時でも行けますよ。」
「おう、私もいつでも打てますぜ、ご主人様。」
「皆さんの援護は任せてくださいぃ。しっかり回復しますよぉ。」
3人の奴隷たちも、主人の声にこたえる。そうしているうちに、階層主のエリアが見えてきた。が、
「ご主人様?どうやら、ほかの方がすでに階層主と戦っているようです。障壁が展開されています。」
ユーナの言葉に、美湖は表情を険しくした。この異常が発生した階層の主だ。確実に異常なものになっているに違いない。そう思うと、無意識に階層主のエリアに駆けだしていた。
「おい、あれやばいぞ。3人の探索者がいるが、戦闘なんてもんじゃねぇ、一方的な蹂躙だ!」
障壁に近づいたアリサが、内部を見て大声を上げる。ほかのメンバーも障壁にたどり着き内部を見て絶句した。
障壁の内部では、無数のジャイアントビーが飛び回り、探索者たちを追い詰める。さらに、ひと際巨大な蜂が後方で控えている。
「なにあの大きい蜂?あれが階層主なの?」
美湖は、その大きい蜂に鑑定スキルを発動する。
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ビーエンプレス
レベル 30
HP 790/900
ST 550/700
MP 700/800
AT 400
DF 350
MA 450
MD 400
SP 600
IN 420
DX 500
MI 300
LU 120
スキル
眷属召喚 (30/50)
風魔法 (19/20)
毒鱗粉 (10/20)
麻痺鱗粉 (10/20)
毒針 (5/20)
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眷属召喚
眷属を召喚する。
眷属・ジャイアントビー
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毒鱗粉
毒性のある鱗粉を周囲に飛散させる。
毒の強さは熟練度に比例する。
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麻痺鱗粉
麻痺毒鱗粉を周囲に飛散させる。
麻痺毒の強さは熟練度に比例する。
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毒針
毒性のある針を放つスキル。
毒の強さは熟練度に比例する。
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「なるほど、あのパーティーが頑張ってたみたいだけど、数の暴力には勝てなかったみたいだね。」
美湖は戦況を見て苦虫をかみつぶした表情をする。現在、階層主に挑戦しているパーティーは、前衛の戦士が1人、後衛のアーチャーが1人、魔法使いが一1人。しかし、そのうち、アーチャーがすでにやられ、戦士が何とか戦線を維持し、魔法使いがアーチャーを治療している。だが、ジャイアントビーの猛攻で、それもいつまで持つかわからない状態だった。
「ご主人様、このままでは、あのパーティーは全滅してしまいます。」
ユーナが美湖に言う。美湖もそれはわかっているのか、表情に焦りが浮かんでいる。
「...みんな。僕のわがままに付き合ってくれる?」
美湖は、金の封じ札を取り出しながら言う。3人は無言でうなずく。
「ありがとう、みんな。行くよ、封札スキル発動!」
美湖は、3人が賛成してくれたことを確認すると、金の封じ札を用いて障壁を封印し始めた。
「くっ、絶対に封殺してやるんだから!」
美湖が封札スキルを発動させると、まばゆい光が生じ、ビーエンプレスの注意を引くことができた。その間に、戦士は体勢を立て直すことができたようだ。
「もうすぐ、封札完了するから、ユーナちゃん、アリサちゃん、敵の注意を引いて!スーリンちゃんは、あの3人を回復してあげて!」
「「「はい!」」」
美湖の言葉に奴隷たちは自分に与えられた役目を全うするため、体制を整える。
少しして、ついに障壁の封札が完了した。金の封じ札には『塔障壁100/100』と表示されている。
障壁がなくなったことで、ビーエンプレスが美湖達を敵と認識したようだ。
「さぁみんな!気合い入れていくよ!!」
美湖達は、それぞれの武器を手に、階層主に向かっていった。




