ウーサーメイジョアーの塔第一階層 1
「昨夜はお楽しみでしたね。」
朝、食事のためにカウンターに寄った美湖とユーナに、ソクラが笑顔でこの一言を投げかけた。
「...ソクラちゃん、どこでその言葉覚えたの?」
「お母さんから教えてもらいました。何でも、夜にイチャイチャしていた二人組にかける言葉だとか。違いましたか?」
ソクラは、どうやら母であるサクラから聞いたらしい。ご丁寧に、使うタイミングもしっかり教えてもらっているようだ。
「はぁ、いや、間違ってはないけどさ。まさか、この言葉を聞く立場になるとは思わなかったよ。」
美湖は、肩を落としながら酒場に向かった。ユーナは終始、意味が分かっていないようで首をかしげていた。
以前、美湖たちが提案してから、酒場のメニューに軽食が追加され、朝から胃もたれするような事態は回避できるようになっていた。
「ご主人様。今日は塔に挑むのですよね。」
「うん、そうだよ。でも、どんなところかわからないから、危険があればすぐに引き返すけどね。」
「そうですね。安全第一で行きましょう。」
二人は、注文していた朝食を食べながら、軽く今日の方針を話していく。
・今日挑むのは、第1階層のみ。
・魔物討伐のほか、採集なども行う。
・明日以降は、無理がなければ数日かけて攻略する。
・むりそうならすぐに撤退する。
と、こんな感じにまとまった。初めての場所で探索するのだ。用心しすぎてちょうどいいくらいだろうということになった。
「さて、じゃあ行きますか。ユーナちゃん。」
「はい、ご主人様。」
二人は、朝食を食べ終わると食堂を後にし、クラン支部に向かうのだった。
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クラン支部に着くと、より条件のいい依頼を受けようと、探索者たちが集まっていた。
「おい、それは俺が受けようと思ってたやつだぞ。この野郎!」
「はん!早いもん勝ちだ。他のを探しな。」
「私たちは、もっと簡単なのにするわよ。しっかり下地を積まないと。」
依頼が張り出されている掲示板の前では、探索者たちが騒々しく依頼を探している。その横を美湖たちは通り抜け、アリアのもとに向かう。まだ、探索者たちが依頼票を奪い合いしているので、カウンターは空いていた。
「あ、おはようございます、美湖さん、ユーナさん。今日でしたね、塔に挑むの。」
美湖たちを見つけたアリアが、手を振り自分のカウンターに招く。
「おはようございます。アリアさん。今から、ウーサーメイジョアーの塔に行ってきますね。」
「承りました。塔の入り口にクラン員がいますので、そちらでクラン証を提示してから入ってください。」
アリアに細かい説明を受けた。
・塔に入る際は、身分証にて、入塔の許可が必要。
・塔に入る者たちは、塔に入る際、身分証とリンクした腕輪が渡される。
・腕輪は、塔にある管理室の石板とリンクしており、所有者が死んだ際、石板に知らせてくれる。
・塔から出る場合、各階層にある転移石から入口まで転移できる。
・塔には、各階層ごとに階層主がおり、討伐することで次の階層に挑むことができる。
・ウーサーメイジョアーの塔は現在30階層になっている。
・塔は、放置すると階層を増やし、周囲に内包する魔物を放出する。
・最上階の階層主を討伐すると、塔は崩壊し、周囲の地域を豊饒な土地にする。
・塔を攻略したものには、神からの報酬がもらえる。
「とまぁ、こんな感じですかね。特に最後のはすごいですよ。金銭から、スキル、神器のようなアイテムまでもらえるらしいので。それに、クラン支部としては、ランクアップの査定の一つに、塔の突破階層数もありますのでぜひ頑張ってください。」
アリアは、塔までの簡単な地図を出し、説明を終わらせる。美湖はそれを受け取り、
「わかりました。しかし、神様からの報酬ですか。面白そうですね。よし!ユーナちゃん、頑張って塔をクリアしようね。」
「はい、お任せください。」
美湖は、ユーナの手を取り、クラン支部を出ていった。
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ウーサーメイジョアーの塔は、ラティアの町から2時間ほど歩いたところにあり、クランでは塔までの専用馬車を手配していて、朝、夕にそれぞれ3往復している。美湖たちはその馬車に乗り込む。探索者クランが手配しているので、探索者の利用料金は無料だった。
「いやー。この馬車すごく便利だね。」
「そうですね。探索者が乗っているので、この周辺に生息している魔物なら、簡単に討伐できますからね。御者の方も安心でしょうね。」
美湖たちは、馬車の窓の近くに席をとれたので、外を見ながら会話をしている。彼女たちのほかにも、2組の探索者パーティーがおり、今日はどこまで登るとか、どんな方針で行くのかとかを話し合っていた。ただ、装備や、会話の内容からすると、美湖たちよりも数ランク上の探索者たちのようだった。
「探索者の皆さん!魔物が出ました。お願いします!!」
ふいに、御者が大声で叫ぶ。美湖が窓から前方を見ると、ゴブリンが6匹、馬車の行く道を塞いでいた。
「お、仕事だな。俺達が行こう。」
最初に立ち上がったのは、4人組のパーティーだった。男2人、女2人のパーティーで、剣士2人、魔法使い、弓士2人ずつのバランスの取れたパーティーだった。剣士2人が、ゴブリンたちに斬りかかり、1体ずつ切り伏せる。それにより、ゴブリンたちの注意が2人に向く。そのうちに、魔法使いと弓士が遠距離攻撃で1体ずつ仕留め、さらに生じた隙を突き、再び剣士たちが切り伏せ、戦闘は終了した。
「おお、やっぱり先輩たちは強いね。一瞬だったね。」
「そうですね。しかも、それぞれがしてほしいこと、意思疎通してお互いが動いていました。私も、ご主人様と、あんなように戦いたいです。」
二人は、探索者パーティーの戦闘を見て、少しはしゃいでいた。4人を回収した後、馬車は塔に向かって再び進みだした。
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先ほどの戦闘以降、魔物の襲撃もなく、馬車はウーサーメイジョアーの塔に到着した。一緒に乗っていた探索者たちは、美湖たちよりも先に塔に入っていった。
「こんにちは。僕たち、塔に挑むの、初めてなんですけど。」
美湖は、塔の入り口にいた係員に話しかける。
「これはこれは。では、クラン証を提出していただけますか?」
係員は、美湖とユーナにクラン証を出すように言う。二人はクラン証を係員に差し出す。係員はそれを受け取り、入口に取り付けられている石板にセットし、石板の下にある台座に、腕輪を置く。すると、石板が光出し、その光が腕輪に流れ込んでいく。係員はその作業を2回行い、二人分の腕輪を用意する。
「お待たせしました。こちらがお二人の入搭証になります。こちらはお二人専用となり、他の搭に挑む際もこの入搭証で入ることが出来ます。また、クラン証に、入塔した塔の名前と、その攻略済み階層が表示される機能が追加されれおります。」
係員は、腕輪とクラン証をそれぞれセットにして二人に返した。
「おお、とっても便利ですね。ありがとうございます。」
美湖たちは、腕輪とクラン証を受け取ると、腕輪をそれぞれの右腕の二の腕に取り付けた。
「では、塔にはいられますと、広間が一つあります。そこは、転移の間となり、第2階層以上の転移石を登録している者たちが転移するための広間となっています。お二人は、本日が初めてですので、その広間を通り抜けて、第1階層に進んでください。それでは、健闘を祈ります。」
係員は、説明をすると、転移の間に続く扉を開け、美湖たちを送り出してくれた。二人は扉をくぐり、塔に入っていった。
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扉をくぐり、転移の間に入ると、先ほど同じ馬車に乗っていた2パーティーが準備をしていた。美湖たちはその横を通り抜け、第1階層に続く扉を開け、自分たちの武器を抜き進んでいく。
ウーサーメイジョアーの塔、第1階層は、見渡す限りの草原だった。ところどころに岩や、木々が生えているが、ほとんどが地平線まで見えるほどに開けた草原だった。
「おお!これが建物の中!?さすがファンタジー!!」
美湖は、目に飛び込んできた景色を見て大はしゃぎだが、
「ふぁんたじー?とは、何ですかご主人様?」
ユーナは、美湖の口にした言葉が理解できず、首をかしげていた。
「細かいことは気にしない!さぁ、いざ、攻略だ!」
美湖は、ユーナの手を取り第1階層に飛び出していく。空は快晴で、ここが塔の中でなければ、まるでピクニックに来ているようだった。が、
「お、さっそく敵のお出ましだね。ゴブリンだ。」
美湖の視線の先には、4体のゴブリンがいた。どうやらこちらにはまだ気づいていないようで、のんきに欠伸している個体もいる。美湖は、それらに鑑定スキルを発動させる。
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ゴブリン
レベル 8
HP 88/88
ST 56/56
MP 0/0
AT 28
DF 22
MA 20
MD 18
SP 30
IN 30
DX 14
MI 10
LU 11
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ゴブリン
レベル 7
HP 80/80
ST 55/55
MP 0/0
AT 26
DF 30
MA 20
MD 24
SP 18
IN 30
DX 30
MI 8
LU 30
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ゴブリン
レベル 8
HP 90/90
ST 60/60
MP 0/0
AT 30
DF 20
MA 25
MD 17
SP 30
IN 32
DX 20
MI 7
LU 5
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ゴブリン
レベル 7
HP 70/70
ST 50/50
MP 0/0
AT 10
DF 10
MA 9
MD 8
SP 40
IN 30
DX 50
MI 7
LU 40
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「うん、弱いわ。ユーナちゃん、とりあえず、僕が小手調べかねて討伐してくるね。」
美湖は、海洋鉱の直剣を抜き、ゴブリンたちに走り寄る。美湖が近づいてきたことに気づいたゴブリンたちが、彼女にとびかかるが、美湖の剣の一閃で切り伏せられた。
「ふぅ。弱いねぇ。って、死体が消えた!?」
美湖が振り返ると、ゴブリンたちの死骸は黒い霧になって消滅し、親指の先ほどの光る石と、いくつかの角が残っていた。
「お見事ですご主人様。ってどうしました?」
「ユーナちゃん!ゴブリンが消えちゃった!!」
美湖が慌てて聞いてくるのに対し、、ユーナは呆れたように、
「ご主人様?アリアさんの話を聞いていましたか?塔では、魔物を討伐したら、魔石とドロップアイテムを残し消滅してしまうといってたじゃないですか。お忘れですか?」
ユーナに諭され、美湖はようやく落ち着いた。
「あ~、そうだったそうだった。ごめんねユーナちゃん。」
美湖は、頬を赤め、後頭部を掻く。そして、カードケースから空の封じ札を取り出し、魔石とドロップアイテムを封じる。
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ゴブリンの魔石(塔)(G)
塔にて発生したゴブリンの魔石。
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ゴブリンの角 (塔)(G)
塔にて発生したゴブリンの角。
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と表示され、魔石4個、角8個となった。
「よーし、この調子でどんどん行くぞー!!」
美湖は、封じ札をしまうと、次の得物を探しに探索を始めた。ユーナは、肩をすくめてため息をつくと、表情を切り替え、美湖の後を追った。




