エピローグ
それから一週間、美湖はのんびり生活していた。クランに行っても、返却希望者と交渉するか、依頼を見るだけ見て帰る。たまに、アリアとランチをしたり、ユーナと出掛けたりと、まったりとしていた。
ちなみに、最初のラナン以降、女性を引き取りたいという身内は現れなかった。
そして、一週間の返却交渉期間が経過し、連れ帰った生存者、19人を引き取った。
「では、シタガイ ミコ。一応、安らぎの風には伝えてあるし、受け入れるという旨も聞いている。一応、1週間分の宿泊費は支払ってある。クランができるのはここまでだ。あとは、お前に任せることになる。申し訳ないが、頼んだぞ。」
アヤメは、クラン支部の入り口の前で美湖に告げる。
「わかりました。この1週間で、彼女たちも多少は落ち着いたようですし、ゆっくり行きますよ。」
美湖の後ろには、簡素だがしっかりとした服を着た女性たちが立っていた。その表情は、ゴブリンの巣にいたころよりは良くなっていた。
美湖は彼女たちを連れて、安らぎの風亭に向かうのだった。
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「ひゃ~、美湖さん、たくさん連れてきましたね。少し待ってください。今、お母さんを呼んできますね。」
安らぎの風亭に着くと、店番をしていたソクラが美湖に気づいて、奥のほうに母親を呼びに行った。しばらくすると、ソクラを大人にしたような感じの女性が出てきた。
「いらっしゃい。あなたがシタガイ ミコさんね。私は、この宿を経営してる、サクラというわ。アヤメ支部長から話は聞いてるわ。今回は大変だったわね。さ、部屋は準備してあるから、入って入って。」
ソクラの母親―サクラ―は、美湖とユーナ、その後ろにいる女性たちを連れて、宿の中に入っていく。
「ここが、彼女たちに生活してもらう部屋よ。ただ、5人部屋なのよね。だから、一部屋だけ4人になっちゃうけど、かまわないかしら?」
サクラに案内された部屋は、5人一部屋の大部屋だった。しかし、しっかりとベッドも5人分あり、生活する分には申し分ない部屋だった。
「はい、問題ありません。あとは、彼女たちのケアですが、僕たちも行いますが、サクラさんたちにもお願いしていいですか?こういうのは、いろんな人と触れ合うことが大事だと思うし。」
美湖はサクラに尋ねる。サクラも笑顔で、
「ええ、問題ないわ。それくらいお安い御用よ。ソクラにも言っておくわ。でも、旦那は遠慮したほうがいいわね。一応、魔物とはいえ、オスに強姦されてるんだし。」
「そうですね。自分の旦那さんをオスというのはどうかと思いますけど、その方がありがたいです。」
美湖はそう言うと、女性たちをそれぞれ部屋に入れて、今後の生活について話し始めた。といっても、まだ全員がやっと、辛うじて日常生活を送れる、という程度に回復した程度だったので、最低限だったが。
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女性たちのことをサクラに任せ、美湖はユーナを連れて、再びクランに向かっていた。何でも、アリアから話があるので、後程戻ってきてほしいと言われていたからである。
「いったい何だろうね。さっきのタイミングでは話せないことなのかな?」
「さぁ、私はわかりかねます。ただ、ランクアップと関係があると思いますが。」
ユーナと話しながら、クラン支部に着いた美湖は、カウンターにいるアリアに近づいていく。
「あ、美湖さん、ユーナさん。待ってました。では、お話をさせていただきます。」
と、アリアは前置きをして、
「美湖さん、ユーナさん。お二人は、塔に挑んでみたいとは思いませんか?」
と、大きめの声で聴いてきた。
「塔?塔って、あの神様が作ったとされてるやつですか?」
「はい、その塔です。この町ではある程度の強さがあると認められた探索者には、このラティアヌス草原にある、『ウーサーメイジョアーの塔』に入る許可を与えているんです。美湖さんとユーナさんは、先日のスタンピート壊滅の功績で、その規定をクリアしたので、どうかと思いまして。」
と、アリアは簡単に説明してくれる。美湖は、世界の狭間で聞いた情報とすり合わせて、
「そうですね。僕としても、塔に挑んでみたいですし、ユーナちゃんはどう?」
「はい、私も塔には興味があります。塔には、魔物のほかに、世界各地の特産品などもまれに産出されることもあるとか。いい経験になると思います。」
と、ユーナも賛成意見を出してくれたので、
「というわけで、アリアさん。近いうちに、そのウーサーメイジョアーの塔に挑んでみようと思います。ただ、引き取った女性たちのこともありますので、それほど頻度は多くないと思いますが。」
と、アリアに塔に挑むと伝える。
「わかりました。それに頻度に関しては問題ありませんよ。美湖さんのスキルなら、一回の挑戦で大量に素材を持ち帰ってくれそうですし。あと、お金に余裕ができたら、家を買ってみるのもいいかもしれませんね。塔に挑む探索者の方の多くは、自分の家を町に持っていますから。一種のステータスでしょうか。荷物も多くなりますし、美湖さんの場合は、大勢の方を養っていくので、いずれ必要になるかと思いますよ。」
と、アリアも了解して、ついでにこんなことをつけ足してきた。
「はは、それは追々考えます。それじゃ、今日は帰りますね。まだ、女性たちのことでしなきゃなことがあるので。」
と、アリアに言い、クラン支部を後にした。
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安らぎの風亭に帰ってきた美湖は、一部屋に女性たちを集めていた。
「集まってもらってごめんさない。これから、僕の下で生活してもらうので、ある程度のことを決めておこうと思います。」
と切り出し、
「まず、僕はあなたたちに働くことを強要したりはしません。まずは、自分の心身の回復に専念してください。この宿の人たちにも伝えてあるので、足りないものなんかは、気軽に言ってくれれば調達します。
そして、僕は探索者として活動してるので、常にこの宿にいるとは限りません。申し訳ないですが、その際は宿の肩を頼ってください。
普通に生活できるほどに回復したら、そのあとは自由にしてもらって構いません。僕と一緒に探索者になってもよし、自分で働くもよし、ほかの町に行くのもよしです。僕がそれを止めることはないですし、それまでの生活で使ったお金を返せなんて言いません。
もし、ほかの人たちにひどいことをされそうになったり、いやなことをいわれたりしたら、遠慮せずに僕に言ってください。それ相応の対応をしてきます。
何かわからないことはありますか?」
美湖が質問時間を設けると、一人手を上げる女性がいた。美湖が指名すると、女性は、
「まずは、私たちを助けてくれてありがとうございます。心からお礼申し上げます。そのうえで聞かせてください。
どうしてそこまでしてくれるのですか?今まで、魔物に襲われた、弄られた者たちにここまでしてくれる方はいませんでした。どうして、そこまで身を削ってまで、私たちを助けてくれるのですか?」
と、聞いてきた。美湖は、少し真剣な顔になって、
「それは、僕の小さい時の経験のせいです。僕は、小さいころ父親から暴力を受けてきました。今でもたまに夢に見るほどに。それから、男性を心の底から信用できなくなりました。
僕は、その時からずっと思っていました。誰かが助けてくれてたら、こんなことにはならなかったんだろうと。僕は、あなたたちに、自分を重ねているんだと思います。放っておけないんです。それだけの理由です。」
と、説明した。それを聞いていた女性は、
「わかりました。あなたもつらい過去があったのですね。話してくれてありがとうございます。あなたからもらった恩を返せるように、日々の生活を送っていきます。」
と、泣きながら返事をしてくれた。美湖も目に涙を浮かべていた。
そのあと、特に質問もなく(そもそも、いまだに心身ともに疲弊しているものが多い)、美湖の話は終わった。なんにせよ、まずは、女性たちの心身の回復が最優先となる。女性たちには、それを念押しして解散させた。
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その後、美湖とユーナは、元から借りていた部屋でのんびりとしていた。すでに夕食、風呂を済ませ、部屋着でゆったりとくつろいでいる。
「ご主人様。そろそろ寝ませんか?」
「そうだね。明日は依頼を受けようか。そろそろ動かないと、体がなまっちゃいそうだよ。」
美湖は、冗談を言いながらユーナに返し、ベッドに入り込んだ。ユーナも同じベッドに入り込み、美湖の横に寝転がる。
「なんか、ユーナちゃんとはまだ知り合って間もないのに、ずっと一緒にいた気がするよ。」
「ふふ、そうですね。でも、まだ1週間ほどなんですよね。」
二人は、ベッドの中で会話をする。
「そっか、まだそれだけなんだよね。
ねぇ、ユーナちゃん、我慢してるんじゃない?」
「?何をですか?」
美湖がいきなり聞いたことに、ユーナはすぐに答えられなかったが、
「吸血衝動。」
と、美湖が答えを言った途端に、身体を固くした。
「だって、ユーナちゃん。あのゴブリンとの戦いから全然、血とか見てないでしょ。だから、もしかして我慢させてるのかなってさ。どう?」
「...はい、実はもう、我慢の限界で。起きているうちは、何とか抑えてるんですけど...」
ユーナが声を小さくして言う。すると、美湖は自分の首筋を露出させて、
「...いいよ、ユーナちゃん。僕の血を吸って。」
と、ユーナに差し出した。
「で、ですが。ご主人様の血をいただくなど...」
ユーナは、言葉では遠慮しているが、体は美湖を欲しているようだった。
「...我慢しないで。主人は奴隷の食事の面倒を見るんでしょ?それに、ユーナちゃんなら、いいよ?」
美湖のその言葉で、ユーナの理性は崩壊し、美湖の首筋に、その鋭い犬歯を突き立てた。
「んっ!っく、あぁ...」
「じゅる、ずず、くちゃっ。」
噛みつかれた瞬間に、美湖は痛みと、少しの気持ちよさから、嬌声を上げ、ユーナの血をすする音が聞こえる。
「あ、だめ、ユーナちゃん。そこは...」
「ふふ、ご主人様。ご主人様の血液、とぉっても、おいしいです。」
しばらくの間、美湖の嬌声と、ユーナの血をすする音が部屋に響いていた。
5分ほどして、美湖の首筋に吸い付いていたユーナが、名残惜しそうに口を離した。
「はぁ、あぁ...」
美湖は、頬を上気させていて、眼はとろんとしてた。
「ふふ、ご主人様、とっても可愛いです。」
対するユーナは、妖しげに微笑み、美湖を見下ろしている。そして、美湖のすぐ隣に寝転がると、
「ご主人様、ありがとうございました。大好きです。」
と、耳元でささやいた。
「んん、僕もだよ、ユーナちゃん。」
美湖も、荒い呼吸の中、ユーナに返し、二人は抱き合いながら眠りについた。
この話で、第一章は終わります。
次からは、第二章が始まりますが、これからもよろしくお願いいたします。




