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美湖の怒り

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

 美湖は、ユーナを休ませると、ゴブリンの死体から魔石を取りだし、それぞれを封じ札に封じていく。途中かユーナも加わり、すべてのゴブリンを解体した。


「いや~、これは骨が折れるね。しばらくゴブリン討伐は遠慮したいかな。」


「そうですね。1体1体はそれほど脅威でもないのですが、束になられると厄介ですしね。後処理も面倒です。」


 美湖の言葉に、ユーナもうんざりしたような声音で返事をする。美湖は、封じ札から非常食を二つ取り出すと、一つをユーナに差し出す。


「とりあえず、少しお腹に入れとこ?これから、多分残党狩りがあるだろうし、まだ、行ってない部屋も回っておきたいしね。」


 美湖の言葉に、ユーナもうなずき、非常食を受け取り咀嚼していく。ボトルウォーターでのどを潤し、二人は、洞窟の探索を進める。ゴブリンキングが破壊した反対側の部屋には、ゴブリンたちが集めたのだろう、金銀財宝が積まれていた。


「...ねぇ、ユーナちゃん。探索者が探索中に見つけたものってどうしたらいいんだっけ?」


 その山を見て、美湖がつぶやく。


「確か、基本的には、発見者の物となりますが、任意での提出後、1週間以内に持ち主が現れない場合、物品は発見者に、金銭なら1割をクランに納め、残りは発見者の物となるはずです。ただ、任意とはいえ、提出するほうが、ランクアップの査定にプラス評価してもらえるらしいですよ。」


 と、ユーナが教えてくれたので、美湖は、封じ札に封じていくことにした。数が多いので、ゴブリンの魔石はほとんど使い切り、魔札に封じていく。ゴブリンキング以外の魔石を魔札に作り替え、何とかすべて封じ終わった。


「てか、多すぎでしょ!どれだけため込んでいたのよ、こいつら。クランもこんなに持ち込まれたら、大儲けだね。」


「そうですね、まぁ、細かい査定はクランに任せるとして、残りの部屋を確認していきましょう。」


 二人は、木を入れなおすと、残りの部屋の確認をしていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 結果から言うと、残りの部屋では何の収穫もなかった。しかし、これで、この洞窟のゴブリンスタンピートは完全に瓦解し、周囲の安全も保障されただろう。

 美湖たちは、洞窟を出てゴザの村に戻った。途中でも、魔物との遭遇もなく、美湖たちは1時間足らずで村にたどり着いた。

村に着くと、守衛がキリクを呼びにかけていった。少しすると、守衛がキリクを連れて戻ってきた。


「おお、美湖殿、ユーナ殿、戻られましたか。して、依頼の方はどうなりましたかな?」


「村長さん、そのことで少しお話がありますので、人払いをお願いできますか?」


 美湖が言うと、キリクは、前回と同じく自分の家に二人を招いた。美湖たちは椅子をすすめられ座ると、


「では、依頼の結果を報告させていただきます。

 ざっくり言うと、ゴブリンの大規模な群れが形成されていて、スタンピートが形成されていたといっても過言ではないかと思います。」


「んな!?ゴブリンのスタンピートですか!?それは、本当ですか?」


 キリクは、驚いて声を上げる。美湖は構わず話を続ける。


「本当です。そのあたりはクランに報告しますが。それで、ゴブリンの討伐数は、通常個体が250体、上位種が49体、ジェネラル、キングがそれぞれ1体です。」


「は?250?しかも上位種が約50、ジェネラルにキングですと!?しかも、今、討伐数と言われましたか?もしかして、スタンピートを壊滅させたのですか?」


 キリクが、さらに驚いている。一周回って、声を荒げることはなかったが、顔に汗がを異常なほど掻いてる。


「ええ、何ならすべての死体を提出しますが。あ、魔石はこちらの都合で回収しています。提出はしませんが問題はありませんね。」


 と、カードケースから封じ札を取り出す。


「いえ、それだけの数であれば、クランにて報告してください。この村では、それだけの死体を広げる場所もないので。それで、ほかには何かありましたか?」


「はい、ゴブリンにさらわれたであろう、女性が生きている人が20人、すでに亡くなっていた方が12人いらっしゃいました。そちらの方々もつれてきています。この村の方もいるかもしれませんが、確認されますか?」


 美湖の言葉に、キリクは苦い顔をして、


「わかりました。では、広場のほうにお願いします。」


 キリクは立ち上がると、二人を促し、村にある広場に案内した。途中で出会った村人に、広場に村人たちを集めるように伝える。3人が広場について少し待っていると、大勢の村人が集まってきた。


「みんな、こちらにおられる探索者、美湖殿とユーナ殿が、この村に迫っていたゴブリンスタンピートを壊滅させてくれた。また、ゴブリンにさらわれていた女性を解放してくれたとのことだ。この村の住人もいるかもしれないということで、今から確認を行う。女性は、開放された女性の介護を頼む。男たちは、各家から、布団やクッションなどを集めてくれ。」


 キリクの言葉で、村人たちは積極的に動き出した。美湖の周囲には、女性の村人が集まってきていた。


「では、美湖殿。よろしくお願いいたします。」


 キリクはそう言うと、自分も、布団などを取りに自分の家に戻っていった。


「では、皆さん。よろしくお願いします。」


 美湖は、集まった女性たちに確認をとってから、まず生きている人たちを一人ずつ開放していった。村人たちは、その人たちを、村人、よそ者関係なく介護していく。そして、男性たちが持ってきた布団や、クッションを使い、簡易的な寝床を作り、一人ずつ寝かせていく。


「アーリ!アーリじゃない!まさか、ゴブリンにさらわれていたなんて...」


「セイ、セイもいるわよ。サリアも、マリィ、ソリア、プシス、クリサも、みんなゴブリンに攫われていたのね。」


 ところどころで、女性たちが声を上げている。どうやら、この村の住人がいたようだ。


「これで、全員が解放できました。次に、死んでいた人たちを解放します。この場合、この村で弔われるのでしょうか?」


 女性たちの介護が終わったので、男性たちも戻ってきていたので、美湖はキリクに確認してみる。


「ええ、私たちもそうしたいのですが、もし、彼女たちの身内がほかの町や村にいる場合、引き取りたいと思うのです。どうやら、美湖殿のスキルは、時間経過しないようですな。もしよろしければ、一度クランに相談いただいたほうがいいかもしれませんな。もしかしたら、捜索願が出ているかもしれません。この村の出身の物は、私どもで弔わせていただきますが。」

 

 キリクは、心痛な面持ちをしながら言う。

「なるほど、それもそうですね。では、生きていた人たちもそのように、させていただきますね。この村の人たちはどうしましょう。」


「...大変申し上げにくいのですが、この村に置くことはできません。」


「は?」


 キリクの言葉に、美湖は数瞬思考が止まった。


「それは、どうしてですか?」


美湖は、その理由を尋ねる。するとキリクは、


「……彼女らが、ゴブリンに犯されているからです。かつて、この村で、同じようなことがあったとき、彼女らを村で介抱したことがありますが、やはり奇異な目で見てしまうにです。そして、女性の貴女方には、少々伝えにくい事件も起きました。それからは、このようなことがあったときは、町の教会に送り出しているのです。これは、村人全員で決めたことです。」


 キリクは、苦虫を噛み潰したような表情で語るが、美湖は怒りを顕にして、


「...でも、だからって、そんな扱いはあんまりじゃないですか!!大体、教会に入った人たちはどうなってるのか、知ってるんですか?」


 美湖の勢いに、キリクはたじたじになりながら、


「一部の力のあるものは、そのまま神官や巫女になると聞いております。」


「じゃあ、力のなかった人たちは?」


「......娼婦になると、...聞いております......。」


 キリクは絞り出すかのように口にしたが、その一言は美湖をキレさせるには充分だった。


 美湖の魔力が彼女から吹き出し、村とその周囲を覆い尽くし、彼女の足元から凍りつき次第に村中を氷雪で覆った。


「ご主人様!?」


 ユーナも、美湖を止めることができず、ただ声をあげることしかできなかった。


「な、何をするのですか!?」


キリクがいきなりのことに狼狽していると、


「なにをする?それはこっちのセリフだよ。あなたたちは、女性を何だと思ってるの!?魔物に襲われた被害者を、さらに男どものなぶりものにするなんて、おかしいよ!!」


 と、美湖はさらに怒気を強める。それに呼応して、周囲を覆う氷雪も広がる。


「しかも、被害にあった女性を襲う事件が起こったからって、それは完全に男が悪いじゃん!!それなのに、どうして女性が出ていかなきゃいけないのさ!!」


「それも重々承知しております。しかし、ここは開拓村。領主様より開拓を命じられ、人の住める街にしていくのが我々の使命です。そのためには、どうしても男手が必要に...」


「そんなことはどうでもいいんだよ!肝心なのは、何の罪も冒していない女性に対しての扱いの話。そんなに男手がほしいなら、いっそこの村、男だけですんだらいいんじゃない?なら、ゴブリンに攫われる人なんて出なくなるよ?」


 美湖は、声を低く、まるで底冷えするような声で言う。しかし、キリクもそこで怯まず、


「しかしながら、我々の使命は、この開拓村で人族が生活していけるようにするという、領主様から与えられた使命があります。この村で生活し、この村で子孫繁栄していけるようにする。そのためには、どうしても男女が必要なのです。」


「なら!!もっと女性を大切にしなさいよ!もういい。この女性たちは僕が連れていく。アヤメ支部長に言って、町でもしっかりした介護と、職につけるようにしてもらう。その間の食事なんかは僕が面倒みる。死んだ女性たちも、僕が責任もって弔うよ。いいよね、キリク村長?」


 美湖の言葉に、周囲の村人も黙り込む。そして、キリクが口を開く。


「わかりました。彼女たちを連れていってください。我々も、この村の在り方を見直すことにしましょう。」


 と、悔しそうな、しかしすっきりとしたような表情を浮かべていた。


 美湖は、被害にあった女性たちを再び魔札に封じる。そして、キリクから依頼完了の証書をもらい、ゴザの村を後にした。




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