結末
遅れました、申し訳ありません。
「ご主人様どうしますか?」
ユーナは、ゴブリンたちを警戒したまま、美湖に問いかける。美湖は、
「ユーナちゃんは、とりあえず、上位種を先に殲滅してくれる?その間、ジェネラルとキングは抑えるからさ。」
と、軽い感じでユーナに言うが、
「な!?馬鹿なことをいわないでください。いくらご主人様が強くとも、無謀ですよ!そんなの!到底看過できません。」
彼女は、美湖の言葉に驚き、激しく抗議した。しかし、
「大丈夫。あいつのステータスは見えてる。僕のステータスのほうが上だしね。さっきのは、いきなり衝撃を食らっちゃったから驚いたけど。でも、いくら僕でも、これだけの数を相手取るのは、結構厳しいからさ。攪乱だけでもいいから。」
美湖は、短剣二本を封じ札に封じ、代わりに海洋鉱の直剣を装備する。ゴブリンキングが派手に洞窟を破壊してくれたので、美湖が全力で直剣を振り回しても、行動に制限されることはない。
「わかりました。それでは、ジェネラル、キング以外は私が相手取ります。」
「ありがとう。じゃあ、僕がキングとジェネラルにアイスアローを打ち込むから、それを合図にお願いね。」
美湖は言いながら、10本のアイスアローを展開する。ユーナは、いつでも走り出せるように体制を整える。
「フン!ヤット相談ハ終ワリカ!ドウセ、我ラノ孕み袋ニナルノダ。ヤルダケ無駄ダトイウノニ。」
ゴブリンキングが下ひた笑みを浮かべ、あざ笑うかのように言ってくる。だが、美湖はそれに取り合うこともなく、
「ユーナちゃん、GO!」
と叫び、アイスアローをキングとジェネラルに向かって放ち、自分もキングに向かって駆け出す。ユーナは、それを合図に、後方に控える上位種たちに斬りかかる。
「「「「グギャ!」」」」
キングたちに、美湖の放ったアイスアローが命中したが、大したダメージを与えることはできなかった。しかし、彼らのヘイトはすべて美湖に向き、横をすり抜けていったユーナには目もくれなかった。
美湖は、ゴブリンキングの懐に入り込み、横腹から、肩にかけて切り上げようとしたが、
「甘イワァ!」
ゴブリンキングは、後ろに跳んで斬撃をかわす。そして、美湖に向かって衝破スキルを使用し、衝撃波で攻撃を仕掛ける。
「予備動作さえ見えていれば、そんな攻撃通らないよ!」
美湖は、ゴブリンキングが放った衝撃波の軌道を読みきり難なくかわすと、彼の後ろに控えていたゴブリンジェネラルの背後に回り込み、首筋に向かって斬撃を振り降ろす。その一撃でジェネラルの首は斬り飛び、汚臭のする血を吹き出した。
「キサマァァ!!」
その光景を見たゴブリンキングは怒り、美湖目がけて衝撃波を矢継ぎ早に打ち込んでくる。しかし美湖は、それらをすべて見切りかわして見せた。それにより、さらにキングの怒りのボルテージが上がっていく。
「もう!これだけ乱れ打ちされたら、かわすのが精いっぱいだよ。」
美湖も交わすのが精いっぱいで、攻めあぐねていた。時折、アイスアローや、アイスバレットで応戦するが、大きなダメージを与えるには至らない。
「クソッ!クソッ!ドウシテ当タランノダ!」
ゴブリンキングは、全然当たらない攻撃にいら立ちはじめ、攻めが単調になっていく。美湖は、その攻撃をかわしつつ、ゴブリンキングの懐に入り込む。
「ンナ!?チョコザイナ!」
「ふふ、ここまでくれば、遠距離攻撃できないもんね!」
美湖は、そのままの勢いで、海洋鉱の直剣を左下から右上にかけて振り抜く。その勢いを殺さず、体を回転させ、今度は左上から右下にかけて袈裟切りにする。ゴブリンキングの胴体に十字の傷ができ、血が噴き出る。
「ゴガァァ!?」
ゴブリンキングは、いきなり斬られ、発生した痛みにたじろぐ。そのすきを美湖は見逃さずに、さらに追撃を加える。
「武技『クインテットスラッシュ』!」
片手剣術スキルに内包されている武技、クインテットスラッシュを放つ。ゴブリンキングの体に、連続で5連撃を繰り出す。5撃目を放った後、五芒星の形に再び血が噴き出る。
「グゴガァァァ!」
激しい痛みに、ゴブリンキングはたたらを踏み、体勢を崩し膝をついてしまう。
「これで止め!武技『直線突き』!」
美湖は、ゴブリンキングが膝を着いたところで距離を取り、姿勢を低くし、剣を水平に構え突進する。彼女の剣はゴブリンキングの心臓部を的確に貫いた。ゴブリンキングは、断末魔の声を上げることもできずに、こと切れて倒れてしまった。
「よし、これでこっちは片付いたね。ユーナちゃんの方はどうなってるかな。」
美湖は、剣を収めると、ユーナが戦闘をしているほうに向きなおった。
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「っ、どうにも面倒ですね。」
ユーナは、ゴブリンの上位種たちを相手に少し押され気味だった。いくら、ユーナが素早く動くといっても、多数のゴブリン、それも上位種の相手は骨が折れるものだった。
ゴブリンソードマンや、ファイターがユーナに襲い掛かり、反撃をすれば、ヒーラーが回復魔法で治してしまう。ほとんどいたちごっこだったのだ。
「これでは、こちらを任せてくださったご主人様に顔向けできません。奥の手を使いましょうか。」
ユーナは、闇魔法スキルに内包されている魔法『ダークミスト』を発動した。それによりユーナの周囲が、黒い霧に覆われ、彼女の姿を隠した。ユーナは霧に紛れ、一番近くにいたゴブリンソードマンを斬り殺し、物言わぬ骸となったそれの首筋に牙を突き立てた。とたんに、赤い血が噴き出す。ユーナはそれをごくごくと飲み干していく。
「ぷはぁ。やはり、ゴブリンの血は美味しくないですね。ですが、これで吸血スキルの力が使えますね。」
首筋から口を離すと、唇をなめ、どこか恍惚としたユーナだが、とたんに体の奥底から力が沸いてくるのを感じる。
「さて、この力は制限時間がありますので、申し訳ないですが。」
ユーナは、短剣を構え、ゴブリン上位種たちに照準を合わせると、
「蹂躙させていただきます。」
と、いうか早いかゴブリンたちに突撃した。それとほぼ同時に、1体のゴブリンの首が飛ぶ。
「「「グギャ!?」」」
その光景を見た周囲にいたゴブリンは、驚きを隠せずに固まってしまった。しかし、それが彼らの最期だった。一瞬前に見た光景を、自分たちも体験することになったのだ。数瞬のうちに、20体近くいた上位種たちはすべて、首がない躯と化していた。その状態になって、ユーナの蹂躙も終わったようで、彼女も、岩壁にもたれかかっていた。
「はぁ、はぁ、やはり、この力を使うと反動がひどいですね。ですが、何とかすべて討伐できました。」
肩で息をしながらも、どこかやり切った表情のユーナに、
「ユーナちゃーん!!大丈夫!?」
ゴブリンキングとジェネラルを討伐した美湖が駆け寄ってきた。
「って、めちゃくちゃ息上がってるじゃん!何があったのさ!?」
と、ユーナの体を抱きしめながら、美湖は少し慌てたようにユーナの体を心配する。
「いえ、吸血スキルの力を使ったんです。吸血スキルは、生物の血を吸うことで、VPを蓄積するほかに、その血を消費することで、自身の身体能力を極限まで引き上げることができるのです。ただ、その力を使うと、反動でこのようになってしまいますが。」
と、吸血スキルの説明をするユーナ。それを聞いた美湖は、
「もう、そんな無茶しちゃだめだよ!でも、ユーナちゃんが無事でよかったよ。さて、これでスタンビートも瓦解するでしょ。死体だけ回収して、村に帰ろうか。」
と、立ち上がるが、
「申し訳ありません、ご主人様。まだ立てそうにないので、休ませていただけませんか?」
ユーナは、いまだ戦闘の反動から立ち直れそうにないらしく、申し訳なさそうに美湖を見上げる。美湖はそんな彼女に微笑みながら、
「もう、仕方ないな。僕が回収しておくから、ユーナちゃんは休んでて。」
と、ユーナの頭を少し撫で、死体を回収する作業に入っていった。
ユーナは、そんな主人の背中を見ながら、壁に身を預け眼を閉じるのだった。