スタンビード
美湖とユーナは、ゴブリンを探して森の中を歩いていた。先ほどの群れとの遭遇の後、5匹前後の群れと数度遭遇したが、二人はそれらを蹴散らしている。
「ほんとにゴブリンしかいないね。」
「ですね。ほかの魔物は全然見当たりません。気配も感じられません。」
周囲を警戒しているが、ゴブリン以外現れることはなかった。美湖たちが討伐したゴブリンの数は、100を超えた。
「くっそぉ、大将はどこにいるんだよ!!」
美湖は、イラつきからか、大声で吠える。
「ご主人様。こんな敵地で大声を出すなんて、敵を呼ぶだけですよ。」
ユーナにいさめられ、美湖はむくれる。しかし、ゴブリンが現れる様子はない。
「ねぇ、ユーナちゃん。そろそろ封じ札がなくなってきたから、魔石を魔札に作り替えたいんだ。少しの間、周囲の警戒を頼んでもいい?」
「わかりました、ご主人様。ですが、何が出てくるかわからないので、できるだけ早くしてくださいね。」
「ん、りょ~かい!」
美湖は、カードケースの中から、ゴブリンが封じられている封じ札を1枚取り出し、
「解放!」
その札に封じられていたゴブリンの死体をすべて解放した。そして、ユーナから海洋鉱の短剣を借りて、ゴブリンの胸を切り開いて、魔石を取り出していく。20体すべての魔石を取り出したのち、死体は再び、封じ札に封じ、血で汚れた手や短剣は、生活魔法の『ボトルウォーター』を使い洗い流した。
「んで、この取り出した魔石で、『精製』!」
魔石に対して、封札スキルを発動すると、それぞれの魔石が光だし、形を変え、やがて封じ札と同じ形に変化した。
「よし、んじゃ、どれくらいのランクの魔札なのか、『鑑定』」
美湖は、完成した魔札に鑑定スキルを発動する。
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魔札 『G』
Gランクの魔石から作られた魔札。
1枚につき、10個まで封じることができる。
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となっていた。
「Gランクか~。まぁいいや。ごめんね、ユーナちゃん。お待たせ。」
美湖は、完成した魔札をカードケースにしまい込むと、周囲を警戒してくれていたユーナに声をかける。
「いえ、得に何かが出てくる気配もありません。しかし、解体の際に、かなりの血が出ています。早く移動するか、どこかに隠れないと魔物が近寄ってくる可能性があります。」
「そだね。とにかく移動しよう。早いとこ、群れの対象を倒さないと、村や町が危ないし。」
美湖たちは再び、ゴブリンの群れを探して歩きだした。
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歩き出したのだが、
「ねぇ、ユーナちゃん。全然ゴブリン出てこなくない?」
「そうですね。もしかして、ゴブリンの群れのテリトリーから出てしまったのでしょうか?」
ゴブリンが全く出てこなくなった。まるで、先ほどまでの遭遇が嘘だったかのように。
「ですが、先ほどよりも血の匂いが強くなっているんですよね。ですので、あながち外れてはいないと思うのですが。」
ユーナは、その種族の特性上、血に対して過敏に反応できる。そして、その血の匂いが濃い方向に進んできたのだが、
「あ!ユーナちゃん。あそこに洞窟があるよ。もしかして?」
「あり得るかもしれません。近づいてみましょう。」
美湖は、遠くに洞窟があるのを発見する。木々が邪魔をしていて、はっきりとは確認できなかったが、それでも洞窟と判断できるほどに大きいそれを、二人は確認するために近づくのだった。
「どうやら、アタリのようですね。あの中から血の匂いが濃く漂ってきます。あとは、オスとメスの匂いでしょうか?サキュバスの本能が反応してます。」
「ってことは、苗床も作られてるんだね。よし、ユーナちゃん、あの洞窟の中、ゴブリンでも、そうじゃなくても殲滅するよ。」
ユーナの言葉に、美湖のスイッチが入ったのか、何段か低くなった声でユーナに言うと、空の封じ札を出し、海洋鉱の直剣を封じ、別の札から、海洋鉱の短剣と、ファングククリを取り出した。
「ユーナちゃん、洞窟だと、直剣だと長すぎて危ないから、悪いけどこの二本借りるね。」
「気にしないでください。もともと、ご主人様が買われたものです。それよりも、生活魔法の中に、照明魔法『ルーメン』があると思います。そちらを使用すると、術者の頭上50cmのところに光源が作れます。それを使用して、明かりを確保していただけませんか?」
「OKOK。んじゃ、突撃しますか!!」
美湖とユーナは、自分の得物を手に取ると、洞窟に入っていった。
洞窟の中には、所々に松明が掲げられており、ある程度の明るさが保たれていた。
「ご主人様、血の臭いが濃くなっております。」
「うん、僕でも分かるくらいの臭いになったよ。」
二人は、顔をしかめながら進んでいく。ユーナの先導の下、血の匂いよりも、性的なにおいのするほうにまず向かった。分かれ道を、ユーナの先導の元進んでいくと、少し広めの部屋に出た。その中の様子を見た美湖とユーナは、
「「おえぇぇぇぇぇぇぇぇ...」」
盛大に吐いた。
部屋の中では、30人くらいの女性が所狭しと吊るされ、転がされ、ゴブリンに嬲られていたのだ。その光景は、思春期真っ盛りの少女たちには、刺激が強すぎたようだ。しかし、幸い、ゴブリンたちが美湖たちに気づいた様子はなかった。目の前のメスに集中してしまっているようだった。
「はぁ、はぁ。ユーナちゃん、大丈夫?」
「ええ、何とか落ち着きました。ご主人様。」
二人は息を整え、得物を握りなおす。
「じゃ、行くよ。」
美湖の言葉に、ユーナはうなずきで返す。そして、二人はその小部屋に突撃していった。
まず美湖が、一番近くにいたゴブリンの首を海洋鉱の短剣で刎ねる。その横にいたゴブリンをユーナが魔鉄の短剣で首を刎ねる。そこで、周囲のゴブリンが美湖たちに気づいて慌て始める。真っ最中だったので、ろくに動けず、パニックになっている。
「ユーナちゃんは、女性たちをできるだけ避難させて!ゴブリンは僕が魔法で牽制するから。」
と、ユーナに指示を飛ばしながら、氷魔法の『アイスランス』を自分の周囲に10本ほど展開する。そして、それぞれを、ゴブリンの頭部にきれいにヘッドショットをかましていく。そして、ゴブリンの拘束から離れた女性たちを、ユーナが美湖の後方に避難させていく。
「ご主人様、全員を避難させました。私も戦闘に加わります。」
「OK!んじゃ、殲滅と行きますか!!」
そこからは、戦闘ではなく、一方的な蹂躙だった。ゴブリンたちが動き出す前に、美湖が出ばなをくじくように斬撃を加え、ユーナが、それぞれの首を確実に落としていく。10体ほど討伐したところで、小部屋にいたゴブリンはすべて倒した。
「よし、ユーナちゃん、ゴブリンの魔石を取り出しておいてくれる?僕は、女性たちの介抱をするから。」
「わかりました、ご主人様。」
美湖に指示され、ユーナはゴブリンの魔石の回収に動き出す。美湖は、まず氷魔法の『アイスウォール』で小部屋の入り口をふさぎ、封じ札から、きれいな布を取り出し、生活魔法の『ボトルウォーター』で水を生み出し、女性たちの汚れを落としていく。
「ご主審様。魔石の回収、終わりました。」
「うん、ありがとう。んじゃ、この女の人たちの体をふくの手伝って。」
美湖は、ユーナにも布を渡し、女性たちの体を綺麗にしていった。
全員の体をふき終わるころには、何人かが意識を取り戻していた。
「うう、ん、いや、いやぁ...」
意識を取り戻しても、まだゴブリンに襲われていると思っているらしく、眼の焦点もあっていない。美湖は、一人ずつ抱きしめ、
「大丈夫、大丈夫だから、怖い夢は終わったよ。」
と、落ち着かせていく。ユーナも見習い、一人ずつ、丁寧に落ち着かせていった。そして、全員が落ち着き、眠ったところで、
「ユーナちゃん、魔石かして。」
ユーナから魔石を受け取り、新たな魔札を作成する。Gランクの魔札34枚が作成された。
「まずは、生きている人たちを札に封印。」
すると、女性たちがそれぞれ魔札に封じられる。生きていたのは20人だったらしく、20枚の札にはそれぞれ女性の名前が浮かび上がった。
「つぎに、死んでた人を封印。」
残りの、美湖が体をふいていた時にはすでに息がなかった女性たち、12人を魔札2枚に封じる。そのあと、ゴブリンの死体も魔札に封じて、美湖は小部屋の入り口にかけてあった『アイスウォール』を解除した。
「許せない...絶対に許さない...!」
美湖は、静かに、だが、近くにいたユーナを怯ませるほどの怒気を体から噴き出させた。
「ユーナちゃん、絶対にこのスタンビート、壊滅させるよ。」
美湖の言葉に、ユーナはただうなずくことしかできなかった。