武器一新
遅くなり、申し訳ありません。
「ふわぁぁ。」
窓から差し込む朝日に照らされ、美湖は目覚めた。
「ん?」
いつもとは違う感触が右側から与えられそちらを見ると、静かに寝息を立てて、ユーナが眠っていた。
「ふふ、可愛いなぁ。」
美湖は、ユーナの寝顔を眺めていた。ふと、悪戯心が沸き上がり、彼女の頬を人差し指でつつく。すると、ユーナは少し眉をひそめ、そのあとうっすらと目を開けた。
「ふぁぁ。んん。」
しかし、まだ寝ぼけているのか、目の焦点が合っていないようだった。
「おはよう、ユーナちゃん。」
美湖が声をかけると、ユーナは美湖の顔を見つめ、次第に脳が覚醒してきたのか、顔を赤くして、
「お、おはようございます。ご主人様。申し訳ございません。奴隷の私が、ご主人様より遅く起きるなど...」
そう言って、ユーナはベッドから飛び降り平伏してしまう。そんな彼女の様子を、美湖は呆れながら、
「もう、そういうの話って昨日言ったじゃん。ほら、立って。これに着替えて。ご飯食べて、買い物に行くよ。」
と、ユーナに、世界の狭間でもらった服を一着渡す。そして自分も着替えて、防具を装備していく。美湖に倣い、ユーナも服を着替えていく。
「後、武器屋で武器を買うまで、これを装備しておいて。僕が守るけど、一応護身用にね。」
と、ブロンズダガーを封じ札から取り出し、ユーナに装備させる。
「ありがとうございます、ご主人様。しかし、今、その札からダガーが出てきたように見えましたが...」
「あ、行ってなかったね。僕のスキルの一つだよ。一枚の札に付き、一種類、既定の数を封じておくことができるんだ。もちろん、任意に取り出しも可能だよ。」
美湖はそう言うと、銀貨を封じてある札から、銀貨を出し入れして見せた。
「...す、すごい能力ですね。これなら、冒険の際も、手軽に行動できますね。」
「そういうこと。さ、ご飯食べに行こ。」
美湖は、札をカードケースに戻すと、ユーナの手を引いて食堂に向かった。
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「えーと、どうしました?二人とも?」
30分後、困惑するソクラの前には、苦しそうな表情をする美湖とユーナがいた。
「そ、ソクラちゃん、一つ提案なんだけど、食堂の食事、改善できないかな。」
苦しそうな顔のまま、美湖は声を絞り出す。
「え、ご飯、おいしくなかったですか?」
美湖の言葉に、しゅんとしてしまうソクラ。しかし、美湖は首を振り、
「いえ、ご飯は、すごくおいしいです。ですが、朝も夜と同じメニューだと重たすぎるんです。もっと、軽い食事を準備すると、お客さんの受けもよくなると思いますよ。」
美湖がそういうと、ソクラはぱぁっと笑顔になり、
「な、なるほど。確かに、うちのメニューは、冒険終わりの探索者や、護衛上がりの騎士様目当てですからね。わかりました。お父さんに伝えておきます。」
その言葉に、二人は苦しいながらも笑顔を浮かべ、町に繰り出していった。
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「さて、腹ごなしの散歩も済ませたし、気を取り直して、ユーナちゃんの装備を買いに行くぞ――!」
おなかの調子も戻った美湖が、歩きながら大声を上げる。
「ご、ご主人様。大通りでのそのような大声は、周囲の迷惑ですよ。」
「はーい、ま、行こうよ。」
そう言い、ユーナの手を引いてまずは武器屋に向かった。
美湖たちが向かった武器屋は、ラティアの町の西側、安らぎの風亭から約10分の距離にあった。二人は武器屋のドアを開ける。
「いらっしゃい、おや、見ない顔だねぇ。」
中から声をかけてきたのは、ずんぐりむっくりした男性だった。
「どうも~。この子の武器を買いに来たんですけど、いいのありますかね~。」
「はっ、だれに物を言ってるんだ?俺はドワーフ族の鍛冶師だぜ。そこいらの鍛冶師よりいいもんはつくれらぁ。」
男性は、自分の胸をたたいて、カウンターの奥から出てきた。
「俺は、ドワーフ族のドラング。で、武器を買うのはどっちなんだ?」
ドワーフの男性―ドラング―は、美湖たち二人を見ていぶかしげな声色で問うてくる。
「そうだね。二人とも買おうかな。僕は美湖。この子はユーナちゃんだよ。僕の得物は片手剣かな。ユーナちゃんは双剣かな。」
「なるほどな。見たとこ、嬢ちゃんはこれくらいの剣がいいと思うぜ。そっちの亜人種の嬢ちゃんは、これとこれかねぇ。」
ドラングは、店の奥から3振りの剣を持ってきた。それをカウンターの上に並べる。一本は、美湖の使う片手剣、二本は短剣だった。ドラングは、そのうちの一本を持つ。深い青色をした片手剣を、美湖に差し出しながら、
「ほらよ。この片手剣は、『海洋鉱の直剣』だ。海洋鉱と呼ばれる、水属性の魔力を秘めた鉱石を使って作ってある。魔力を流すことで、刀身に水を纏い、魔力量に応じて刀身を伸ばしたり、水の刃を飛ばしたりと、なかなかの応用ができる。また、水を纏うことで、剣自体へのダメージを抑えることもできる。」
「おお、すごい剣ですね!」
美湖は、鑑定スキルで、詳細を確認する。
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海洋鉱の直剣
海洋鉱を加工して作られた片手剣。水属性の魔力を秘めている。
剣に魔力を蓄積しておくことで、水を刀身にまとうことができる。
AT +50
水属性威力 +30
保存MP 0/150
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「ほんとにすごいですね。この保存MPって、満タンにしたらどうなるんですか?」
「お、あんた、鑑定スキル持ちかい。そうだな。その剣の魔力の保存の度合いは、刀身の色で大体わかる。本来、海洋鉱ってのは海のように、深い青色なんだが、保存されている魔力が多いと、限りなく色が薄くなり、満タンだと水のようになるんだ。」
ドラングの説明を聞いて、美湖は、剣に魔力を流し込んでみる。すると、剣の色が濃い青色から水色に変化していき、徐々に透明になっていく。
「こいつは驚いた。嬢ちゃん、すんごい魔力値だな。この剣はMPを魔力に変換すのにロスが大きいんだ。だから、満タンにする前に所有者のMPが尽きるんだが。」
ドラングの話を聞いている間に、剣は完全に透明になってしまった。
「うわぁ!すごく綺麗ですね、ご主人様。」
「うん、僕も驚いてるよ。えっと、ステータス!」
美湖は、自分のステータスを表示して、MPの残量を確認した。数値の上では、約300の数値が減っており、約2/3が減ったことになる。
「おお、結構減ったね。ていうか、蓄積できる魔力とほぼ同じ量をロスするのか。これは、もったいないなぁ」
と、海洋鉱の直剣を見つめながら、美湖は不満げにつぶやいた。しかし、その場にいたほかの二人は、別のことで驚いていた。
「じょ、嬢ちゃん、何だその板は?急に現れたが?」
「え、これはステータスですよ。あれ、みんな出せますよね?」
「ご主人様...人のステータスは、鑑定スキル化、特定の道具を用いなければ見ることはできません。ご主人様のそれは、他人のも見れるのですか?」
「え、そうなんだ。ううん、これは自分のしか見れないよ。そっか、そうなんだ。わかった。今後は気を付けるね。」
美湖はステータスを閉じると、剣を鞘に納める。
「おお、なんだか、すんごいもんを見せてもらった気分だぜ。さて、次はそっちの嬢ちゃんの武器だな。この辺りのなんかがいいと思うが。」
次にドラングが持ち出したのは、ユーナ用の武器だった。彼が持ってきたのは、5振りの剣だった。
「さて、好きなのを選んでくれ。」
カウンターの上に並べられた5振りの短剣。ユーナはそれらを手に取り、感触を確かめている。その間から、美湖は鑑定スキルで、短剣の詳細を確かめていく。
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赤銅の短剣
火属性を含む銅で作られた短剣。魔力を流すことで刀身に火を纏うことが出来る。
AT +20
火属性威力 +25
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海洋鉱の短剣
海洋鉱で作られた短剣。水属性の魔力を秘めている。
魔力を蓄積しておくことで、刀身に水を纏うことができる。
AT +25
水属性威力 +20
保存MP 0/70
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魔鉄の短剣
鉄に魔石を混ぜて作られた短剣。通常の鉄よりも固く、軽い性質を持つ。
鍔の部分に空いた穴に、属性魔石をはめ込むことで、その属性を得る。
AT +30
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ファングククリ
ウルフ種の牙の部分を、歯ぐきから加工した短剣。
多数の牙で、切り裂くように攻撃する。
AT +40
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妖精の短剣
フェアリーモスの鱗粉を鉄に混ぜて作られた短剣。
この剣に魔力を流し媒介にすることで、回復魔法『ヒール』を使用できる。
AT +10
回復魔法『ヒール』
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(おお、なかなかすごい剣が揃ってるな。特に最後、回復魔法使えるとか、すごすぎじゃない?)
美湖は、鑑定の結果に驚いているが、ユーナは真剣に選んでいる。
「ねぇ、ユーナちゃん。この際、全部買うっていうのはどうかな?」
「え!?そんな、武器をいただけるというだけでもありがたいのに、これを全部ですか?」
「おいおい、嬢ちゃん。冗談はやめてくれよ?ここにある剣、あんたの分も合わせて金貨8枚はくだらないぜ?」
ユーナとドラングが、美湖の言葉に驚きの声を上げる。しかし、美湖はどこ吹く風で、
「お金なら問題ないよ。昨日の稼ぎと、もともとの持ち合わせもあるし。僕のスキルがあれば、数日あれば元は取れるしね。」
と、言い放つものなので、二人は呆れてしまった。
「ふふふ、ハッハハハハ!おい、ユーナといったか、嬢ちゃん。こんなご主人様はそうはいないぜ。あんた、美湖って言ったな。あんたの男気に惚れたぜ。全部で金が5枚でいい。どうだ?」
ドラングは、あきれた後大笑いし、美湖に値下げを提案。
「男気ってのは気に入らないけど、僕女だし。でも、値下げしてくれるのはうれしいです。では、その値段でよろしくお願いします。」
「え、ちょ、ご主人様!?」
ユーナが、二人の流れについていけず、おろおろとしているうちに、美湖とドラングの取引が終わり、美湖は封じ札から金貨を5枚取り出すとドラングに渡す。
「ほう、珍しいスキルだな。確かに、そのスキルがあれば数日あれば稼げるわな。また来てくれることを祈ってるぜ。」
金貨を受け取りながら、ドラングは気のよさそうな笑顔を見せる。
「ええ、僕もこの店が気に入りました。また、用があれば来ますよ、ドラングさん。」
と、美湖は、購入した6振りの剣をそれぞれ封じ札に封じると、いまだおろおろしているユーナを連れて、店を出るのだった。