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銀髪の吸血鬼

 美湖は、カルアに連れられてやってきた奴隷の少女を見て呼吸が止まったかのように思った。その少女の見た目が、人間の使う言葉で称賛しても、蔑称を並べているようなくらい、美しかったからだ。

 肩にかかるくらいの、きらめく銀髪、深紅に輝く瞳、整った目鼻立ち、150cm位の小柄な体躯に対して、たわわに実った双丘、キュっと締まった腰、スラッとした脚。そして何より、美湖が見ていたのは、彼女の肩甲骨辺りから生えた一対の蝙蝠の様な羽と、尾てい骨から延びるしっぽだった。そして、彼女の首には、金属でできた首輪が付けられている。


「彼女は『ユーナ』という名前です。彼女は吸血鬼―ダンピール―とサキュバスのハーフです。奴隷の種類は犯罪奴隷で、すでに二回の罪を犯しております。代金は金貨1枚。戦闘もできますし、知識も並ほどはございます。」


 カルアは、連れてきた奴隷―ユーナ―の紹介をする。


「彼女が奴隷になった理由は?」


「はい、最初は村の口減らしのための借金奴隷でした。しかし、とある方に買われてから、その主人を殺したのです。」


「主人を殺した?どうやってですか?奴隷は主人には絶対服従となるはずでは?」


 カルアの言葉に、美湖は違和感を感じた。そして、カルアの後ろに控えているユーナの表情が一層暗くなった。


「ええ、本来であれば、奴隷が主人を害することはできません。しかし、彼女はサキュバスとしての固有スキル『吸精』を持っています。吸精スキルは、性行為を行った相手の精力を奪い、自らの力に変換するスキルで、サキュバス、インキュバスと呼ばれる魔族のみが持つ固有スキルなのです。また、吸精スキルが発動すると、相手に多大な快楽を与えてしまうため、彼女を買った方は、勢力が尽きるまで行為を続けたようですね。」


 カルアの言葉を聞いて、美湖は憤った。体中から魔力が噴き出して、カルアとユーナを怯えさせるほどに。


「お、お客様、落ち着いてください!」


 カルアの言葉に、美湖は正気に戻るが、怒りは消えていなかった。


「そんなの、この子が悪いところないじゃないですか!男が勝手に自分の快楽求めただけでしょ!?なのに、なんでこの子が犯罪者にならなきゃいけないのよぉ!!」


 美湖は、カルアに向かって怒鳴りつけるが、後半は泣いていた。両方の瞳に大粒の涙を浮かべ、まるで自分のことのように泣き崩れた。それを見たカルアは、美湖が泣き止むまで黙って見守っていた。


「すみません、少し我を忘れていました。」


 しばらくしてから、両目を腫らせて、美湖は落ち着きを取り戻した。


「いえいえ、むしろ良いものを見れました。どうやら、私の妹は、人を見る目があるようだ。」


 カルアは、どこか嬉しそうに話し始めた。


「私は、奴隷商人という職に就いていながら、クランと提携しています。闇市で奴隷を売りさばけば、今の数百倍の金を稼ぐこともできたでしょう。しかし、私はできなかった。私の店にいる奴隷たちの死んだような眼を見ていて、私は考えを変えました。もしかしたら、私や妹も、こういう道をたどっていたかもしれない。なら、私の手の届く範囲だけでも、この店に売られてきたものたちの目を、生き返らせてあげたいと。ほんとに、バカな話です。そんな話を聞いた妹が、クラン支部長に掛け合ってくれて、今の立場を得ています。美湖さん、私はあなたなら、このユーナを幸せにしてくれると信じています。どうか、よろしくお願いいたします。」


 そう言って深々と頭を下げるカルア。


「はい、わかりました。でも、僕は彼女の意思を尊重したいです。もし彼女が、僕に買われたくないなら、僕は買いません。」


 そう言って、美湖とカルアはユーナに向き直る。


「では、ユーナ。あなたの発言を許可します。どうぞ、自分はどうしたいかを話してください。」


 カルアの言葉に、ユーナは初めて口を開いた。


「私は、この人の奴隷になりたいです。何も知らない、初対面の私のためにあれだけ泣いてくださったこの方の力になりたいです。ご主人様、どうかよろしくお願いいたします。どうかわたしをおそばにおいてください。」


 そう言って、ユーナは深く頭を下げる。


「わかりました。カルアさん、僕は彼女を買います。金貨1枚でしたね。代金です。」


 美湖は、封じ札から金貨を取り出し、カルアに差し出す。カルアはそれを受け取り、


「ありがとうございます。では、譲渡の儀式を行います。美湖さん、ユーナと手をつないでください。」


 美湖は言われたとおりに、ユーナの手を取る。ユーナは頬を少し赤くしながら手を握り返してきた。


(うわ、この子の手、柔らかっ!気持ちいい。)


 美湖がユーナの手の感触に驚いている間に、カルアが二人の足元に魔方陣を生み出していた。


「では、これより譲渡の儀式を行います。『我と契約を結びし者よ。これより彼の者の力とならんことを。』」


 カルアが呪文を唱える。すると、魔法陣が輝きだし、それに呼応するかのように、ユーナの首にはまっている首輪が光出した。その光はすぐに消えて、しかし、ユーナの首輪が鉄色から、きれいな赤色になっていた。


「はい、これで儀式は終了です。しかし、首輪の色をも変えてしまうとは、素晴らしいほどの忠誠心ですね。」


「ん?どういうことですか?」


 いまいち意味が分かっていない美湖に、カルアが説明する。


「奴隷には必ず『隷属の首輪』が付けられますが、子の首輪は、主人に対して、奴隷が高い忠誠心を持つと、その忠誠心に対して色が変わるんです。赤色は、さらなる忠義を示すというある意味、当たり前のことではありますが、初対面でそこまで思わせるというのは、あなたの人徳のなせるものなのかもしれませんね。」


 カルアはそう言うと、これで交渉は終わりという風に立ち上がった。


「さて、今回はいい取引をさせてもらえました。今後とも、よろしくお願いいたしますよ、美湖さん。」


「こちらこそ、よろしくお願いします、カルアさん。」


 美湖も立ち上がると、カルアと固く握手をし、奴隷商『スレイブ』を後にした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さて、もう夜も遅いし、宿に帰ろうか。」


「わかりました、ご主人様。」


 美湖は、ユーナの手を引いて、安らぎの風に帰ってきた。受付カウンターにはソクラがいて、美湖に気が付くと、


「あ、お帰りなさい、美湖さん。あれ、そちらの方は?」


 と、笑顔で迎えてくれた。


「ただいま~、ソクラちゃん。この子はユーナちゃんって言って、今日、僕が奴隷商で狩ってきた奴隷だよ。仲良くしてあげてね。この子も今日から止まるけど、代金はどうしたらいいかな。」


「どうも、ユーナです。」


 美湖がユーナを紹介し、ユーナも挨拶をする。


「わかりました。ユーナさんですね。代金は大丈夫ですよ。奴隷は主人の物という形になりますので。でも、ベッドが一つしかないので、寝るのが狭いかと思うのですが。」


 ソクラが簡単に説明してくれた後、部屋の移動を提案してくる。


「ん~、大丈夫だよ。今の部屋でいいよ。」


「わかりました。では、もしお風呂に入るなら、また声をかけてくださいね。」


 ソクラに軽く会釈をすると、美湖はユーナを連れて部屋に向かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さて、ここがしばらく僕たちの生活する部屋だよ。ベッドは一つしかないけど、僕もユーナちゃんもそんなに体大きくないし、大丈夫でしょ。」


 美湖は部屋に入ると、装備を外して、ベッドに腰かける。しかし、ユーナが立ったままなのに疑問を抱き、


「ん?ユーナちゃん、どうして立ったままなの?」


 と尋ねると、


「はっ、失礼いたしました。」


 と、その場に跪いた。


「ちょっ、何してるのさ!?こっちおいでよ。」


 美湖は慌ててユーナを立たせると、ベッドに座らせた。


「ご、ご主人様!?だめです、奴隷である私など、床に...」

 

 ユーナは、美湖の行動に驚いているようだが、美湖はそんな彼女を抱きしめ、


「大丈夫。君は確かに僕の奴隷だけれど、僕は君を奴隷としては扱わない。冒険のパートナーとして扱うんだ。だから、もっと気を抜いて、奴隷になる前の君のように行動してほしい。」


 美湖は、やさしく諭すようにユーナを抱きしめ続けた。その温かい感触に、ユーナは次第に落ち着いていき、


「申し訳ありませんでした、ご主人様。もう大丈夫です。」


 そう言って、美湖の抱擁を解く。美湖も微笑みながら、


「さ、ご飯食べに行こうか。」


 そう言って、彼女の手を取って部屋を出た。




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