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クラン支部長と依頼報酬

アリアに案内されて、美湖は探索者クラン支部長の部屋まで来ていた。


「さて、ご足労すまないな、新入り探索者。私はこのラティアクラン支部、探索者部門を預かる支部長、アヤメ・リンドリアだ。さて、さっきの一件だが、まずはデールに関しては、すまなかったと素直に詫びよう。奴の素行の悪さはたびたび問題視されていたのだが、あれでも腕の立つ探索者だったのでな。と、言い訳にしかならんがな。」


 そう言って、アヤメは美湖に向かって頭を下げる。そして、


「次に、お前に関してだが、まずは自己紹介をしてもらおうか。」


「はい、僕は従 美湖です。昨日探索者になったばかりですね。特技は剣術です。」


 美湖はアヤメに自己紹介をした。


「うむ、アリアからの報告では、何やら珍しいスキル持ちだと聞いたが、まぁいい。では、美湖。お前には厳重注意という名目でだが、一応警告しておく。クラン規則にはないが、クラン支部内での、というよりはこの町の中で武器を抜くのは基本的にご法度だ。もちろん、正当防衛による護身目的であれば別だがな。魔法やスキルの発動もそうだ。今回は確かに、正当防衛にあたるが、過剰防衛だった。そのあたりを気を付けることだ。場合によっては犯罪奴隷として処理しなければならなくなる。」


 アヤメの言葉を聞いて、美湖はごくりと喉を鳴らす。自分が奴隷として男に変われたことを想像したからだった。


「...すみませんでした。以後気を付けます。」


 美湖は、申し訳なさそうに頭を下げる。アヤメも、それ以上言及することはしなかった。


「さて、堅苦しい話はここまでだ。ここからはお前の話だ。美湖よ。お前のスキルはアリアから聞いたが、とんでもなく便利なスキルだ。それゆえに、そのスキルの存在を知られたら、お前を欲しがるものは山ほどいるだろう。それこそ、権力や金の力で、お前をからめとろうとするかもしれない。」


 アヤメは、腕を組んで美湖に話す。アリアも横でうなずいている。


「だから、それらに対抗できるような力をつけろ。」


「力をつけろと言われても、どうしたらいいんですか?」


「なに、探索者としての力をつければいい。高ランクになれば、それだけ個人戦力があるというものだし、そのころには、人脈もできるだろう。そうなれば、おいそれと手を出すものは少なくなるはずだ。まずは、探索者としての地力をつけることから始めたらどうだ。」


「後は、美湖さん案外常識ないですから、奴隷を買うのもいいかもしれませんね。」


「奴隷?奴隷を買うんですか?」


 アリアの言葉に、美湖は反応する。


「ええ、奴隷であれば、持ち主である主人には絶対服従ですし、それなりに常識も持っています。また、戦闘用の奴隷であれば、美湖さんの探索の手助けになるでしょう。って、美湖さん?顔が怖いですよ?」」


 アリアが、奴隷について簡単に説明するが、美湖の表情は険しかった。それを見たアヤメは微笑みを浮かべて、


「フ、お前さんは、なかなかに優しい心根の持ち主のようだな。アリアが、専属になるというのもうなずけるものだ。」


 と、美湖を一言誉めてから、


「確かに、奴隷はその主人によって扱いが変わるし、周囲の反応も様々。また、奴隷にも種類があり、それによっては待遇がひどい場合もある。こればかりは、奴隷商人から直接聞いたほうがいいだろうな。さて、ある程度話も済んだし、アリアよ。今回の美湖の依頼、および納品された品の査定は済んでるんだろう。ここで報告だけでもしていけ。」


 アヤメは、いまだ表情の険しい美湖に、この話は終わりというように話を切り、アリアに次の話題を促す。


「そうですね。では、報告させていただきます。

 まず依頼ですが、

 ゴブリン討伐は、20体討伐されているので、一体につき500ルクス、10000ルクスですね。

 ライフミント採取は、20本と、20株納品されたので、1本20ルクス、1株50ルクスで、1400ルクスです。

 フレンジカウの肉採取では、フレンジカウを20頭納品されたので、一頭につき1000ルクス、20000ルクスです。

 魔石採取については、今日は納品がありませんでしたが、ゴブリン討伐の20体と、フレンジカウ20頭コケが20羽、スライムが20体で、それぞれHランクの魔石を持っていたので、一つ20ルクスで、1600ルクスとなりますね。

 さらに、納品として、天然水100ℓ、ポイズミール20本、フレンジカウの骨20個、マナミント20本、錆びた短剣20振りの納品がありました。次に、素材についての報酬です。

 天然水が、樽一杯で50ルクス、三杯と少しなので、4杯分120ルクス。

 ポイズミールが、1本50ルクスで、1000ルクス。

 フレンジカウの骨が、1個30ルクスで、600ルクス。

 マナミントが、1本100ルクスで、2000ルクス。

 錆びた短剣が、1振り200ルクスで、4000ルクス。

 コケの死体が、1羽250ルクスで、5000ルクス。

 スライムは、魔石にしか価値がないので、報酬は出ません。

 依頼と納品の合計金額が、45720ルクスとなります。」


「っ、ちょっと待て、なんだそのふざけた納品数は!!?」


 アリアの報告を聞いて、驚いたのはやはりアヤメだった。


「と、言われましても。美湖さんのスキルを使えばこれくらいのことは容易でしょうし。」


 アリアの落ち着いた言葉を聞いて、アヤメもいくらか落ち着いたようだった。


「...なるほどな。ちなみに美湖よ。お前のスキルに必要な札だったか?あれ、何枚あるんだ?」


「えっと、100個入る金の封じ札が5枚、50個入る銀の封じ札が10枚、20個入る銅の封じ札が20枚ですね。」


 美湖の答えを聞いて、アヤメは乾いた笑みを浮かべる。


「ちなみに、それはふやせるのか?」 


「はい、できますよ。金鉱石、銀鉱石、銅鉱石、魔石を用いて封じ札は作成可能です。金、銀、銅鉱石では、それぞれの封じ札が、魔石は、ランクに応じて個数が変わります。」


「そうか。わかった。これは、解体室の人員を強化しておいたほうがいいな。また、商人クラン、生産者クランと相談をして、素材の消費を高めることも出来るだろう。まったく、よけいな仕事を増やしてくれたわ。アリア、カウンターに戻って報酬を渡してやれ。私はさっそく支部長たちと会議を行う。」


 そう言うと、アヤメは支部長室を出ていった。


「では、美湖さん。一回のカウンターに戻りましょう。そこで報酬をお渡しします。」


 アリアは、美湖を連れて支部長室を後にした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「では、こちらが報酬金です。」


アリアが、トレイに報酬を載せて差し出してくる。金貨4枚、銀貨5枚、銅貨7枚、鉄貨2枚、美湖はそれを確認するとそれぞれ封じ札に封じていく。


「さて、今日受けた依頼は全て完遂されたので、また、新しく受けてくださいね。あと、食料系の素材は、宿屋に持って行くと調理してくれる場合があるので、次は取っておくのもよいですよ。あとは、奴隷の購入をされるなら、この建物の裏にある奴隷商『スレイブ』がおすすめですね。クランと提携してるので、犯罪奴隷でもない限り扱いは悪くないので。」


アリアの説明を聞いてから美湖は、クラン支部を後にした。すでに日は暮れて夜になっていた。


「っ、もう。あんな言い方されたら気になっちゃうじゃん。」


美湖は、クラン支部の裏手に回り、奴隷商『スレイブ』に向かう。夜でも件の店は営業しているようで、屈強そうな男二人が門番にたっており、店内も明るかった。


「すみません、奴隷購入の話をしに来たのですが。」


美湖は、門番に話しかける。


「紹介状はありますか?もしくはクラン証をお見せください。」


 門番に言われる通り、美湖は自分のクラン証を見せる。門番はクラン証を確認すると、美湖を店内に案内した。

 店内は、広い応接間があり、大きなテーブルと、体面に座るように配置された一対のソファーが置いてある。


「しばしこちらでお待ちください。オーナーを読んでまいります。」


 門番は、美湖にソファーに座るように促し、この店の支配人―オーナー―を呼びに行く。少しすると、燕尾服のような服を着ている、20代前半くらいの男がやってきた。


「どうもお待たせしました。私がこの奴隷商「スレイブ」のオーナーの、カルア・スカーレットと申します。」


「どうも、従 美湖です。」


 カルアと名乗る男は、美湖の名前を聞くと、


「おお、あなたが、私の妹の専属探索者の方ですね。お話は聞いております。」


「妹?」


「おっと、私の妹は、クラン支部にて受付をしております、アリア・スカーレットと申します。何やら、面白い新人を見つけたとかで、昨日の夕餉はずっとあなたの話で盛り上がっておりました。」


 自分の知らないところで、自分の話をされていたと知った美湖は少し頬を赤める。


「さて、ではそろそろ、こちらに来ていただいた目的を聞かせていただきましょう。」

 

 カルアが、本題を切り出す。美湖も顔を引き締め、


「はい、僕はあなたの妹さんに、奴隷を買うのはどうかと勧められました。しかし、私のいた古郷では、奴隷刃物として扱われており、それはもうひどい待遇の物でした。なので、結構忌避感があるのですが、こちらの扱いはどうなのかと、聞きたかったのと、お金はどれくらいかかるのかというのを聞きに来ました。」


 と、来店した目的を述べると、


「なるほど、なるほど。では一つ目の質問に応えましょう。この辺りでも、そのような扱いはされることはあります。しかし、基本的に奴隷とは、その目的のために購入し、ある程度の衣食住を維持することを、主人に義務として課しております。なので、あなたの言われるような扱いはほとんどありません。

 しかし、もちろん例外もあります。まずは、犯罪奴隷という部類です。この部類の者たちは、犯罪を犯して奴隷に落とされた者たちです。したがって、奴隷身分は彼らにとっては罪に対する罰となります。当然、そこには最低限の食事のみが主人に課せられております。それ以外は、基本的に面倒を見なくてよいのです。罰としてなので、開放されるまでの期間はあります。奴隷として、奴隷商から売られてから、法によって決められた時間、働けば釈放されることになります。しかし、犯罪奴隷として2回奴隷落ちしたものが、3回目に犯罪奴隷に落ちるときは、どんな犯罪でも関係なく、死刑となります。」


 カルアはそこで話を切り、ひと呼吸入れる。


「あの、犯罪奴隷に何回なったかっていうのは、わかるものなんですか?」


 美湖は、カルアに質問する。


「ええ、奴隷になったものには、隷属魔術という、奴隷にするための魔法契約がかけられます。この時に、魔法陣にそれらの情報が組み込まれ、その者の体に魔術刻印が浮かび上がります。それを持って、識別しております。

 さて、もう一つの例外が、非合法奴隷です。基本、奴隷というのは各国や、各クランが奴隷商と提携して扱っておりますが、どんな業界にも闇というのがりまして、そこらの村や、集落などで暮らしているものを、人さらいがとらえ、闇市で販売するのです。見た目は、正規の奴隷と変わりませんからほとんどわかりませんし、そんな位置を利用するものもまたならず者が多いのも確かです。となれば、国の定めた法律など適用されない。いいように使いつぶされて、捨てられる。そして、また別の者がとらえられる。悪循環でしょうね。」


 カルアは、苦虫をかみつぶしたような顔で語る。


「その非合法の奴隷を助けることはできないのですか?」


 美湖も、怒りをあらわにして質問する。


「...あなたは優しい方ですね。妹が専属になるのも納得です。

 確かに助けることはできます。しかし、一度誰かに買われたとなると難しいですね。売られる前であれば、その人さらいの集団をつぶせばよいのです。奴らは盗賊と同じ扱いです。つぶしたところで、むしろ報奨金が支払われるでしょう。」


「カルアさん、もう一つの質問を聞いてもいいですか。僕が望んでいるのは、戦闘ができて、ある程度教養のある人です。一応、予算としては金貨5枚くらいはもってます。」


「ほう、それくらいあればある程度の奴隷は買えるでしょう。何人か見てみますか?」


 カルアに促され、美湖はうなずく。カルアは美湖についてくるように言い、建物の奥に向かっていった。カルアが入ってきた側の扉を開けると、檻が並んでいた。畳3畳くらいの檻に、一人が入れられている。


「この辺りの物であれば、金貨5枚もあればおつりが来ますね。」


 カルアが説明してくれるが、美湖はここではだれかを買うという選択肢はなかった。それは、


「あの、カルアさん。女性の奴隷はいないのですか?僕は、小さいころに男性恐怖症になったので、できれば近くにいてくれるのは女性がいいんですけど。」


 そう、カルアが紹介した奴隷は、すべて男性だったのだ。しかも、筋骨隆々であり、美湖の拒絶センサーがびんびんに反応していた。


「そうでしたか。それは失礼しました。しかし、女性となると金貨5枚では、なかなかに難しいですね。」


「それはどうしてですか?」


 カルアが、煮え切らない態度で言うので、美湖は突っ込んだ。


「女性のあなたに言うのは、はばかられるかもしれませんが、女性の奴隷には、例外を除いて、夜伽が仕事に入ります。なので、その分高くなっているのです。」


 カルアは申し訳なさそうに言う。さすがに美湖もその内容にはどう返していいかわからずにいると、


「あっ、そうでした。一人、格安の女性奴隷がいます。美湖さんの要望通り、戦闘もできて、ある程度の教養もあるでしょう。連れてきますので、先ほどの部屋でお待ちください。」


 カルアはそう言うと、美湖をもとの部屋に戻るように促すと、自分は別の方向に歩いて行ってしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 美湖が、応接室で待っていると、


「お待たせしました。これが、美湖さんに紹介したい奴隷です。」


 と言って、一人の奴隷を応接室に入れた。その奴隷を見た途端、美湖の呼吸が止まった。


 

 カルアが連れてきた奴隷は、どんな誉め言葉も蔑称になってしまうような、絶世の美少女だったのだ。


 


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