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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag7―牢獄の住人―(8)

「……ツカサ……ツカサ……? ふむ……? ……まあいっか、よろしくなツカサ!」


 エルは名字を言わなかった事へか、はたまた別の何かについて引っかかりを感じたのか一瞬何かを考える様な素振りを見せるも直ぐに笑顔になり、嬉しそうに俺と握っていた手を振りだした。


 しかし数秒経ち、急にはっとした表情を浮かべるとこれまた急に手をほどき、わざとらしい咳を一つ溢す。


「ま、まああれだ。エルは大人だからな。大人の対応をしただけだ……こ、これも仕方無くだぞ! ……ほら、行くぞツカサ!」


 最後は乱暴に言うと再び廊下を歩きだし、俺に対して着いてこいとでも言いた気な視線を送る。


「わかったよエル」


 そうして歩く事数分、廊下の先に人影が一つ見えたので俺達が近付いていくと向こうも何かを見つけた様な表情でこちらへ向かって来る。


 段々と相手の様子があらわになる。


 向かって来る人は健康的な褐色肌の大柄な男性で、ジャージの様な物を着ており、青い目に髪型はスキンヘッドで何やらレスラーの様な印象。


 そして目を引くのが鋭い眼光を発する目の上、左眉から外側へと切り裂かれたかの様に見える古い傷痕…………怖くね?


 しかし引き返そうとしてももう遅い、エルが堂々と廊下の真ん中を歩いて男性へと近付いて行くから。


 そして俺達は向き合い……沈黙が漂う。


 俺達は男性へと目を向け、男性はエルに目を向けた後俺をじっと見据えた。


 どれだけその状態が続いただろうか? もしかしたら一瞬の出来事だったのかもしれないが俺にとっては長く感じた頃、男性は動き出し、俺の方へと右手手を伸ばす。


 はたく? それとも避けるべきか? ……いや、ここで動くべきではないかもしれない。雰囲気に呑まれるな……。


 男性の右手は猶も近付いて来きて俺の右手を取ったと共に、男性は俺達によって作り出された静かな空間の中で初めて声を発した。



「ありがとうございます!」



 …………えっ?


 ……よし、現状を整理しよう。俺、迷子の後、同じく迷子のエルと会う、そして二人で脱迷子を目指していると厳つい男性に会い、お礼を言われた。なるほど…………わからん。


 どうしてこうなった?


「えっと何を……」


「お手を煩わしてしまって本当にすみませんでした……。迷子になるとは予想出来ていた筈なのに……」


 なるほど、わかってきたぞ。恐らくこの男性はエルの親。……この親からこの子供……人間って凄い。


「え、エルは迷子ではない!」


「いえいえ、俺自身迷子だったんで」


「それでも、です。ありがとうございます本当に助かりました!」


「エルを無視するなぁー!」


 とりあえずわかった事がある。……この男性凄く良い人だ。見た目は正直言って怖いが腰の低さや挙動を見ると人の良さが伝わってくる。


「そうですか……? あはは……」


 いや、だってさ…………。


「おい! こら! エルは! 空気ではないっ!」



 土下座してるんだよ?



 そりゃもうお手本と呼んで良いレベルに綺麗な姿勢で、何度も床に頭をぶつけながら『ありがとうございます!』だなんて連呼されたら誰だってそう思うだろう。


「あの、顔を上げてください」


「いえいえいえ! こうでもしないと、なんとお礼していいか!」


「そうではなくて、あなたが頭を床にぶつける度に床が陥没していっているんですよ」


「えっ……」




 それから少し経ち、男性は落ち着いた様だが、未だにペコペコと頭を下げてくる。


「いい加減頭下げるのやめてくれませんか?」


「ならどうすれば……」


「じゃあ、女子部屋の場所を教えていただけませんか?」


「それだけで良いのでしたら是非!」


 そう言って俺はここから女子部屋の位置を教えてもらい、二人とは別れた。


 その時エルが俺の方を見ながら『変態……』と呟いていたが……何かしただろうか……?


 そう言った紆余曲折を経て、なんとかルーナの部屋まで辿り着き、扉をノックし、返事が帰って着たので中へと入った。


 部屋に入ると案の定、機嫌の悪そうなお方が一人。


「……遅い! 何ゆっくり来てんのよ!」


「まあまあ、ラナちゃん落ち着いて。ツカサちゃんにも何か事情がある筈よ。ね?」


 ケトルはそう言ってカーミリアさんを落ち着かせようとする。


「わかった、一先ず話は聞くけど、嘘だったり、くだらない理由だったりしたら処分するから」


 処分とか怖い……何するの? 串刺し? 雷を浴びせられる? いや、もっと残酷で残忍で冷酷で……とにかく地獄以上に辛い事に違いない……。


「ところでカーミリアさん、くだらない理由って例えば……?」


「そうね……」


 カーミリアさんは少し目を瞑り考えが纏まったのか目を開き答える。



「迷子とか」



 処分決定。



「座り心地の良さそうな椅子を見つけて優雅に座っていたとか」



 追加処分決定。



「最終的に迷子の人見つけて一緒に迷子の脱出を試みたとか」



 死亡確定、オワタ。



 嗚呼……俺、死ぬんだな……。


「まあ、流石にそれは無いわよね。……さっさとしなさい、処分するわよ」


 拝啓、天国のお父さん、お母さん。どうやらあなた達の息子は処分されちゃう様です。待っててください、俺ももうすぐそっちへ行きます。心配する必要はありません。只、天国に行く前に地獄以上の地獄を経由して行くだけの事ですから。敬具。


「アンタ何清々しい表情浮かべてるの? 気持ち悪いわよ?」


 カーミリアさんがゴミを……コーチを見る時の様な表情をして俺を見てくるが今の俺には関係無く全く辛くない…………わけもなく、内心凄くキツい。肉体の前に精神を削るとはカーミリアさんも中々にえげつない事をしてくるものだ。


「なあカーミリアさん、ツカサが死を受け入れた様な顔してるぞ?」


 コーチはそう言うと俺の方へと近付き、俺に向かって手を差しのべた。


「コーチ、お前……!」


「なあ、ツカサ……」


「何だ……?」


 俺はコーチの次の言葉を待ちながら、鼻血を流すレディを横目に差し出されたコーチの手を掴む……。









「うーん…………こっ!」



 ……事が出来なかった。


 コーチは俺の手をはたき、それだけに留まらず、あろうことか俺に尻を向けて、屁をこいた。


「コーチてめぇぇぇぇぇえええええええ!!」


 こうして、冬季魔闘祭予選一日目の夜は更けていった。

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