Flag7―牢獄の住人―(7)
盲点だった……。
「……どうする?」
話し合った結果、今日のところは六人全員で行動する事になり、俺がどのタイミングで一人になるかは、魔法等の使用が禁止されている宿舎で夜に話をする事になった。
しかし方針が決まり歩き出すも他のクラスの生徒はおろかC組の生徒でさえも見かけない。
そして不気味な雰囲気の中歩き続け、冬季魔闘祭予選一日目の戦闘可能時間は終了し、宿舎へと来た。
……そして現在、柊司、十六歳はいつかのデジャブ飛び交う迷子なうなのである。
「広すぎだろ……」
宿舎の外見は一見城の様、しかし中は温かみの感じられる木を使った造りで、素朴ながらも高級感溢れる雰囲気が漂っている。そして広さは昨日行った王宮位はあるのではないかと思える程大きい……城みたいに造っているのだからそりゃそうか。
その上、この山自体が学園長……エバイン家の私物と朝に言っていたので、この宿舎もエバイン家の私物なのだろう。お金持ちって凄い。
こうなったのには理由があり、明日の事を話す為に誰かの部屋に集まって話しをする事に決まったのだが、男の部屋があるところと女の部屋があるところが離れていた為にどちらの部屋に集まるか、と言う話題になった。
ぶっちゃけ皆どっちでも良いけど相手に移動させるのは申し訳ない……だが動くのも面倒だな、等と思っていたのだが、コーチが『女に手間をかけさせるなんて……ジェントルメンの名折れだぜ……』と言い、別に誰も文句は言わなかったのでルーナの部屋で集まる事に決定し、自由時間の後に移動を始め……今に至る。
……どう見ても俺が悪いですね。本当にありがとうございました。
そしてふらふらと歩いていると、何やら広いホテルのロビーの様な大きい通路に出た。
何やらふかふかとした椅子があったのでそれに座り、少し休憩をする。
温かみのある橙色の灯りにより、少し幻想的な、居心地の良い空間に仕上がっているが、俺以外に人は居らず、何処と無く贅沢な気分だ。
俺が優越感に浸って椅子に体重を預けていると、ふと後ろから声をかけられた。
「おいお前! ここはどこだ!」
振り向くと綺麗な黒髪をはためかし、くりくりとした真っ黒な瞳で睨んでくる、ピンクのパジャマを着た小さな少女が居た。
はて……? 見覚えが無い。誰だここに子供を連れて来たのは……まあ、教師の内の誰かの子供だろう、と心の中で自己解決をし、少女と向き合う。
「君、どうしたんだ? 迷子か?」
すると少女は顔を真っ赤にして、声を荒げた。
「エルは君って名前じゃない! あと、迷子でもないっ!」
「エルちゃん……か? じゃあ何で俺に道を訊いたんだ?」
「エルちゃん言うな! エルはオトナの女性だ!」
「はいはいわかったからエル、もう一回訊くけど迷子じゃないなら何故俺に道を尋ねた?」
するとエルの先程までの勢いは弱まり「そのっ……」とか「えっと……」等と溢すも、最終的には黙ってしまった。
「迷子なんだろ?」
「…………はい」
「エル」
「……はい」
「……エルちゃん」
「はい……ってエルちゃん言うな! エルを子供扱いするなぁ! エルはびゅーてぃふぉーうーまんだ!」
「ああ、はいはい可愛い可愛い」
「だ、だから子供扱いするなって言ってるだろぉ!」
エルはさっきよりも顔を真っ赤にして声を張り上げ、ぽかぽかと俺の胸元を叩くが全く痛くない。
「あー背中を頼む」
「うん、わかった! どうかな? これでもエルは上手なんだよ。えへへ……って何でじゃあ!」
エルはそう叫び肩で息をしながら俺を睨む。やだこの子凄く面白い。
「わかったわかった、真面目に話するから落ち着け」
「なら頭を撫でるな! 手を退けろ!」
これ以上撫でていると本当に怒られそうなので素直に手を退け、俺と向かいにあった椅子に座るように促した。
「なあ、エル」
「何だ?」
「お前、ここまでの道覚えるか?」
「……いや、全く」
エルは何を今更、とでも言いたそうに眉をひそめる。
「気分悪くしたのなら悪かった……けど、実は俺もなんだよ」
「……は?」
エルは目を見張らせ、口を開き、理解出来ていない様な表情で俺を見てくる。
「だから、俺も迷子なんだよ」
「はあああああああ!?」
エルは椅子から勢いよく立ち、俺に詰め寄ってきた。
「お前迷子なら何で優雅に椅子に座ってたんだよ!?」
「何か気持ち良さそうだったから」
「余裕だなおい!」
そう言い、項垂れ地面に両手両膝を着くエル。
「ほら、あれだ。協力すれば何とかなる」
「もう駄目だ……ぐすっ……」
何かエルの目に涙みたいなのが……あれっ? 泣かしちゃった!?
「わ、悪かったっから泣くなって……」
「な、泣いてなんかない! エルは泣いてないよ!」
ならその瞳から溢れてる液体は何ですか……と思ったものの、そんな事を言っても返事は目に見えてるので迷子を脱出する事を目指す。
「とりあえず動こう、ここに居ても誰も来そうな気しないし」
俺はエルの手を引いて立たせ、エルが少し落ち着いたのを見計らい歩き始めた。
ある程度歩き進むと、ずっと黙り俺に手を引かれながら歩いていたエルが俺の腕を引っ張り返し、立ち止まる。
何事かと思い、俺も立ち止まって振り向くとまだ目元が少し赤いエルが戸惑いながら口を開いた。
「あ、あのっ……あ……あり……ありが……とう……」
「……何が?」
「その……エルの我が侭とかに付き合ってくれた礼だ……び、びゅーてぃふぉーうーまんは律義……だからな……。か、カンシャしろよ!」
そう強く言うも、エルはどこか安心した様子で微笑ましい。……子供の成長って早いんだな。
「何ぼーっとしているんだ早く行くぞ!」
エルに手を引っ張られた俺は再び歩みを進める。
「ところでお前」
「どうしたエル?」
「名前は何て言うんだ? 言っとくがお前じゃ呼びにくいから仕方無く名前を訊いてあげているんだからな?」
「……ツカサだ」
フルネームを言おうかどうか一瞬迷ったが、名前だけでいいか、と結論付けて言葉を返す。




