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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag7―牢獄の住人―(6)

「中々厄介だな……。ケトル、これからどうするつもりなんだ?」


「さっきも言った通り十分後にはここを出るわ。向こうもワタシ達がここに居るのは知っているでしょうしね」


「その後は?」


「とりあえず逃げるしか無いわね……」


「中々ハードだな……」


 コーチはポツリと呟き、溜め息を吐く。確かにコーチの言う通りだ……。今は午前十時位だろうから午後七時までの間、約九時間も逃げ切らなければならない。


 敗色の強い現状に重苦しい空気が漂う。


 そしてそんな雰囲気の中、誰も話さずに十分という時間は直ぐに過ぎてしまい、洞窟を抜ける時間となった。


 洞窟を抜けると、先程洞窟に入った時と変わらない雪景色で、他に誰かが居るという雰囲気は感じない。


 樹氷の間を幾らか歩き進み、誰にも感付かれないように行っているといえど生徒の誰とも会う気配さえも無い。


「異様、ですね……」


 ルーナがそんな言葉を洩らす。


「何で物音一つもしないんだ……?」


 向こうはもう既に俺達の居る場所を捕捉出来ていてもおかしくないのにも関わらず何もしてこない。


「エルシー=スチュアートが負けたとか?」


「それは無いわね。アンタが思ってる以上にアイツは強いわ」


「そうか……」


 実際に手合わせした事があるカーミリアさんがそう言うのならエルシー=スチュアートの実力は本物で、こんなところで負ける事は無いのだろう。


 たが、なら何故何もして来ない? 余裕だから? いや、それは有り得ない。もし余裕ならカーミリアさんに負ける筈もなく、わざわざ作戦を立てる必要もないからだ。


 何を考えている……?


「ツカサちゃん、あんまり考え事してると置いてかれちゃうわよ?」


 ケトルにそう言われ、俺は立ち止まってしまっていた足を動かし五人に追いつく。


「何を考えていたんですか?」


「相手が何の目的で攻めて来ないのかなって……ルーナはどう思う?」


「確かに目的が読めませんね……何かの為の準備でしょうか?」


「何かって大規模な魔法……とか?」


「それは無理ね」


「ばっさり切り捨てるのは酷くないかカーミリアさんや……」


「大規模な魔法には魔力や体力も桁外れに使うんだからこんな時には向いてないわ」


「それもそうだな……」


 あくまでこれはバトルロワイヤル。相手は協力しているだけで仲間では無い。


 そしてエルシー=スチュアートがいくら強く、指揮をしている立場であっても、大規模な魔法を使って魔力や体力を大量に消費すると裏切る輩が出てくる可能性も低くはない。もし裏切る輩が出てくると指揮なんか取れる訳もなく向こう方の統制は崩壊するだろうからその線は低い。


 ならば何か他の可能性は……? そんな事を考えようとした矢先、カーミリアさんによって現実に引き戻された。



「よし、アンタ今から一人で行動しなさい」



 …………ほわっと? 何言っちゃってんのこの女王様。馬鹿なの? 死ぬの? 前々から思ってたけどこの人勉強は出来るけど大事なネジが数十本抜けてるんじゃないかな? かな?


「な、何よ! そのこいつ頭おかしいんだなって顔は!?」


「当たり前だろ!? 俺、この中で一番弱い、オッケー?」


「役立たずなんだから仕事が出来て良かったじゃない」


 ブラック企業ワロタ。


「まあまあ落ち着きなよ二人とも。カーミリアさんも何の説明も無しにそんな事言ったらツカサ君だって困惑するよ」


「説明? なあ、レディ。俺が一人で行動する事にメリットがあるのか?」


「相手の能力の発動条件を考えてみなよ」


 レディはそう言い、足元の影を指差す。


 能力の発動条件……相手に影がある事と……


「……一メートル以内に近付いた事がある事……」


「そう、そして転校生のツカサ君はクラスの人達以外との交流は今のところ殆ど無いでしょ?」


「友達居ないのね」


「カーミリアさんには言われたくない!」


「し、失礼ね! アタシは作れないんじゃなくて作らないのよ!」


「はいはい言い訳ご苦労様です。……けど、レディの言う通り俺一人だと相手に気付かれない可能性も高いのか……」


 今の状況を考えると相手の動向を探る為に今日は俺が動き回った方が得策かもしれない。俺一人なら捕捉出来ずに今日一日位なら必死で逃げれば何とかなるだろうし、わざわざ向こうも俺に人員を割くことも無いだろう。残りの五人は言わずもがな、足手まといの俺が居ない方が巧く動ける筈だ。


 そうと決まれば早めに動いた方が良い。という事で俺は五人にその趣旨を説明した。


 五人の反応はまちまちで、それぞれ人となりの反応をする。


「……無理は駄目ですからね? この前みたいな無茶はやめてください。約束……ですよ? ……あっ、死なない程度に頑張ってください」


「ツカサちゃん……アナタも頑張るわね……絶対に残って夜に会いましょう! その時はワタシがあつーい抱擁をして、ア・ゲ・ル! ウフッ! 今夜は、熱い夜になりそうね」


「ツカサ君! ボクの居ないところで他の男の子と絡んだらダメだからね! 絶対だよ? でもボクが……ぶばっ! 居るところなら……ぶはっ! ……いつでも絡んで良いんだよ! ……あれ? ふらふらしてきちゃった……貧血、かな?」


「ぼっち! ぼっち! ツカサのぼっち! ん? ん? お? お? あぁるぇ……もしかして……もしかしてもしかして……も、も、も、も、もしかして寂しいんでちゅかー? 寂しいでちゅよねー? ぼっちだもんねー? ふひひ…………ごめんぬ!!」


「足手まといが減るわね。これならアタシも楽で良いわ」


 皆酷すぎ……レディは応援じゃないしカーミリアさんは冷たいし……何気にルーナの最後一言キツイ……。一番マシなのはケトルか……いや、マシじゃないな……。


「あ、ありがとう……俺、頑張るよ……コーチは死ね。あれ? 違うな死ね。うん? ……死ね。違うか……死ね。ああ、違った死ねだ死ね」


 俺がそう言い、コーチと熱く拳を交わしているとふと、ルーナが何かに気付いた様で皆を集める。


「どうしたんだルーナ?」



「あの……思ったんですけど……この会話も筒抜けなのではないでしょうか……?」



「「「「あっ……」」」」


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