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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag6―心と約束と小さな樹氷―(22)

 ナイトさんの目的地に向かう最中、王宮の廊下でナイトさんはしみじみとした様子で口を開く。


「いやぁ、司君は凄いねぇ」


「何がですか?」


 俺が何かしただろうか? 自分で言うのも悲しいが、先程から恥はかいても誇れる様な事は一つもしていない筈だ。


「司君の出身が異世界だからなのかもしれないけど、この国でも七英雄と皇子様にため口で話せる人はほとんど居ないよ」


「それ誉めてませんよね!?」


 むしろ「何あの方々にタメ口きいてんだよ」って注意されてる様な気がする……。


「まあ、確かに誉められた事じゃないかもしれないけど、それでもロイドさんやレイ皇子は楽しそうだっただろう?」


 そうだったの? 二人とは今日が初対面だったので俺にはいつもの二人の様子はわからないので何とも言えない。


「ロイドさんは普段からあんな感じだけど、レイ皇子は王家という家柄、同年代の友人は居ても皆畏まっちゃって気軽に話せる友人は少なかったからね。だから司君みたいに気兼ねなく話しかけてくれるような友人が出来たのが嬉しいんじゃないかな?」


「そうなんですかね……」


 正直、俺はこの世界の人間では無いので王家がどうだとかはまだわからない。だが、いつも通りレイに接する事がレイの為になるのならお安い御用だ。


 そうして話をしている内に少し古く素朴な雰囲気のする扉の前まで来た。


「ナイトさん、ここは?」


「書斎だよ」


「どうしてここだけ扉の雰囲気が違うんですか?」


「話せば少し長くなるかもしれないから中に入ってからで良いかな?」


「わかりました」


 俺がそう言ったのを確認するとナイトさんは書斎の扉を開いて中へと入って行った。


 俺もナイトさんに続いて書斎へと入る。


「何と言うか……不気味ですね」


 書斎の中は石造りの壁で窓が一つも無く、それなりに広いが本棚が多いせいか少し圧迫感がある。


 その部屋の奥には二つの本棚に挟まれる様に木で出来た机と柔らかそうな皮で出来た黒い椅子があり、どちらも手入れが施されてはいるが年季があり、古い物だとわかる。


 ナイトさんは奥の机へと近づき、机の上に置いてある数冊の本の内の比較的薄い本を手に取る。


「司君、第四次帝締戦についてはもう知っているかい?」


「はい、一応」


 掻い摘んで説明すると第四次帝締戦とはその名の通りこのハルバティリス王国が建国された約六十年前に起きた四回目にして最後の帝締戦――ハルバティリス王国が建国される前にここの土地を統治していた帝国側と反乱軍との間に起きた戦争の事だ。


 そしてこの戦いで反乱軍を勝利に導いたのが七英雄だそうだ。


「ならこの王宮は帝国時代の物を改築した物なのは知っているかい?」


「いえ……知らなかったです。けど、いくらなんでもこの部屋は古すぎませんか?」


「ここはね、ある人の希望で改築しなかったんだよ」


「ある人?」


「うん、レイン=シュラインって言うんだけど」


 ナイトさんは俺が理解出来ているのかを確認するためか俺の顔を伺う。


「それもわかりますよ。さっきですけどレイに教えてもらいましたから」


「そっか、ならわかると思うけどこの書斎はレイン=シュラインが使用していたものなんだよ」


 通りで難しそうな本が多いのか。書斎と聞いて王様が使うのかって思ったけど、そもそもあの王様は本読まなさそうだからな……。


「そしてこの本がレイン=シュラインの日記……所々走り書きとかメモ帳みたいにも使ってるけど一応日記かな」


 ナイトさんはそう言うと手に持っていた本を開き、数回ページを捲ると俺に渡してきた。


 これを読めば良いのかと目線をナイトさんに送るとナイトさん何も言わずに首肯した。


『本日、七人の英雄の一人、シーザー……いや、シゲルは帰った。彼は僕に「お前も来ないのか?」と問うてきたが、僕の行った選択はここへ残る事だった。……ありがとうシゲル……僕は君に出会えて良かった』


 シーザーが帰った? ……どこへだ? 今の文面を見る限りシーザーとレイン=シュラインはまるでもう二度と会えないみたいだ。そもそも教科書にはシーザーは帝締戦が終わると誰も知らない場所へ隠居してしまったと載っていた。これはレイン=シュラインはシーザーの帰る場所を知っていると言う事だろうか? ……とりあえず読み進めてみよう。


『残ると決めた僕だが、せめて帰りは見届けよう。これは僕の義務であり希望だ。もうシゲルは帰る事が出来るのだ』


 ちょっと待て……シーザー……いや、シゲルは……。


「どうかしたのかい司君?」


 俺は急いでレイン=シュラインの日記を読み進める。


『僕達はリアトラの森へとやって来た。僕達が見守る中、シゲルは手を真っ直ぐ伸ばして目の前に大量の魔力を圧縮させる。すると圧縮された魔力は段々と白みを帯びた光へと変わり、輝きが強くなっていくと弾けた。弾けた先には白い魔力が降り注ぐ中、立っているシゲルと同じ位の高さのゲートが出来ていた。……成功だ』

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