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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag6―心と約束と小さな樹氷―(19)

「もうかれこれ七十九年は生きとるの」


「な、七十九!?」


 嘘だろ!? 見た目だって俺より少し年上にしか見えないぞ? チャーリーと言いこの人と言いこの世界の人は寿命が長いのか?


「あの……すみません。ちょっとよろしいですか?」


 俺が驚いて一人で考え込んでいると、ふと、ロイドさんでは無い声に話しかけられた。


 顔を上げるとそこに居たのは先程ロイドさんと木刀を持って向き合っていた青年だ。


「えっと、何?」


 俺がそう言うと青年はその綺麗な金髪の前髪を揺らしながら微笑んだ。


「まず、お名前をお教え戴いても良いですか?」


「……ツカサ=ホーリーツリーだけど?」


 特に問題は無いので正直に答える。


「ツカサ……君、ですね? なら、この人は誰かわかりますか?」


 青年はそう言いながら七十九歳の青年に手を向け、示す。


「ロイドさん……?」


「では僕は誰だかわかりますか?」


 これは当然知らない事なので答えられない。


「ごめん、わからない」


 俺がそう言うと青年は自身の顎に手を当て、俯き、何かを考え込む仕草をする。何か変わった事を言っただろうか?


 少しすると考えが纏まったのか青年は顎に当てていた手を外し、俯いていた顔を上げて俺の目を見た。


「嘘を言ってる訳じゃ無さそうだしな……」


 青年はそう呟き、不思議そうな顔で俺を一瞥するとロイドさんに何か指示するような目線を送った。


「うむ」


 ロイドさんは少し楽しげにそう言い、俺と対面すると、告げた。


「この子はこの国の皇子、レイ=フラウ=ハルバティリスでワシはロイド、名字は昔に捨てたので無いが、一応七英雄の一人に数えられておる」


「……っ!」


 目の前に居るのは、この国の皇子と現在生きている七英雄の一人?


 それって……。



「要は、主は一体何者じゃ?」



 ロイドさんはさも愉快そうに笑う。


 ……少し不味いかもしれない。この国の皇子はもちろん、現在生きている七英雄の顔なら国民であれば知らない筈がない。むしろ知らない事の方がおかしい。怪しまれるのも当たり前だ。


 しかしだからと言って理由を言って信じて貰えるとも思えない。その上ここは王宮。下手に口から出任せを言うよりは“設定”を知っているナイトさんに協力してもらうのが得策だろう。


「俺、最近までリアトラの端っこで暮らしてたから世間に疎いんだよ」


 ……毎回説明しながらも思うが、この言い訳も結構無理矢理な感じがするのは気のせいか?


「嘘くさいのう」


「あまり信じられませんね」


 ですよね。まあ、いつかはこうなるだろうと思っていたけど。


「レイ……様? だっけ? 一応証明はあるんだよ?」


「レイで構いませんよ。では、その証明とは?」


「わかった。じゃあレイ、ナイトさんは分かる?」


 俺がナイトさんの名前を出すとレイは何を思ったのか一瞬眉を上げて反応した。


「は、はい。わかりますよ……」


 どうしたのだろうか? レイ様子が少しおかしい気がする。


「……どうしたんだ?」


「い、いえ。お気になさらず……」


「そうか? まあ、とりあえずナイトさんは俺の保護者みたいな人なんだよ」


「ほ、保護者……」


「レイ……?」


 やっぱり様子がおかしいよな? わなわなと震えてこの世の終わりを見た様な表情してるし。


「保護者……保護者……やっぱり? そんな馬鹿な……。いや、でも……くそっ! 僕は……」


 何コレ……何か俯いてぶつぶつ言い始めたんだけど……。


 少しするとレイは何かを決心した様な表情をしながら顔を上げた。


「ツカサ君……ルーナさんはわかりますか?」


「ルーナか? わかるけど?」


「……では、僕とルーナさんを――」


 その時、王宮の俺達が居る庭とは逆側の方向から爆音がすると、王宮の屋根の向こう側から砂煙が上がった。


「なんじゃ!?」


「…………襲撃でしょうか? 煙は宝物庫の方から上がったように見えます。ロイドさん、ツカサ君、僕は宝物庫へと向かおうと思うのですがお二人は如何なさいますか?」


 レイは苦虫を噛み潰した様な表情をしながらロイドさんと俺を交互に見る。


「俺は着いてくよ」


 流石にここで見て見ぬ振りをするわけにはいかない様な気がする。


「もちろん行くに決まっておろう。この王宮に喧嘩を売った愚か者には痛い目を見てもらわんと気が済まん」


 ロイドさんは愉しそうにカカッとわらうと口角を吊り上げた。


「悪いがワシは先に行っておる。主ら着いた頃にはもう終わっておるかもな。恨むなよ?」


 ロイドさんは続けてそう言うと王宮の屋根へと飛び乗り、煙の方向へと向かって行った。


「ロイドさんの身体能力はいつ見ても凄いですね……。ではツカサ君、僕たちも急ぎましょう」


 俺はレイの後を追いながら時折地響きの聞こえる王宮の廊下を宝物庫へと向かって、走って行く。


 少しして、何度か角を曲がると数十メートル先にT字路が見えた。


「宝物庫はこの先の角を左に曲がった先にあります……」


 そう言いながら俺の前を走るレイの声色は少し硬い。


「わかった。気を引き締めていこう」


 俺は震える体を律しながら答える。


 そして俺達は前方に迫った曲がり角を左へと曲がった。

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