Flag6―心と約束と小さな樹氷―(16)
会わせたい人とは誰だろうか?
しかしそんな事を考えても答えが出る筈も無く、早々に放棄して魔法を覚える為に本を読んだりして時間を潰した。
そして二時の少し前になり、学院の門の前にまで来た。
普段は学院内の店だけで大概事足りるのでここに来るのは久しぶりな気がする。
そうこうして待っているうちに、右手の方角から一台の馬車がやって来て俺の前で止まり、馬車の屋形のドアが開いてそこからナイトさんが顔を出した。
「詳しい説明は移動しながらするから馬車に乗ってくれ」
俺は言われた通りに従い、屋形の中にある椅子に座る。
「いやーこうして顔を合わせるのは久しぶりだねぇ。どうだい? 何か変わった事はあったかな?」
「変わった事と言ったら全部ですね……。魔法を使える様になった事自体、俺にとっては大きな事ですから」
俺がそう言うとナイトさんは少し意地悪にも見える笑みを浮かべた。
「……あの、どうしたんですか?」
「いや、ごめんね。今からの事を考えたら少し楽しみになってきてね」
「これから……ですか?」
「ああ、今から行く場所はね、王宮なんだよ」
「何をしに……?」
「勿論王様に会うんだよ?」
へー……王様に会うのか。あれ? 王様ってそんな簡単に会えるの?
俺が呆気に取られた表情をしていたのを見て、ナイトさんは「大丈夫! 連絡はしてあるから!」と言い、笑顔で右手の親指を上げた。……激しく不安だ。
「すみません、少し外の風に当たってきます……」
そう言い、俺は誰も居ない、御者の座る馬車の前方部分へと出て座った。
「『連絡はしてある』か……あの調子じゃ返事は貰ってないんだろうな……」
『まあまあ、落ち着けって。よくよく考えてみりゃ、ナイトの突発的な行動は今に始まった事じゃないだろ?』
「まあ、確かにそうだけどさ、いくらなんでも王様に一方的に連絡して返事を待たずに行くってのはどうかと思うんだよ」
『確かに“一般的”に見りゃそうだが、あれでもナイトは一時期、宮廷騎士団の副団長を務めていたんだよ。ま、色々あって今は辞めちまったが、研究者としても中々優秀らしいから大丈夫だ。それに、ゲイブ坊……王とも個人的な繋がりもあるからな』
「へー……ナイトさんって意外と凄いんだな」
……あれ? 俺誰と会話してんの?
『HA! HA! HA! “意外と”って中々ひでぇ事言うじゃねぇか! まあ、あのナイトだもんな! ん? どうしたんだ、司?』
「…………」
『どうしたんだ? 何黙りこんでんだよ?』
「いや、何でもない。久しぶりだな、チャーリー」
『心の籠ってない挨拶だな……。俺と話すのが面倒くさそうに聞こえるじゃねぇか』
「ハハッ、まさか……」
『完全に図星じゃねぇか! HA! HA! HA! まあ、良いけど!』
「そりゃ、わざとだし。って良いのかよ」
『俺なら快感に変えれるからな』
「心配して損した」
『HA! HA! HA! 本当に兄ちゃんはおもしれぇな。アイツに似てるくせに似つかねぇとことか特にな!』
「それ誉めてんのか? って言うかアイツって誰だよ?」
『しげ……いや、シーザーって言った方がわかりやすいな。ソイツと目とか雰囲気とかが似てんのよ。まあ、性格は全く違ったけどな』
「シーザーってあのシーザーか? 七英雄の」
『そうだぜ? 俺が出会ったのはアイツが丁度お前位の時で、アイツは大胆不敵で唯我独尊の聞かん坊だったが、芯が通ってる上に人を惹き付ける力があったな。そんでもって中々シンパシーを感じる奴だったぜ』
チャーリーにシンパシーを感じられる英雄って……。
いや、その前にコイツ一体何者だ? 英雄と知り合いって。
「なあ、チャーリー。お前一体何歳だ?」
『ん? 俺はまだまだピッチピチの七十七だぜ? まあ、納得しきれないだろうが俺達【馬】はお前ら人間よりも長生きって事で納得してくれ。あと、シーザーの奴らと仲良くなったのはたまたまだから別にそんな尊敬しないでくれ。HA! HA! 照れるじゃねぇか』
「誰もお前なんか尊敬してねぇよ」
『そう誉めんなって、感じちゃうだろ?』
もう、嫌だこの馬。
俺が立ち上がり、屋形に戻ろうとした時、チャーリーが少し真剣な声色で話しかけてきた。
『司……お前、あんま無茶はすんなよ?』
「どうした? 珍しいな?」
『これでも俺は心配してんのよ』
そう言い、チャーリーは少し空を見上げ、何か小さく呟くと、今度はおちゃらけた様子で首を捻ってこちらに向き言った。
『王宮で白髪ロン毛で青い目をしたイケメンに会ったら気をつけろよ』
「それってどういう……?」
『さあ、行った行った屋形に戻るんだろ? もう少ししたら着くから今の内にゆっくりしておいた方が得策だぜ?』
俺はチャーリーからどういう事なのか聞き出そうと思ったが、答えてくれそうでは無かったので素直に戻る事にした。




